明日も生まれる若者言葉
2024年5月15日 更新
堀尾佳以 宇都宮大学 工学部 留学生担当教員
「タピる」「鬼かわ」…… 若者言葉は昔からあった!? 次々に生まれる言葉の謎に迫ります!
最近の若者言葉で気になる言葉はありますか? 今回は形容詞を見ていきましょう。
まず、若者言葉を使ったSNSを再現してみました。共通語にしてみましょう。
自分:好き♡
相手:MV(ミュージックビデオ)も尊い
自分:見た!唇もプルプルの状態じゃない?
相手:新作リップらしいよ
相手:かわいい
いかがですか?「ハオい(2022)」「てぇてぇ(2018)」「プルい(2023)」「かわちぃ(2023)」が若者言葉ですが、分かりやすいものもあれば、難しいものもあったのではないでしょうか。ここに挙げたものは2024年現在も使用されている形容詞で、( )内の数字は使用され始めたとされる時期です。
では、それぞれの言葉について考えてみましょう。
まず「ハオい」は「好ハオ」から派生して形容詞になったものです。「好ハオ」と書いていますが読み方は「ハオ」で、中国語由来のものです。「好(ハオ)」と、かっこで読み方を示したものから、かっこを省略したもののようですがあえて「ハオ」は省略しなかったところに若者の感じた「おもしろさ」があったのではないでしょうか。
「てぇてぇ」については、元ネタ(語源となったもの)が明確であると言われています。こちらは2018年3月19日、X(旧Twitter)に投稿された画像(URL: https://twitter.com/natanakane/status/977716068582965248)から「尊い」がなまった「てぇてぇ」が使われるようになったようです。こちらは「なまっているからこそおもしろい」ということで拡散した例であると言えます。
次に「プルい」ですが、唇がプルプルの状態を表す表現として使用され始めたようです。現在は唇だけでなく、「プルい豚肉」などと使うこともあるようです。
「かわちぃ」に至っては、「かわいい」をかわいく言ったものです。Youtubeやinstagramでコーデ(コーディネート)を紹介している「Sleepy boy」が発信者と言われており、同じくコーデ紹介をしているSHIGEが「うちゅくしい(=美しい)」を広めたそうです。
それでは少し時代を遡って、次の言葉を元々の語に復元してみてください。
きしょい=気色悪い (平成以降)
ぱない=半端ない (1990年代)
うざい=うざったい (1990年代)
こちらは既に一般にも普及している言葉たちではないでしょうか。元々ある形容詞を省略したものですね。
米川明彦先生は「若者語を科学する(1998)」の中で「日本語には形容詞が少ないため、若者は新たに造語して不足を補い、かつそれを使うことを楽しんでいた」と指摘しています。つまり、日本語の形容詞が増えていくのは自然の流れであり、登場した当初は若者言葉であっても時間を経て定着していくものも多々あるということがうかがえます。
また、現代形容詞用法辞典では「形容詞・副詞は日本民族の文化の宝庫である」という説明があり、形容詞の意味は「核」と「肉」に分けられるそうです。この「意味の肉」は「日本人がどのようなイメージをいだくか、どのようなニュアンスで用いるか、そこにこめられる心理はどのようなものかという、きわめて情緒的な色合いの濃いものであって、日本人共通の文化はここに内臓されており、客観的に記述したり外国語に翻訳したりすることがむずかしい部分である」というのです。
もともとあった言葉を違うニュアンスで使う若者言葉もあります。例えば「やばい」や「えぐい」がそうです。
もともと「やばい」は、危険や悪い結果が予想される意味で使われていました。しかし、1990年代から「やばいっすよ。まじでウマいから」などのように「すごい」「すばらしい」という意味で使用されています。
「えぐい」は、のどを刺激するような味の意味でしたが、比較的最近、「きつい」「厳しい」という意味で使用されています。これは、Youtubeの「チャンネルがーどまん」のドッキリ企画で引っかかった際に「えぐいて」と発言したことが始まりとされています。
今回は形容詞に焦点を当てて見ていきました。1991年出版の現代形容詞用法辞典(1010語)には「きしょい」「ぱない(ぱねぇ)」「うざい」のどれも収録されていなかったのですが、2024年現在では一般的に使用されている言葉と言えるでしょう。
今後も新たな形容詞が生まれ、流行ったり廃れたりすると考えられます。どんな形容詞が残っていくのか、是非、観察してみてください。
Illustration: ネコポンギポンギ
堀尾佳以(ほりお・けい)
宇都宮大学 工学部 留学生担当教員
1976年福岡県生まれ。留学生担当教員。
九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程満期退学。博士(芸術工学)。
専門は言語学、異文化コミュニケーション。
著書に『若者言葉の研究ーSNS時代の言語変化ー』(九州大学出版会)。