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通常学級での特別支援教育 第9回

通常学級での特別支援教育

2017年1月11日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第9回 「なんでオレだけ?!」に対する指導

今日のポイント

  • 叱られるようなことをしているにも関わらず、「なんでオレだけ?!」と反発する子どもの問題を突き詰めると、大人側にも見直すべきポイントが浮かび上がってくる。
  • 子どもを変えようとする前に、大人が変わらなければならないことに目を向ける。
  • 子どもの可能性を信じつつ叱るこつを知り、子どもの自尊感情を大切にする。

叱ると「なんでオレだけ?!」や「どうして自分ばっかり……?!」と不満を口にする子どもがいます。大人としては、目の前に叱らざるをえない状況が生じているからこそ叱るわけですが、子どものほうも「納得がいかない」という態度を示します。事態が硬直化してしまうことも少なくないようです。

「叱られるようなことをしておきながら、その態度は何だ!」と声を荒らげてしまったという方もきっといることでしょう。今回は、そんな「なんでオレだけ?!」に対する指導を考えます。

画像、子ども

「なんでオレだけ?!」と反発されるような場面に直面すると、たいてい子どもの側に「自覚がない」とか「反省しようとしない」などの問題があるかのように思われがちです。しかし実際には、大人側にも「どうして自分ばかり……」と子どもに感じさせてしまっている“何か”があります。その“何か”は、以下のように整理できます。

「なんでオレだけ」「どうして自分ばかり」と子どもに感じさせる“何か”とは……

  1. 本当に、その子どものマイナス行動ばかりに目をつけてしまっている。
  2. 他の子どもの場合は許せることも、その子どもの場合には許せなくなっている。
  3. 子どもに合わせようとするのではなく、大人の期待値を押し付けてしまっている。
  4. その子の行動面のつまずきを理解しないまま、熱心に行動を直そうとしている。
  5. 「信じられる・頼られる・慕われる・親しまれる・敬われる」のいずれかに欠けたところがある。

(1)本当に、その子どものマイナス行動ばかりに目をつけてしまってはいませんか?

「この子さえいなければクラスは落ち着くのに……」という気持ちを抱いていると、どうしても子どものマイナス行動ばかりが気になってしまいます。知らず知らずのうちに、本当にその子ばかりを叱り続けているのかもしれません。「叱られ続けている」と子どもに感じさせてしまうと、その子はしだいにクラスの中で居場所がなくなり、居心地が悪くなります。そして、それ以前よりも「防衛・拒否・反撃」などの行動で居場所づくりをしようとします。こうした悪循環は早く断ち切る必要がありますから、大人のほうが気持ちを切り替えていかなければなりません。

(2)他の子どもの場合は許せることも、その子どもの場合には許せなくなってはいませんか?

その子どもの過去の過ちを大人側が許せていなかったり、忘れていなかったりすると、こうした事態になりやすいようです。「そういえば、この前も……」など、過去を引き合いに出すような発言が思わず口をついて出てくるようなことがあれば、要注意です。

(3)子どもに合わせようとするのではなく、大人の期待値を押し付けてしまってはいませんか?

子どもの変化は促成栽培のようにはいきません。むしろ、大人が期待するようには育たないということのほうが多いと思います。急いで子どもを変えようとして、焦っているようなことはないか、自分を見つめ直す必要があるかもしれません。

(4)その子の行動面のつまずきを理解しないまま、熱心に行動を直そうとしてはいませんか?

教育活動において「熱心」であることはとても大切なことだと思います。しかし、仮にその子に発達障害がある場合、無理解や誤解のまま熱心な指導を繰り返していると、かえって当事者である子どもの状態が悪化してしまうことが少なくありません。児童精神科の医師である佐々木正美先生は、このような大人を「熱心な無理解者」とよんでいます。正しく理解することで、「なんでオレだけ?!」と感じさせる場面を減らしましょう。

(5)「信じられる・頼られる・慕われる・親しまれる・敬われる」のいずれかに欠けたところはありませんか?

子ども自身が「変わりたい」という意欲を抱くのは、教師に憧れを感じたときであると語る野口芳宏先生(植草学園大学名誉教授)は、教育の成立には「信・敬・慕」の三つが不可欠であるといいます。

  • 学習者である子どもたちから信じられ、頼られるべく己を磨き続ける教師たること。
  • 子どもたちから敬われる姿勢を保つ教師たること。
  • 懐の大きさと謙虚な正直さで、親しまれ、慕われる教師たること。

子どもたちは、そんな大人の姿をよく見ています。子どもを変えようとする前に、大人自身が変わる……これこそがもっとも大切なことなのかもしれません。


ここからは、「なんでオレだけ?!」への具体的な対応です。

まず、学期初めなどの節目の時期に、全体指導でこのように伝えます。

「先生は視野が広いので、クラス全体が見えます。ただ、口は一つの方向しか向いていないので、その方向にいる子には、“自分だけを叱っている”ように感じられるかもしれません。でも、特定の誰かだけを叱るということはありません」

ただ、こう伝えてもやっぱり「なんでオレだけ?!」と言ってくる子どもはいるはずです。そんなときには冷静にこう伝えます。

「先生は、変われる見込みがある子にしか声をかけません」
「あなたがいちばん見込みがあるから、最初に声をかけました」

叱りつつも、「あなたには大きな可能性がある」ということを伝え、自尊感情を高めてあげたいものです。


〈参考文献〉
野口芳宏(2013)『教師の心に響く55の名言』学陽書房

次回は、保護者の理解を得るために必要な配慮について取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura


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