みつむら web magazine

赤い実はじけた(小学校6年)

教科書 time travel

2018年10月5日 更新

「昔、たしかに教科書で読んだ気がする。ストーリーは覚えているんだけど題名を思い出せません」

過去の教科書掲載作品から、特にお問い合わせが多い作品を取り上げて、あらすじや編集にまつわるエピソードをご紹介します。

画像、赤い実はじけた

パチン。そのとき、6年生の綾子の胸の中で、何かがはじけた。同じクラスの哲夫が、実家の魚屋を手伝っている姿を目にしたときだった。哲夫とは1年生から一緒で、それまで何も感じなかったのに。それどころか、どちらかというと「声が大きくて、ちょっと怖いな」としか思わなかったのに……。
「不思議なのよ。綾ちゃんも、いつか赤い実がはじけるわよ」
いとこの千代が言っていたのは、このことだろうか。

【作者/挿絵】
名木田恵子 作/三木由記子 絵

【掲載巻/版】
6年上巻/平成4年度版・平成8年度版

編集にまつわるエピソード

平成4年度版に登場した作品です。「今の子どもたちの身近な世界を教科書に載せたい」「初恋ストーリーはどうだろう」という議論の中で、書きおろしを依頼しようということになりました。
なら、誰にお願いしようか。お名前が挙がったのが、名木田恵子さんでした。漫画『キャンディ・キャンディ』の原作者であり、コバルトでも絶大な人気を誇る名木田さんでしたが、「コバルトならともかく、初恋ストーリーが教科書教材になるだろうか」と不安の声を漏らす古参の編集部員もいて、駆け出し編集者の僕は、期待と不安を抱えて待ち合わせ場所に出向きました。

「名木田さん、どうして子どもたちの恋愛ストーリーをお書きになるんですか?」
僕は、いちばんききたかったことを最初に質問しました。くすっと笑った後、こんな答えが返ってきました。

「子どもって、誰かを好きになっても、何か成就できるわけではないでしょう? 結婚するとか、一緒に暮らすとか。それでも、『あの子のことが好き』という思いは止められない。だから、そんな子どもたちを応援したいの。『その気持ち、わかるよ。きっと、こんなふうじゃない?』って。そう思いながら、作品を書いているのよ」

そうだったのか。僕はその返事を聞いて、この人に会ってよかった、この人にこそ書いてもらいたいと確信しました。

「6年生のとき、どんな男の子だった?」「クラスには、どんな女の子がいた?」
その後は、打ち合わせというより、楽しくて温かい、くすぐったいような時間だったことを覚えています。

シール(名木田さんはシールが大好きです)で封止めされた原稿が届くまでに、1週間とかかりませんでした。開くと、最初の行に、柔らかな手書きの文字で「赤い実はじけた」というタイトルがありました。あれ以来、名木田さんからいただく手紙は、いつもかわいらしいシールで封止めされています。

文: 編集部

『光村ライブラリー 小学校編 第15巻』

過去の教科書掲載作品を収録したアンソロジー。
「赤い実はじけた」をお読みいただけます。

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