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気になる言葉――そしてこれから

明日も生まれる若者言葉

2024年7月1日 更新

堀尾佳以 宇都宮大学 工学部 留学生担当教員

「タピる」「鬼かわ」…… 若者言葉は昔からあった!? 次々に生まれる言葉の謎に迫ります!

みなさんは、初めて聞く言葉や他の人が話している聞き慣れない表現に接したとき、どのように感じるでしょうか。「おもしろい!」と思いますか? それとも「なんなの、その表現?」という拒絶でしょうか。

今回は、最近、気になっている言葉について、見ていきたいと思います。

さて、次の( )にはどんな言葉が入るでしょうか。

毎日ものすごく忙しくて、遊ぶ時間が(       )ない。

「全然」「全く」「ほとんど」などが考えられますが、近年では「ほぼほぼ」も使われるようになりました。

「ほぼほぼ」は、2010年頃から爆発的に広がったと見られていますが、X(旧Twitter)では2007年4月13日がいちばん古いものとして出てきます。「ほぼ」で通じるところを重ねて「ほぼほぼ」としています。
これは畳語で、「ますます」や「いちいち」のように意味を強調する際の手法です。
「ほぼ」を強調しているんですね。

平成 29 年度「国語に関する世論調査」(※1)では、「ほぼほぼ」について下図の結果が出ています。
「ほぼほぼ完成している」という言い方について年代ごとに調査したものですが、使うことがあるのは若者世代が多いですね。

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平成 29 年度「国語に関する世論調査」(文化庁)より

この「ほぼほぼ」は、使用の拡大が急速に広がった「強い」流行語と言えるでしょう。

次に気になる言葉は、(  )に共通して入れられるものです。

  1. 狭いカプセルが(     )落ち着く。(2007年5月18日)
  2. (     )空が明るくなってきた。(2007年4月28日)
  3. その乗り方できるやつ(     )見てみたい。(2024年4月13日)
  4. 憲法改正の手段をわかりやすく説明してて(     )感動してる。(2024年5月31日)
  5. (     )コレは知っているのかぜひお伺いしたいです。(略)(2024年3月14日)

こちらに挙げた例は全てX(旧Twitter)での実際のつぶやきです。

この、1から5の(    )には「逆に」が入ります。予想と合っていたでしょうか。

「逆に」の意味は、「反対に 却って むしろ」とされています。そのため1には「むしろ」、3には「反対に」が入れられるでしょう。
しかし、2や5のように文頭で何の脈絡もなく使用したり、4のように「わかりやすく」と「感動」を繋ぐものとして使用するのは、従来の枠から外れています。

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従来の使用法から外れた「逆に」はビジネスの場面でも使われている(※2)と言います。

■担当者を決めるとき
「この件はAさんが担当したほうがいいと思う」
「逆にBさんのほうがいいんじゃない?」

■報告書チェック
「どれどれ。この数字は逆にここにもってきたほうが見やすいかも。逆に。」

■トラブル報告
「△△社のトラブル対応状況報告ですが…」
「あ、逆に〇〇の件だけど・・・」

これまで3回にわたって日本語の変化、特に若者言葉の特徴を見てきました。無秩序に見える若者言葉にも実はルールがあって、脈々と受け継がれていることがおわかりいただけたかと思います。
もちろん、初めて聞くと意味がわからない言葉が出てくることもあるでしょう。そのときに「乱れ」と捉えるのではなく、新しい表現・新しい言葉の遊びとして受け止めてみてください。

日本語は、今後どのように変化していくのでしょうか。
「次にくる若者言葉は何ですか?」と聞かれることがありますが、かなり難しい質問です。
例えば「きまz」や「おほーん」など、最近ではインフルエンサーと呼ばれる人々が発信する言葉がバズる(=話題になる、注目を集める)ことが多いようです。
若者言葉を作り出す若者世代は「新しい言葉を生み出す力」をもっています。新芽が春になると芽吹くように若者言葉も瑞々しい感覚で新しい言葉たちを次から次へと生み出しているのです。

そして今後の若者言葉はどうなっていくのでしょうか。
必要なところに言葉は生まれると考えます。ただ必要なものというだけでなく、音の響きや表現がおもしろいものも言葉遊びの表現として広がっていくでしょう。
「ググる」のように定着するものもあれば、「激おこぷんぷん丸」など消えていった言葉たちも多数あります。動詞編で取り上げた「動詞化―る」を使って、今後もたくさんの新しい動詞が生まれてくることが予想されます。「プルい」のように、「―い」を付けることで形容詞となる語も出てくるでしょう。

これからも先人たちと同じ手法で増えていく言葉たち。みなさんの周りにある若者言葉を楽しんでみませんか。

参考資料

※1 平成 29 年度「国語に関する世論調査」https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/r1393038_01.pdf

※2【逆に(gyakuni)ぎゃくに】の意味と使い方は?~学校では教えてくれないビジネス日本語講座~https://nextinjapan.com/news/260

Illustration:  ネコポンギポンギ

堀尾佳以先生

堀尾佳以(ほりお・けい)

宇都宮大学 工学部 留学生担当教員

1976年福岡県生まれ。留学生担当教員。
九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程満期退学。博士(芸術工学)。
専門は言語学、異文化コミュニケーション。
著書に『若者言葉の研究ーSNS時代の言語変化ー』(九州大学出版会)。

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