「よりよく生きる」って、なんだろう。
2026年8月3日 更新
光村図書 道徳課
道徳教科書編集部が、いろいろな分野で活躍している方々に、情熱を傾けていることを伺いながら、「よりよく生きること」について考えていきます。今回は、バスケットボール選手の馬瓜エブリンさんにお話を伺いました。
馬瓜エブリンさんは、現役のバスケットボール選手としてご活躍されています。2021年には、日本代表として東京オリンピックに出場し、銀メダルを獲得されました。また、ご自身で会社を立ち上げ、経営者としてもご活動されています。後編では、起業を通して学んだこと、「よりよく生きる」ことについておききしました。
起業のきっかけ
馬瓜さんは、現役のバスケットボール選手としてご活躍しながら、2020年からスタートアップ企業の経営をされています。起業しようと思ったきっかけを教えてください。
小さい頃から、「オリンピック選手になる」という夢の他に、「起業家になる」という夢もありました。私自身、考えたことを実現しないと気が済まない性格なので、自分で自分の城を持ちたい、自分の考えたことで世の中を動かしていけるようになりたいという思いが、現在の活動につながっていると思います。
実際に起業するにあたって、具体的にどのような取り組みをされましたか。
自分の力だけではわからないことがたくさんありました。ですので、いろんな人に会って、話を聞きました。現在手がけている事業を立ち上げたのは、1年間バスケを休んでいた時期ですが、そのときにも新規事業に関する相談を、いろいろな方にしました。
話を聞きに行く前はもちろん勇気がいるのですが、そういった点はバスケを通して試行錯誤してきたこと、失敗を恐れず挑戦してきた経験を生かして、積極的に行動しました。
また、会社を経営するということは、組織を動かすための仲間を見つけることでもあります。そこでもバスケを通して得たコミュニケーション、具体的には、何を目標にして、それを達成するためにはどんなチームをつくっていくのかについて話し合ってきた経験を、生かすことができました。
現在は、Back Dooor株式会社での事業が中心かと思います。馬瓜さんがこの事業を通して実現したいことなどはありますか。
Back Dooor株式会社は、「全てのファンが感動にアクセスできる文化を創る」ということをミッションとして掲げ、ライブ配信、イベント運営などを主な事業としています。特に力を入れているのが、アスリートがライブ配信を行うアプリ「Fantrance」の提供です。参加してくれているアスリートには、このアプリを通して、試合後の振り返りや戦術の解説などを配信してもらいます。視聴者であるファンは配信を見るだけでなく、コメントを送って応援することもできます。
アスリートもファンも、スポーツで実際に起きていることに触れながら、いっしょに競技を盛り上げていけるような世界を目ざしていきたいと思っています。
現在は日本国内だけでサービスを提供していますが、ゆくゆくはグローバルに事業を展開していきたいです。
改めて、馬瓜さんが考えるスポーツの魅力について教えてください。
今はいろいろなエンターテインメントがある中で、古代からずっと続いているのは、やはりスポーツだと思います。人と人が戦うプロセスにはドラマがあります。そこには、見る側が応援したくなるような要素が含まれています。勝ち負けを左右する展開の中で、やる側も見ている側も一体となって参加できるだけでなく、何らかの形で人として成長させてくれるのは、スポーツの魅力だと思っています。
馬瓜さんは、普段からバスケ以外にもさまざまなスポーツを観戦されていますよね。
今年もバレーや野球、サッカーなど、いろんな試合を見てきました。命を懸けて戦っている選手の姿というのは、改めて自分が見る側になったとしても、やっぱり震えるほどかっこいいと感じますし、パワーをもらえます。そういった体験ができるのが、やはりスポーツのよさだと思います。

経営者としての組織づくり
Back Dooor株式会社では、従業員の方もいらっしゃるかと思います。経営者として組織をつくるうえで、心がけていることはありますか。
情報をどのようにして社内に伝達するかについては、考えながら行動しています。私自身、まだまだだなとは思っているのですが、やりたいことや考えていることをしっかりと伝える。それに対して、忖度のないフィードバックをきちんとしてもらえるような環境にする。みんながやり取りしやすい空気、互いに意見が言いやすい環境を作ることを大切にしています。
組織において、それぞれの意見が合わないことは少なからずあるかと思います。そのような場合は、どのように対応されていますか。
私自身、互いの考えは100パーセントは合致しない、と考えています。組織の中に限らず、世の中にはいろいろな方がいて、それぞれがそれぞれの考えをもっていると思います。言い方はあまりよくないかもしれないですけど、過剰な期待はしないよう、自分の気持ちをコントロールするようにしています。とはいえ、共通点が見つかると話が盛り上がりますよね。ビジネスでいえば、互いの利益に合致するものが見つかって、具体的にどのように事業を展開していくかについて話を進めていくと、想像以上に仲が深まることもあります。そこがコミュニケーションのおもしろさだと思います。
バスケと経営を両立するメリット
バスケとビジネスの両立は大変ではないでしょうか。
とにかく時間がないですね……。隙間時間をむだにしないようにして、それぞれを少しずつ進めているという状況です。
でも、どちらもやるべきことが全く異なるからこそのよさを感じています。バスケでうまくいかないことがあったら、経営で発散する。経営でフラストレーションがたまったときは、バスケで発散する。両立することで、むしろそれぞれのバランスを取れているのがメリットの一つだと思います。
馬瓜さんはバスケやビジネスの機会に限らず、さまざまな場所へ足を運んでいますよね。最近、特に刺激を受けたことはありますか。
今年のオフシーズンは、スペインやアメリカなどに行きました。バスケにおいては、他国のリーグを見て、スキルや戦術の面で勉強になることがたくさんありました。ビジネスの面からは、試合の演出など、日本でも実現できそうなものがあり、ヒントを得ることができました。
「よりよく生きる」とは?
馬瓜さんのこれまでのご経験から、子どもたちにどんなことを伝えたいですか。
ここまでお話ししてきたとおり、私自身はチャレンジすること、失敗してもそこから立ち直ることが大切だと一貫して考えています。
今すぐにやりたいことが見つからなくても、全然問題ないと思っています。その代わり、いろいろなことにチャレンジしてみる。そうしないと、自分がいったい何が好きなのか、嫌いなのかもわからないと思います。その中で、恥ずかしい気持ちや失敗してしまうことが出てきますが、それをどうクリアしていくか、大人になってからも考えながら実践してほしいと思います。
馬瓜さんにとって「よりよく生きる」とは何でしょうか。
難しいですね……。人間として生まれたからには、人間にしかない知覚を存分に使っていきたい。その分、もちろんつらいこともたくさん感じてしまいますし、しんどいことから逃げたくなるときもあります。どうしても乗り越えられない部分もあるでしょう。けれど、その中で、自分の人生をどう生きたいか、人間としてのアイデンティティをどのように確立したいかについて考え続ける。そのことが、おそらく「よりよく生きる」ことにつながるんじゃないかと、今は思っています。

取材日:2026年6月19日
馬瓜 エブリン(まうり・えぶりん)
1995年、愛知県生まれ。桜花学園高等学校在学時にインターハイ、国体(現・国スポ)、ウインターカップで優勝し、高校三冠を達成。2014年に日本代表入り。2021年の東京オリンピックでは、女子バスケットボール史上初の銀メダルを獲得。アイシン・エィ・ダブリュ ウィングス(現アイシン ウィングス)、トヨタ自動車 アンテロープス、デンソー アイリスを経て、2026年8月現在ENEOS サンフラワーズに所属。現役バスケットボール選手としての活動と並行して、2020年1月に「LAUNDRY JAPAN」、同年4月に「Circle Of Life」を起業。その後、3社目となる「Back Dooor」を設立した。
- このシリーズの目次へ
- 前の記事
-
次の記事