
明日も生まれる若者言葉
2024年4月10日 更新
堀尾佳以 宇都宮大学 工学部 留学生担当教員
「タピる」「鬼かわ」…… 若者言葉は昔からあった!? 次々に生まれる言葉の謎に迫ります!
皆さんにクイズです。次の( )に当てはまる言葉を□から選んで書いてみましょう。活用するものもあります。
- ○○さんって優しいし聞き上手だから ( ) だろうね。
- <職場の同僚に> ごめん!急ぎの資料なの。この書類を3部、 ( )て 貰えない?
- わからない言葉あるなら ( ) と良いよ。
- 去年(2023年)、「ひき肉です!」が ( )た よね。
ググる モテる コピる バズる
いかがでしたか?あまり迷うことなく言葉を選べたのではないでしょうか。これは若者言葉によく見られる、「◯◯る」という動詞の形にした言葉が含まれています。
では、選択肢の言葉を見てみましょう。実はここに挙げたものは全て動詞です。
江戸時代には「異性などから好感を持たれ、人気がある」という意味で「「モテる(持てる※1)」という言葉が使われるようになりました。
また、1970年代に普通紙複写機(いわゆるコピー機)が普及したこともあって「コピーをとる」「コピーする」といった表現が広まり、1990年代後半には「コピる」が定着し始め、今では一般的に使用されているかと思います。
このように、新しいモノによる動詞の拡大を容易にするのが動詞化接辞と呼ばれる「-る」なのです。この法則は脈々と受け継がれており、Googleで検索することを指す「ググる」や、SNSなどで爆発的に拡散する「バズる※2」となりました。
つまり、江戸→昭和→平成と、時代を経ても同じルールで同じように新しい言葉を生み出し続けているのです。この「-る」は脈々と受け継がれたルールに則っています。
では、どんな言葉が「-る」の形になるのでしょうか?
日本語は、名詞や外来語に「する」や「る」をつけて動詞化し、語彙を増やしてきました。例えば「勉強する」や「運動する」、「サボる」などです。「-る」は外来語や名詞などについて動詞化し、新しい語をどんどん生み出しているのです。「-る」を付けて動詞となった語彙483語を収集し、その語幹(「-る」の「-」にあたる部分)を分類したものが図1です。

「若者言葉の研究―SNS時代の言語変化」P.30より
2024年現在、もう使われなくなりつつありますが第三次タピオカブームの際には名詞のタピオカを動詞化させた「タピる」が出て来て一世を風靡しました。
同じようにして作られた動詞をいくつか挙げてみましょう。
事故る、ミスる、タクる、鴨る、告る、チクる
意外と身近にある言葉たちではありませんか?(携帯の変換も誤変換することなく、正確に出ます。) そして面白いことに、このルールで作られた動詞は全て、「タピ『ら』ない」、「タピ『り』ます」、「タピ『る』」、「タピ『れ』ば」、「タピ『ろ』う」というように、「あいうえお」の母音が続く五段活用をするのです。これも、皆さんは意識せずとも活用できるでしょう。これって凄いことだと思いませんか?
日本語母語話者のみなさんには時代や年代を超えて、新しい言葉を生み出す法則が受け継がれているのです。
日本語は生きていて、今もなお変化し続けています。新しく生まれていく言葉もあれば使われなくなる言葉もあり、そのパワフルな拡張力・応用力で言葉のもつ豊かさや面白さを見せてくれます。これからも新しいものがどんどん生まれてきて、それに伴って新しい日本語の語彙も増えていくでしょう。その時に動詞はどんなものが出ているかな、と興味を持って日本語を見てみませんか。
- モテるの由来となっている「持てる」は国文法で可能動詞であるため、活用も「-る」の五段活用とは異なるものです。
- バズる=英語のBuzz(ハチがブンブン飛び回るようにうるさい様子)から転じて一気に拡散することを指す
Illustration: ネコポンギポンギ

堀尾佳以(ほりお・けい)
宇都宮大学 工学部 留学生担当教員
1976年福岡県生まれ。留学生担当教員。
九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程満期退学。博士(芸術工学)。
専門は言語学、異文化コミュニケーション。
著書に『若者言葉の研究ーSNS時代の言語変化ー』(九州大学出版会)。
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