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赤い実はじけた

画像,赤い実はじけた

パチン。そのとき,6年生の綾子の胸の中で,何かがはじけた。同じクラスの哲夫が,実家の魚屋を手伝っている姿を目にしたときだった。哲夫とは1年生から一緒で,それまで何も感じなかったのに。それどころか,どちらかというと「声が大きくて,ちょっと怖いな」としか思わなかったのに……。
「不思議なのよ。綾ちゃんも,いつか赤い実がはじけるわよ」
いとこの千代が言っていたのは,このことだろうか。

【作者】

名木田恵子

【掲載巻/版】

6年上巻/平成4年度版・平成8年度版

編集にまつわるエピソード

平成4年度版に登場した作品です。「今の子どもたちの身近な世界を教科書に載せたい」「初恋ストーリーはどうだろう」という議論の中で,書きおろしを依頼しようということになりました。

なら,誰にお願いしようか。お名前が挙がったのが,名木田恵子さんでした。漫画『キャンディ・キャンディ』の原作者であり,コバルトでも絶大な人気を誇る名木田さんでしたが,「コバルトならともかく,初恋ストーリーが教科書教材になるだろうか」と不安の声を漏らす古参の編集部員もいて,駆け出し編集者の僕は,期待と不安を抱えて待ち合わせ場所に出向きました。

「名木田さん,どうして子どもたちの恋愛ストーリーをお書きになるんですか?」

僕は,いちばんききたかったことを最初に質問しました。くすっと笑った後,こんな答えが返ってきました。

「子どもって,誰かを好きになっても,何か成就できるわけではないでしょう? 結婚するとか,一緒に暮らすとか。それでも,『あの子のことが好き』という思いは止められない。だから,そんな子どもたちを応援したいの。『その気持ち,わかるよ。きっと,こんなふうじゃない?』って。そう思いながら,作品を書いているのよ」

そうだったのか。僕はその返事を聞いて,この人に会ってよかった,この人にこそ書いてもらいたいと確信しました。

「6年生のとき,どんな男の子だった?」「クラスには,どんな女の子がいた?」

その後は,打ち合わせというより,楽しくて温かい,くすぐったいような時間だったことを覚えています。

シール(名木田さんはシールが大好きです)で封止めされた原稿が届くまでに,1週間とかかりませんでした。開くと,最初の行に,柔らかな手書きの文字で「赤い実はじけた」というタイトルがありました。あれ以来,名木田さんからいただく手紙は,いつもかわいらしいシールで封止めされています。

文: 編集部

掲載教科書の内容については,こちらから。

『光村ライブラリー 小学校編 第15巻』

過去の教科書掲載作品を収録したアンソロジー。
「赤い実はじけた」をお読みいただけます。