
美術の授業お悩み相談室
2020年2月20日 更新
上野 行一 元高知大学大学院教授
授業のお悩み、一人で抱え込んではいませんか? 美術教育の専門家、上野先生が温かく受け止めます。
第5回 鑑賞の授業に自信がもてない……
A 自分と作品との関わりを深めて意味をつくりだしている生徒の姿を大切に。
美術科において、鑑賞もまた創造的な活動です。作品の描写や手法などの造形的な特徴、様式や作者に関する美術史的な知識を説明し、単に暗記させるような授業にならないよう、気をつけたいものですね。鑑賞で大切なことは「自分との関係で見る」ということです。
鑑賞の授業でまず考えたいことは、生徒が形や色彩などの造形要素の観察をもとに感じたことや、作品についての考えなどを言葉にして整理し、根拠を明らかにして自分の意見とする場を設定することです。ここでは生徒一人一人の作品の見方や感じ方を大切にしましょう。その後、個々の意見を交流する対話を通して、作品を多面的に捉え多様な視点から作品の意味をつくり出す場を設定することです。
取り上げる作品は、授業の目標に適したものを選びます。例えば、授業の目標が、生徒の美術作品を見る経験を豊かにし、想像力や考える力を高め感性を研ぎ澄ますことなどに焦点化されている場合には、対話を活発にする物語性の強い作品を選ぶとよいでしょう。教科書に掲載されている作品は、おおむね鑑賞に適しています。
自分の見方や感じ方を大切にしながら作者の心情や表現の意図と工夫について考えたり、自分ならどう表現するかを考えたりしながら、自分と作品との関わりを深めて意味をつくりだしていく生徒の姿を大切にしつつ、授業を進めていきましょう。
鑑賞の授業を深めるために、上野先生による下の記事も参考にご覧ください。
3月上旬公開予定の第5回は、「授業時間が足りない!」というお悩みにお答えします。
Illustration: 北村人
上野 行一(うえの・こういち)
「美術による学び研究会」会長。高知大学大学院教育学研究科教授、帝京科学大学教授を務める。『私の中の自由な美術』、『風神雷神はなぜ笑っているのか』(光村図書)など著書多数。NHK高校講座「芸術(美術Ⅰ)」を監修。光村図書中学校「美術」教科書の著作者でもある。