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通常学級での特別支援教育 第8回

通常学級での特別支援教育

2016年12月7日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第8回 「気になる子」を気にしすぎる子

今日のポイント

  • クラスには、「『気になる子』を気にしすぎる子」がいる。そのため、「気になる子」だけを取り上げて支援しようとすると、クラスが落ち着かない雰囲気になってしまうことがある。
  • 学級経営では、そうした周囲の「気にしすぎる子」を優先的に支えることが重要となる。
  • 「気にしすぎる子」のタイプの特徴を理解しながら、対応を考える必要がある。

通常学級では、配慮が必要な子どもだけを取り上げて支援しようとすると、クラスが落ち着かない雰囲気になってしまうことがあります。配慮が必要な子どもの存在を気にする子がいるからです。この、いわば「『気になる子』を気にしすぎる子」ともいえるような子どもの登場をできるかぎりなくしていくことが大切だと感じています。

通常学級の特別支援教育において、「『気になる子』を気にしすぎる子」への対策の大切さを看破したのは、阿部利彦先生(星槎大学大学院准教授)です。ここでは、阿部先生のご講演や書籍を参考にしつつ、また、私自身の巡回相談の経験も踏まえながら、特徴と対応を整理していきたいと思います。

画像、いろいろな子

1 問題となる行動をまねてしまうタイプ

まず取り上げるのは、離席や授業中の奇声・口笛、授業内容に関係のない私語などをまねる子どもです。

このタイプの子どもには、学習の理解度が低い、基本的生活習慣が身についていないといった特徴があります。日常生活全般で褒められることが少なく、自尊感情が乏しいといえます。また、依存性が高く、主体的に行動するよりも「誰かがやるから、自分もやる」という感覚で行動します。そのため、叱ると「なんでオレだけ?」という言葉が返ってきます。日常の口癖は「つまんない」「あぁー、ひまー」。年度初めの4月は様子見をしていて、ゴールデンウィーク明けから頭角を現すことが多いとされています。

一番の対応策は「授業の中で存分に活躍させてあげること」です。特に導入時に参加感を高めておくことが必要で、既習の内容について確認する際に、その子がわかっていることを発表させたり、全員参加の挙手場面(例えば、YESの人はパーで挙手。NOの人はグーで挙手。どちらか必ず挙手するなど)を設定したりして、授業に対する動機づけを高めるようにします。

2 失敗にめざとく、わざと刺激になるような関わりをするタイプ

他者の失敗を見過ごさないタイプの子どもも、「気になる子」の存在が気になってしかたがないようです。マイナス方向に頭を使ってしまうことがあり、すれ違いざまに相手が嫌がることをボソッとつぶやきます。相手が怒るのを楽しんでいるようなところがあります。いわば、怒りの導火線に火をつけて回るような子どもです。

日常の口癖は「だって、あいつが〇〇だから」。自分を振り返ることが苦手で、よく言い訳もします。行動の基準がぶれやすいのも特徴の一つです。

一番の対応策は「承認欲求を満たすこと」です。認められていると感じているときには、あまり他者を追い込むような姿は見せないからです。例えば、問題となる行動を叱る場面であったとしても「見込みがあるからこそ、厳しく言わせてもらう」「あなたがいちばん変われる可能性があるから、最初に声をかけた」「先生は、変われる子しか叱らない!」などの言葉かけをし、叱られているはずなのに認められているという感覚をもたせるようにします。

3 裏でコントロールするタイプ

表立って何かするわけではないのですが、大人の見えないところで、クラスメイトの同調圧力を高めるキーパーソンになっている子どもがいます。クラスでは一目置かれた存在であることが多いといえます。

不登校児のお世話を買って出たり、学力やスポーツなどに秀でていたりする場合が多いために、「まさか、あの子が……」と大人から気づかれにくいこともあります。このタイプはとても賢い(ずる賢い)ところがあって、周囲の子どもを動かすときに直接的に「やれ!」と命令するようなことはしません。「あの子に〇〇って言ってみると、おもしろいよね」というたぐいのことを言い、巧みに動かします。道徳心が育っていないと、このような問題が長引くことがあります。

見つけ出すポイントは、クラス全体の盛り上がりの場面です。このタイプの子どもは、盛り上がりにはほとんど加わりません。そろそろ先生がたしなめようかなと思うその瞬間、タイミングよく「おい、そろそろ静かにしようぜ」とか「お前ら、いつまでやってるんだよ」などと場を仕切ります。時には「先生をこれ以上困らせるなよ」というようなことを言って、頼りになる子どもを演じることもあります。

一番の対応策は、「自立心を尊重し、大人と同じように扱うこと」です。彼らは、同学年の子どもたちよりも大人に見られたいところがあります。そのため子ども扱いを極端に嫌がります。少し背伸びしたい気持ちを尊重し、大人(に近い存在)としてのふるまいを教えて、よき方向に導いてあげるようにします。


〈参考文献〉
阿部利彦(2014)『通常学級のユニバーサルデザイン プランZero』東洋館出版社

次回は、「なんでオレだけ?!」と不満を口にする子への指導を考えます。

Illustration: Jin Kitamura


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