みつむら web magazine

通常学級での特別支援教育 第30回

通常学級での特別支援教育

2018年10月24日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第30回 子どもの心に響く褒め方(2)

今日のポイント

  • 暴言やふざけた行動などの不適切な行動を繰り返す子どもについては、「叱らなくて済む場面」こそ「許せる場面」だと捉え直して、「認める・褒めるチャンス」につなげるとよい。
  • 不適切な行動を取り続ける子どもへの関わり方のカギは、特別支援教育の分野でも「褒める」ことだとされている。しかし、周囲の子どもたちに不公平感を抱かせないような褒め方が求められる。
  • 普段から「適切な行動をするあなたを見たい」というメッセージを送るような関係づくりをベースにし、適切な行動を取った瞬間にタイミングよく声かけができると、その子の心に響く。また、この声かけであれば、周囲の子どもたちの不公平感にはつながらない。

前回に続いて、子どもの心に響く褒め方について考えます。

第29回 子どもの心に響く褒め方(1)

不適切な行動を繰り返す子どもの場合

暴言や汚言、無気力やふざけた行動など、目立つ行動を繰り返す子どもの場合、不適切な行動をあえてすることで「居場所づくり」をしていることがあります(赤坂、2018)。それらの不適切な行動をいちいち取り上げて叱りつけてしまうと、その子の居場所はできません。

画像、不適切な行動を繰り返す子ども

そこで、不適切な行動以外の部分に着目するようにします。人は、どうしても相手の「できていない部分」に目が向いてしまう習性をもっているものです。まずは、「できていない部分」からは目を逸らし、叱らなければならないような行動以外はすべて「許せる場面」だと考えるようにしましょう。

そう考えられるようになると、関わりのヒントを以下のように見いだすことができるようになります。

叱らなくて済む場面 = すべて「許せる場面」 ≒ 認めたり、褒めたりするチャンス

もしかしたら、そんな場面は「できて当たり前だから」と見過ごしていたかもしれません。でも、その当たり前に見える行動の中には、子どもの立場からするとその子なりに苦労しながらやっていることもあります。「叱らなくて済む場面」を「許せる場面」とみなし、ためらわずに声をかけてみましょう。

では、具体的にどんな声かけをするのがよいのでしょうか。特別支援教育に関する書籍を見ると、多くは不適切な行動を繰り返す子に対する関わり方のカギとして、やはり「褒める」ことが強調されています。たしかに間違ってはいないのですが、その一方で、通常学級ではもっとがんばって適切な行動で「居場所づくり」を続けている子がたくさんいます。「そんながんばっている子どもたちを差し置いて、褒めるわけにはいかない」という気持ちを抱く先生もいることでしょう。

周囲の子どもたちの不公平感を生み出すリスクを冒すような褒め方ではなく、適切な行動を始めた瞬間に「待ってた、待ってた!」「それだよ、それそれ!」といった声かけができる関係性になっていることのほうが重要です。この声かけであれば、周囲の子どもたちの反発もほとんど生まれないはずです。
もちろん、それを言われる子どもの立場から考えると、いきなり「待ってた、待ってた!」と声かけされても何のことだかピンと来ません。

実は、問題の本質は、適切な行動をしたときにどんな声かけをするかではなく、普段から「適切な行動で居場所づくりをするあなたを見たい!」という信頼のメッセージを送っているかどうかです。つまり、適切な行動をしたから褒めるということよりも、普段からどう関わっているかを考えることのほうが重要なのだといえます。

褒め方の上級テクニック ――「時間差褒め」

前述のとおり、「人は、相手のできていない部分に目が向いてしまう習性をもっている」ものです。その証拠に、子どもを叱るときに、「そういえば、この前も……」と過去の過ちを持ち出してしまうことはありませんか。

どうやら、相手のうまくできていない部分を無意識に記憶してしまうようなメモリが、私たちにはあるようです。そんなメモリ領域を叱るために使うくらいなら、逆の目的で使ったほうがコミュニケーションはもっと良くなると思います。
つまり、褒めるための材料を取っておき、あえてちょっと時間を空けてから使ってみようということです。これが「時間差褒め」という上級テクニックです。

「そういえば、あのときも君は〇〇してくれたね」
「そういえば、この前もあなたは〇〇だったね」

と、あえて時間を空けて褒めることで、子どもも「先生はやっぱり見ていてくれたんだ」という信頼感を強く抱くでしょうし、「大人の心に残ることをしたんだ」という自尊感情を高めることにもつながります。


〈参考文献〉

  • 赤坂真二(2018)『最高の学級づくり パーフェクトガイド 指導力のある教師が知っていること』明治図書出版、pp.96-111
  • 田中博史(2018)『子どもと接するときにほんとうに大切なこと』キノブックス、pp.1-23

次回は、子どもの心に届く叱り方について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集