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小さい白いにわとり(小学校1年)

教科書 time travel

2018年10月5日 更新

「昔、たしかに教科書で読んだ気がする。ストーリーは覚えているんだけど題名を思い出せません」

過去の教科書掲載作品から、特にお問い合わせが多い作品を取り上げて、あらすじや編集にまつわるエピソードをご紹介します。

画像、小さい白いにわとり

小さい白いにわとりが「この麦、誰がまきますか?」と尋ねると、ぶたも、ねこも、犬も、「いやだ」と答えます。小さい白いにわとりはひとりで麦をまき、大きくなった麦の前で「誰が刈りますか?」と尋ねると、今度もみんなから「いやだ」という答えが返ってきます。
「粉にひきますか?」と尋ねても、「パンに焼きますか?」と尋ねても、答えはやっぱり「いやだ」。小さい白いにわとりはひとりで粉にひき、パンに焼きました。
でも最後に、「このパン、誰が食べますか?」と尋ねると、ぶたも、ねこも、犬も、いっせいに「食べる」と答えました。

【作者・筆者】
ウクライナ民話

【掲載巻/版】
1年上巻/昭和36年度版・昭和46年度版・昭和49年度版
1年下巻/昭和33年度版・昭和40年度版・昭和43年度版

編集にまつわるエピソード

昭和33年度版から49年度版まで、長く掲載されていた作品です。ウクライナ民話をもとにしたお話で、小学校1年生の教科書に登場しました。
麦をまいたり、刈り取ったり、パンに焼いたりする仕事があるたびに、みんなの返事は「いやだ」。なのに、いよいよパンが焼き上がったら、打って変わって「食べる」。これを聞いたにわとりが何と答えたのかは、教科書には書かれていません。

確かに1年生にも理解できる、繰り返し場面の短いお話ですが、今読むと、人の心の奥底をのぞくような、空恐ろしい気にさせられるお話でもあります。同じく繰り返し構成の作品でも、登場人物たちが力を合わせて一つのことを成し遂げる「大きなかぶ」とはまるで違う色合いです。だけど、現実世界では「大きなかぶ」に出てくる犬やねこやねずみより、「小さい白いにわとり」に出てくるぶたやねこや犬のほうが、実際にいそうな気がします。

子どもたちが作品を読み終えたら、間違いなく先生は「さて、小さい白いにわとりは何と答えたでしょう?」と質問したでしょうね。「はい!」「はい!」「はい!」と勢いよく手を挙げて、当時の1年生たちは、どんなことを答えたのでしょう。

この作品を覚えていた友人たち(大昔の1年生たち)と話をする機会がありましたが、その当時「世の中が信じられなくなった」と悲観した者も、「何事も他人にやってもらうのが一番だ」と答えた者もいなかったようです。

「まあ、世の中にはいろんな人がいるしね」
「そうそう。持ちつ持たれつよ」

うん。そんなもんか。僕もこれを勉強した一人です。先生の質問に自分がどう答えたかは覚えていませんが、子ども時代の自分を思うと、いかにも先生が喜びそうな答えを言った気がして恥ずかしい限りです。
だけど、当時の先生たちは、1年生の僕らに、どんな答えを期待していたんでしょう。もっと早くに気づいていたら、何かの同窓会で聞くことができたのですが。

文: 編集部

『光村ライブラリー 小学校編 第3巻』

過去の教科書掲載作品を収録したアンソロジー。
「小さい白いにわとり」をお読みいただけます。

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