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子ねこをだいて(小学校5年)

教科書 time travel

2023年8月7日 更新

「昔、たしかに教科書で読んだ気がする。ストーリーは覚えているんだけど題名を思い出せません」

過去の教科書掲載作品から、特にお問い合わせが多い作品を取り上げて、あらすじや編集にまつわるエピソードをご紹介します。

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家で動物が飼えないことはわかっていた。それでも家に連れて帰ったのは、その子ねこがずっと後をついてきたから。妹のぜんそくを心配する母に諭され、子ねこを元の場所へ戻そうとするが、勘違いをしたおじさんに「ねこを捨てたらだめじゃないか」と、止められてしまう。

しかたなく、「ぼく」は、妹と一緒に、飼ってくれる人を探し歩くことにして――。

【作者/挿絵】
那須正幹 作/峰岸 達 絵

【掲載巻/版】
5年上巻/平成4年度版

編集にまつわるエピソード

那須正幹さんの代表作「ズッコケ三人組」シリーズは、売上総数2500万部ともいわれており、第1作『それいけズッコケ三人組』(1978年)から第50作『ズッコケ三人組の卒業式』(2004年)まで、実に30年近くも、子どもたちの支持を得てきました。
こんなお化けシリーズは、なかなか生まれるものではないでしょう。

そんな那須さんに、平成4(1992)年度版小学校教科書の書きおろしをお願いに行くわけですが、当時は「ズッコケ」人気の絶頂期で、子どもたちの圧倒的支持と、一部大人たちの冷ややかな批判がせめぎ合っていた時代でした。
「おもしろいだけで、これが児童文学といえるのか」。批判のほとんどはそんな声で、当時、「ズッコケ」と矢玉四郎さんの『はれときどきぶた』は図書館に置かないという学校・自治体のことを伝える記事が、新聞紙面をにぎわしたこともありました(あまりに貸し出し希望が多いので、図書館の混乱を避けるために置かなかったのだという証言も、後から出てきましたが)。

そんな作家に向かって、「教科書に書いてください」とお願いするのです。優れた作家であることは疑う余地もありませんが、「教科書的」という言葉があるなら、対極にいるのがこの人かもしれない。いや、だからこそお願いするんじゃないか。
お住まいのある山口県防府市に向かう途中も、自問自答は続きました。

「駅に着いたら電話して。迎えに行くよ」と言ってくれた那須さんは、カローラに乗って現れました。カーラジオから流れていたのは、トワ・エ・モアの「誰もいない海」。それより驚いたのは、後ろのシートに3歳くらいの女の子がごろ寝していたことです。
「下の娘よ」。
それはわかったけれど、どうして編集者と待ち合わせる車に?
「どうしてって、東京から人が来る言うたら、わたしも行くって。子どもって、そんなもんよ」。那須さんは、涼しい顔でそう答えました。

何回か防府のお宅を訪ね、できあがった作品が「子ねこをだいて」でした。子ねこを拾った主人公がお母さんに叱られ、自分の代わりに飼ってくれる人を探し歩くというお話です。
主人公の行動はそれなりに立派なのだけれど、「こうしなくてはならない」という息苦しい「規範」意識などなく、「みんなに断られたけど、もうちょっと探してみようかな」的な気楽さがどこかにありました。
「子どもって、そんなもんよ」という那須さんの意識の表れかなと思うようになったのは、作品が完成したよりもっと後、自分に子どもができてからです。

「子ねこをだいて」が教科書に掲載されなくなった後も、何かのパーティー(「ズッコケ」関係は、やたらパーティーが多かった)があれば、一作しか担当しなかった自分を必ず招いてくださった那須さんでしたが、2022年7月14日の「偲ぶ会」のご案内が最後の招待状になってしまいました。
「遊びは学校。友達は先生」。那須さんが、よく色紙に書かれていたのは、およそ作家らしくない平易な言葉でした。「わしは、あんたらの味方やよ」という思いが、時代を超えて子どもたちに届いていたことは間違いありません。

文: 編集部

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『光村ライブラリー 小学校編 第13巻』

過去の教科書掲載作品を収録したアンソロジー。
「子ねこをだいて」をお読みいただけます。

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