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スペシャルインタビュー マライ・メントライン [後編]

「飛ぶ教室」のご紹介

2018年2月20日 更新

「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版

児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。

スペシャルインタビュー マライ・メントライン「想像力がはじける秘密」 [後編]

「飛ぶ教室」第52号の特集ページは、世界の子どもたちを見つめる「世界一周旅行!」。レポートやエッセイはもちろん、「飛ぶ教室」らしく短編も入れました。
その短編の1編「ケバブ」を執筆してくださったマライ・メントラインさんにお話をうかがいます。後編の今回は、マライさんが小さい頃から好きだったことや、日本の絵本の自由さについてです。

画像、「飛ぶ教室」第52号
「飛ぶ教室」第52号

 

画像、マライ・メントラインさん
マライ・メントラインさん

言語への興味

マライ ドイツは地理的に西ヨーロッパの真ん中で、九つの国と陸地で接しているので、すぐ「外国」に行けるんです。私が住んでいたキールからだと、ドイツの首都ベルリンに行くよりも、デンマークの首都コペンハーゲンに行くほうが、早いんじゃないかな。「外国旅行に行くぞ!」と意気込むこともなく、小さい頃から国境を越えていました。
デンマークのテレビチャンネルも普通に受信できていたので、言葉がわからないままにデンマークの子ども番組を楽しみにしていたみたいです。

テレビ番組のお話が出ましたが、本についてはどうでしたか?

マライ 外国の本は、日本に比べると入手しやすかったと思います。普通の本屋さんの児童書コーナーでも、ドイツ語のほかにいろいろな言語の本が置いてありました。翻訳された外国の本も多かったですね。
私が子どもの頃に好きだったのは、「ぞうのババール」シリーズ(ジャン・ド・ブリュノフ 作)なんですが、その絵本の原書であるフランス語版や翻訳された英語版などドイツ語以外のものも親に買ってもらって、それぞれの文字を比べたりして楽しんでいました。
そうやって言葉を知ると、私は実際に使いたくなるんですね。フランスのキャンプ場に遊びに行ったときには、そこに来ていた現地の子どもたちに、覚えたフランス語で話しかけました。小さいながらに、「あっちにはあっちの言葉があるから、その言葉を覚えたほうがもっと親しくなれる」と思ったんだと思います。

小さい頃から言葉や文字に興味があったんですね。

マライ そうですね。どうしてかはわからないですが、ずっといろんな言語に興味があります。やっぱり、そのキャンプ場での楽しい経験が大きいのかもしれません。

ずっと想像していた日本

日本や日本語とは、どんなふうに出会ったんですか?

マライ やはり本が出会いでしたね。5歳ごろだったかな。その本というのは、世界の子どもたちがそれぞれ、どんな服を着て、どんな生活をしているかということを、イラストで紹介している絵本なんですが、そこに日本も取り上げられていたんです。日本の子どもたちは、畳の部屋で布団を敷いて寝る。朝になると、その布団をたたみ、押し入れにしまう、と。それを見て、「なんて楽しいんだろう! 毎日がお泊り会みたい!」と、ポジティブな意味でのカルチャーショックを受けました(笑)。ベッドをクローゼットに入れるというのは、ドイツの感覚ではないことですから。
神社やお寺といった建築物も描いてあって、形にも色合いにもひかれて、ずっと眺めていました。

そうすると、実際に日本を見てみたいなあ、行ってみたいなあ、と?

マライ 思いました。ただ、まだ5歳でしたから、自分の脳内で日本を想像して遊んでいました。今、外に出たら、北ドイツの風景じゃなくて、日本の竹林の中だ、とかって。ほかにも、「私が日本で建てる予定の家」を絵で描いたり、架空の漢字をつくったり……どっぷり、はまっていましたね(笑)。
その様子に、親戚からは「アジア好きのマライ」と呼ばれ、誕生日には、箸や箸置き、和傘なんかをもらっていましたよ。
それがもうちょっと現実的になったのが、14歳の頃。学校とは別に、大人に交じって、市民大学で日本語講座を受講し始めました。小さい頃のキャンプ場のときのように、行くんだったら話したい、話せるんだったら行きたいという、どちらが先ともいえないけど、日本への気持ちがさらに動いたんです。

そんなふうに想像をいっぱいに膨らませていた日本に初めて降り立ったのは16歳のとき。姫路の高校の留学生としてだったんですよね? 印象はどうでしたか?

マライ すっごくわくわくしましたね。姫路へ行く前には東京観光もあったんですが、東京はハイテクなものとローテクなものが入り混じった、いい意味で想像そのままの世界でした。
でも、姫路に移動してからは、カルチャーショックの連続で(笑)。例えば、高校に向かう狭い田舎道。通学路なのに、その道には自転車のための走行スペースがなく、脇には深い溝(田んぼの用水路)があって、大きなトラックがガンガン走る……、溝に落ちないようにと、もう怖くて、怖くて(笑)。

画像、マライ・メントラインさん

日本の絵本は自由!

日本の本のなかで、ドイツにあるといいなと思われるものはありますか?

マライ 絵本だと『100万回生きたねこ』(佐野洋子 作/講談社)が好きなので、そのような本があるといいですね。
それから、うんち系の子どもの本! ドイツの子どもたちも日本の子どもたちと同じように興味あるものだから、いいんじゃないかな?

子どもたちがうんちに興味をもつのは、世界共通ですね。

マライ 「自分が生み出したもの」だからかな?(笑)
それにしても、日本の絵本は自由ですね。大人の世界でタブー視されていることも、おもしろく描く。純粋に気になるものとか、日常にあるものとか、そして、死とか、そういう大事なものを題材にして描かれた子どもの本は、大人の文学より優れているんじゃないかなと思うくらい素敵です。だからなのか、日本では、大人も絵本を読んでいますよね。
アーティストも活躍できる日本の絵本。本当に自由でおもしろいなあって思います。……いいなあ。

マライさんもどうですか?

マライ いいですね!(笑) 文章、絵、写真……、欲張りですが、いろんなことに挑戦していきたいです。
今、高校生と接する機会があって、自分の年齢の半分くらいの彼女たちを前にしたとき、そろそろ自分も「プチ先輩」になる時期かなと考えるんです。
先日ドイツに戻ったときに、91歳になる方から戦争の話を聞く機会があったんですが、オーストリア人の彼はドイツ人とはまた違った角度で戦争を見ていました。彼の話を聞きながら、どんな気持ちでその時代を生きてきたんだろう、そして今を生きているんだろうと、とても考えさせられました。
人間はジェネレーションごとにシフトしていきますが、その時々で「大事なもの」があります。私の人生は、ドイツと日本の両方を生きているという、ちょっと変わった人生なので、そのなかで感じることや考えたことも加えて、彼が私に語ってくれたように、次の世代に伝えられたらいいなあと思います。

画像、マライ・メントラインさん

マライ・メントライン

1983年シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州キール生まれ。独・和翻訳家、TVディレクター。著書『ドイツ語エッセイ 笑うときにも真面目なんです』ほか

 

「飛ぶ教室」第52号のアンケートにお答えいただいた方から抽選で、マライさんの著書『ドイツ語エッセイ 笑うときにも真面目なんです』(NHK出版)をサイン付きでプレゼントいたします。詳しくは、本誌をご覧ください(なお、ご応募の締め切りは、2018年4月24日です)。

 

「飛ぶ教室」52号の内容は、こちらからご覧いただけます。

飛ぶ教室 第52号(2018年冬)

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