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からだと言葉③――[創作の現場から]まだ見ぬ言葉を彫り出す

教育情報誌「とことば」

2026年10月20日 更新

教室の中と外の世界をつなぐ今日的なテーマを「言葉」を切り口に追いかける教育情報誌「とことば」。
言葉のもつさまざまな側面を切り取りながら、子どもたちに言葉のもつ可能性や豊かな世界に出会わせる方法を考えていきましょう。

言葉を使ってからだが学ぶ。からだを使って言葉を捉える。私たちは、からだと言葉を使いながらさまざまなことを学んでいます。
今号では、学びの場面で、からだの動きや行動は言葉によってどう変化していくのか、身体的な学びを言葉はどう支えることができるのか、さまざまな分野での実践を通して考えます。

まだ見ぬ言葉を彫り出す――「こころを彫る授業」の取り組み/安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄

体の動きや五感の働きは、こころや言葉とどのように結び付いているのでしょうか。石を彫ることを通して自分自身のこころと向き合い、自分を知り、感じることを目ざすワークショップの取材を通して考えます。

雄大な自然に囲まれて

閉校した小学校跡にあるこの美術館は、北海道美唄市と地元出身の彫刻家 安田侃(※)によって1992年に開館しました。広々とした丘陵地を丸ごと利用し、そこかしこで大きな石の彫刻が人々を迎えます。

その一角にある工房からは、毎月初めの土日に石を彫る音が聞こえてきます。夏は緑の敷地に机と椅子を持ち出し、鳥の声や木々のそよぎに囲まれながら、冬は真っ白な雪と石炭ストーブが燃える音に包まれながら、無心で鑿(のみ)を振るう姿があります。

自分の「こころ」を彫る

このワークショップ「こころを彫る授業」が始まったのは20年前。これまでに延べ1万人以上の人々が、ここで「こころ」を彫り続けています。北海道だけでなく、全国各地から参加者が訪れ、なかには15年以上通い続けている人もいるそうです。

参加者は、イタリア産の白大理石に、何か月もかけて自分の「こころ」を彫り出していきます。

この日が2回目という女性は、「緑の空間の中で石と向き合うのはとても楽しい。石を彫るというよりも、こころの形が彫れていく感じがします」と真剣なまなざしで石と向き合っていました。

10年以上通い、四つ目を手がける女性は、「日頃の生活を忘れ、石をぼんやり見ていたり、どうしようかと考えたりする時間がとても充実しています」と、こころのくつろぎに喜びを感じています。

「太古の昔は言葉がなく、石器をたたき割る音の響き合いが言語の起源になったという説があるそうです。ここにいると、石を彫る音で参加者の皆さんが自然とコミュニケーションを取っているように思えてきます」と、同館のスタッフで、道具の使い方などを指導している影山宏明さんは話してくれました。

五感が言葉の卵を育てる

この取り組みを始めた安田侃は、参加者たちにこんなメッセージを送っています。

「石と向かい合って、自分のこころに語りかけて、考えたことを手に伝えて、心臓の鼓動を感じながら彫ってください。石と自分の体が共鳴・共振することで、自分を発見していく、それがこころを彫ることです」

自分の手で石に触れ、彫る音を聞き、鑿の振動を感じ、形が変わっていくさまを見るという全身を使った行為は、こころに働きかけ、思いを生み出します。それが「こころを彫る」ということなのかもしれません。

まだ言葉にならない前のこころの中の思い。それが全身の感覚を通じて大きく育っていく。思いはやがて言葉となって外に出ていくこともあるでしょう。体を使うことは、言葉の卵に栄養を与えることではないかと、参加者たちが石を彫り続けている姿を見ながら思いました。

※安田 侃(1945-)
イタリアのトスカーナにアトリエを構え、大理石とブロンズによる彫刻の創作活動を行っている。東京国際フォーラムや札幌駅JRタワーなど全国各地にモニュメントが設置されているほか、世界中で数多くの作品が人々のこころに共感を与えている。

安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄

広がる景色の中に置かれた彫刻が自然と一体となって息づく空間が、見る人自身のこころを映し、自分との対話ができるように設計されている。今を生きる全ての人が、無心に、自由に、思い思いの時間を過ごすための芸術広場として、多くの人が訪れる。
〒072-0831 北海道美唄市落合町栄町
「こころを彫る授業」は、毎月第1土曜・日曜の10時~16時開催(5月のみ第2土日)。

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