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[教科書座談会]スイミー、ごんぎつね、「教科書クロニクル」であの頃を思い出す!

言葉と学びを広げる

2024年6月17日 更新

古賀及子 ライター、エッセイスト

アナウンサーの堀井美香さん、歌人の岡本真帆さんとの「教科書クロニクル」の座談会。国語の教科書をきっかけにして、あの頃の思い出を振り返ります。

小・中学校の教科書で学んだワードが、ふっと会話に出てくると盛り上がる。

墾田永年私財法、リアス式海岸、サイン・コサイン・タンジェント、場合の数、フレミングの左手の法則、それから「ごんぎつね」、「スイミー」、「スーホの白い馬」……。

教科書は、多くの人がせーので通る道だ。それぞれ思いの量は違えど、なんとなく身に覚えがある。子どもの頃の気分と一緒に、懐かしく、ちょっとドキドキ思い出す。

教科書クロニクル」というサイトがある。光村図書出版が運営する、生年月日から、小学生・中学生の頃に使っていた国語の教科書が調べられるコンテンツだ。

絶対にわくわくする!と、自分の生年月日を入力し検索したら、声が出た。検索する前からすでに十分期待してハードルを上げていたのに、それ以上の興奮と、驚きと、完全に忘れていた記憶が、勢いよくぶわっと吹き出した。

この楽しさを自分一人で抱えておくのはもったいない。もっとみんなで盛り上がりたい!ということで、今回は世代の違う言葉のプロたちに集まってもらい、それぞれの思い出や教科書を使っていたあの頃についてお話を聞かせていただきました!

堀井美香さん

堀井美香さん(1972年3月生まれ)

フリーランスアナウンサー

秋田県出身。1995年、TBSにアナウンサーとして入社し、現在はフリーランスアナウンサーとして活動。「yomibasho PROJECT」として朗読会を主催。コラムニストのジェーン・スー氏とパーソナリティを務めるポッドキャスト番組「OVER THE SUN」(TBSラジオ)を毎週配信。著書に『音読教室―現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)など。

岡本真帆さん

岡本真帆さん(1989年7月生まれ)

歌人

高知県、四万十川のほとりで育つ。未来短歌会「陸から海へ」出身。2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』、2024年に第二歌集『あかるい花束』をいずれもナナロク社より刊行。フルリモートで会社員をしつつ、短歌をつくっている。

古賀及子

古賀及子(1979年1月生まれ)―座談会の進行役

ライター、エッセイスト

2023年に日記エッセイ集『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』、2024年にその続編『おくれ毛で風を切れ』をいずれも素粒社より、またエッセイ集『気づいたこと、気づかないままのこと』をシカク出版より刊行。

国語の教科書を見比べるだけで一生しゃべれてしまいそう

古賀

古賀

「教科書クロニクル」、私は座談会の前にすでに見ていたんですが、自分が使っていた教科書をきっかけにどんどん思い出が吹き出してきて、懐かしすぎて本当に驚きました。ぞっとすらしちゃって。お二人にもぜひ体験してほしいなと思い、お集まりいただきました。実際に検索していただきましたが、いかがですか?

堀井さんの教科書検索結果
堀井さんの教科書検索結果

堀井

堀井

あんなに教科書を読んでいたのに、ぜんぜん覚えてない作品がある! 記憶が消えてる! え~~っ。

古賀

古賀

あはは! 覚えてない!っていう驚きもありますよね。

古賀

古賀

集まった3人のうち、岡本さんだけは他社の教科書を使ってらしたそうで(※地域によって採用されている教科書が違うのです)。光村図書の教科書とは掲載されている作品がやっぱり違いますか。

岡本

岡本

小3の教科書に載っている金子 みすゞ「わたしと小鳥とすずと」は、私が使っていたものにも入ってた気がします! 「スイミー」(小2)とか「お手紙」(小2)は、教科書には入っていませんでしたね。でも絵本で読んで覚えてます。

古賀

古賀

あっ! そうか、「スイミー」も「お手紙」も教科書に載ってなかったんだ。

岡本

岡本

一覧見て、「えっ、教科書にいたんだ!」って思いました。

古賀

古賀

「スイミー」って、国語の教科書の代表的なイメージがありますよね。

岡本

岡本

ええっ、本当ですか。私にとって教科書代表の物語っていうと、5年生の教科書に載っていた宮沢賢治の「注文の多い料理店」とか……。

古賀

古賀

うわ、それは私の教科書には載ってなかったですね……! こういう違いがわかるっていうのもおもしろい。

「スイミー」のあらすじ紹介の画面
「スイミー」のあらすじ紹介の画面

古賀

古賀

教科書に載ってる宮沢賢治といえば「やまなし」(小6)とか「オツベルと象」(中2)ですよね。

岡本

岡本

「やまなし」は読んだことないです! 宮沢賢治違いみたいなことが起きてますね……。

古賀

古賀

ということは、もしかして教科書名作「大造じいさんとガン」(小5)もご存じないですか?

岡本

岡本

大造……誰ですか……がんに……?

古賀

古賀

鳥の雁です!

※この後、岡本さんの使っていた教科書にも「大造じいさんとガン」が掲載されていたことがわかりました! ただ忘れていることも、ある!

岡本さん

たまごっちにママレンジ、個性的な思い出がたくさん!

古賀

古賀

「教科書クロニクル」では、年代で検索すると当時流行したグッズとかトピックのイラストも表示されるんです。お二人の世代で、小・中学校の流行で何か印象深かった物事、ありますか。

堀井

堀井

私の画面に出てきた「ママレンジ」は持っていました! 電熱線で本当に使える子ども用のキッチン。親に溺愛された子どもだったものですから(笑)、買ってもらえて、近所のお友達を集めて毎日ホットケーキを焼いてました。

古賀

古賀

そんなすごいおもちゃが。

堀井さんの世代で流行していたもの堀井さんの世代で流行していたもの(右上が「ママレンジ」)
堀井さんの世代で流行していたもの(右上が「ママレンジ」)

岡本

岡本

みんなが持ってない、選ばれし者が持てるおもちゃだったんですね。

堀井

堀井

……お二人とも、ママレンジ知らないんですね。

古賀

古賀

検索したら「富裕層のおもちゃ」って書いてある。

堀井

堀井

富裕層ではなかったんですけれど! 溺愛されていたんです! でも知らないんですね、そうですよね……。

古賀

古賀

堀井さん、40代なかばの私でもついて行かれず、ふがいなくてすまん……。

岡本

岡本

私の世代は「たまごっち」ですね。授業中に誰かのランドセルの中でたまごっちが死ぬ音がするんですよ。

古賀

古賀

死ぬ音!

岡本

岡本

ピーーーーって。

堀井

堀井

そんなドラマの心電図みたいな。

岡本

岡本

消音にもできるんですけど、設定し忘れると音が鳴っちゃって、先生に怒られるしたまごっちも死ぬしで最悪なんです。

古賀

古賀

世代ならではの「最悪」ですね、それは。

堀井

堀井

でもこの当時、はやっていたアイテムが表示されるっていうのも話が盛り上がっていいですね! ママレンジのことなんて、今回の座談会がなかったら一生思い出してなかったと思う(笑)。

堀井さん

教科書には「プロもふるえる学び」がたくさん

古賀

古賀

実は今日、光村図書さんで保管されている資料から、お二人が小・中学校で使っていた当時の教科書もご用意いただいているんです。見るとしびれますよ!

堀井さんが使用していた年代の教科書
堀井さんが使用していた年代の教科書

堀井

堀井

私の時代のだけ判型が小さい~~っ。これ見るだけでもう懐かしさがすごいですね! 勉強しなきゃって感覚を思い出します。

古賀

古賀

懐かしいだけじゃなくて、ドキドキすらしますよね。

堀井

堀井

今、図書館や施設で朗読会をするときに、短めで内容が凝縮されている作品をよく調べるんですが、そういった作品って、おもしろいように教科書に収録されているんですよね。あらためて読むとびっくり。「ゆずり葉」(小6)も「最後の授業」(小6)も載ってる。「ごんぎつね」(小4)も。

古賀

古賀

教科書に掲載する作品はどういう基準で選んでるんですか。

光村図書

光村図書

学校の先生や教育学者、作家などを中心とした編集委員会と編集部で、教科書改訂ごとに作品を選んでいます。物語の場合は、長く古びない、何度読んでも違う側面が発見できるものとか、あとはその時々の子どもの等身大の物語というのを意識しています。

一同

一同

へ~!

光村図書

光村図書

到達点が長い物語、という観点もありますね。例えば宮沢賢治「やまなし」(小6)は、子どもの頃はおもしろいなとは思っても、ちょっとなんだかわからない。大人になって読むとじわっとわかる。味わえるスパンが長い作品です。

岡本

岡本

小6に谷川俊太郎さんの「生きる」が入ってるんですが、小学校の卒業式で、卒業生がこの詩を一人一文ずつ朗読したんです。クラスメイトの一人が「それはミニスカート」の担当だったんですよ。それまではその一節になんの感情も抱いていなかったけれど、その子の声で音読されたことで突然聞こえ方が変わって。「それはミニスカート」ってどういうことだろう?と考えるようになったのをすごくよく覚えています。

古賀

古賀

むちゃくちゃ詩的な体験! まさに到達点が長い作品ですね。

岡本さんが小・中学生だった年代に使用されていた光村図書の教科書
岡本さんが小・中学生だった年代に使用されていた光村図書の教科書

堀井

堀井

中学校の教科書を見ていると、大人になってから手を伸ばすようになった作家の作品がたくさん載っていて驚きますね。三浦哲郎、辻邦生、岩崎武雄、山本周五郎! これ、先生方がどうやって教えてくださったんだろう。もう1回当時に戻って習いたいです……。さっぱり忘れてる。

岡本

岡本

私の年代だと、中2に松任谷由実「春よ、来い」が詩で入ってます。歌詞を鑑賞するのはいいですね。

堀井

堀井

本当に、どれも良い文章がたくさん載っていますね、今さら気づくなんて。

岡本

岡本

今、中学2年生の「短歌と俳句、それぞれの表現」というのを読んでました。評論的な文章と作品一覧がそろっていてすごく勉強になる。

古賀

古賀

現役歌人の岡本さんもふるえる学びが中学生の教科書に。

古賀さんが使用していた年代の教科書
古賀さんが使用していた年代の教科書

令和の教科書を見て驚こう

古賀

古賀

さて、ここで今現在、学校で使われている教科書もご用意しました。表紙、とってもかわいいんですよ。

岡本

岡本

このブックカバーあったら欲しい!

現在の小学校で使用されている最新の教科書
現在の小学校で使用されている最新の教科書

光村図書

光村図書

小学校の新しい教科書では、如月かずささん、はやみねかおるさん、朽木祥さん、森絵都さんなど、現在活躍中の方の作品を掲載しています。教科書のために書きおろしていただいた作品です。

古賀

古賀

思いのほか、ばりばり存命の方の作品が並んでますよね。最近の教科書だとなおさら。

堀井

堀井

私たちの頃の教科書が「ついてこられる奴だけ勝手についてこい」みたいな雰囲気だとすると、今の教科書はサービス精神が旺盛ですね。とてもわかりやすいし、とっつきやすい。松任谷由実さんの「春よ、来い」の位置に載ってる私の頃の教科書の詩、『智恵子抄』ですもん。

古賀

古賀

かつての教科書は決して子どもにおもねらない……。

毎朝教科書を3回音読してから学校に行った

古賀

古賀

ここまで、教科書の思い出を振り返ってきましたが、お二人はどんな子ども時代を過ごしていたんですか?

堀井

堀井

私は母親に毎朝教科書を3回音読して行くようにって言われて、それが小学1年生から5年生で引っ越すまでずっと日課だったんです。当時、母には教育方針みたいなものが基本的になくて。ただ、教科書を毎日読みなさいというのだけ。

一同

一同

へえ~。

堀井

堀井

読まずに登校すると、学校まで母が来て連れ戻されるんですよ。あの頃、通っていた学校が石炭ストーブを使っていたんです。わかりますか……むかし日本で石炭がとれたんです!

古賀

古賀

教科書の話なんですかこれ(笑)。

堀井

堀井

石炭が学校の裏山の倉庫に積んであるんです。それを当番さんがバケツに盛ってクラスに持って来て、ストーブにくべて一日暖をとる。私が当番の日にバケツに石炭を入れていたら、「美香ちゃん、教科書読んでないでしょー!」って石炭山の下から呼ばれたことがあって。その時の母の顔と教科書の音読がいまだに忘れられなくて。

岡本

岡本

石炭山に向かって怒った母親……なんだか昔話みたいな映像ですね。

堀井

堀井

教科書っていうのが母にとってすごく大切なものだったんだと思います。参考書もネットもないなかで、何で導いていくかっていったら教科書だったんでしょうね。

古賀

古賀

概念としての教養みたいなところがあったんですね。

堀井

堀井

今では感謝しています。それがあっての今の仕事なのかなと思って。とはいえ当時は小学生だから、それはもう適当~~に3回読んで行くんです。文字の少ない挿絵の多いお話が大好きだったこと、教科書を見て思い出しました。

堀井さん

岡本

岡本

私も音読が今につながる感覚、すごくあるんです。声に出して読んできたことって体にしみこんでますよね。谷川俊太郎さんの「生きる」を卒業式で音読した話もそうなんですけど、言葉が、時間がたっても体に残ってる。覚えて声に出して読むって、学校でしか、しなかったな。

古賀

古賀

たしかに……なかなか自分でやろうとは思わない種類のことですよね。

岡本

岡本

俵万智さんに出会ったのも教科書なんです。歌集『サラダ記念日』にも収録されている、「寒いね」から始まるあの一首です。
「寒いね」と「寒いね」で「あたたかさ」に導く。この、数学みたいなことが一首のなかで行われているのが中学生ごころにすごいなと感じました。そのときは短歌をやろうとは思わなかったんですけど、思えば原体験で。不思議と今につながってるんですよね。

古賀

古賀

教科書って子どもの頃いつもすぐそばにあったから、書物でありながら純粋な景色でもあって、知らないうちに体験として残るのかもしれないですね。

岡本さん

教科書クロニクルであの頃に帰ろう

教科書と思い出が交差して、度を越えて盛り上がった。3人は全員初対面どうしだったのだけど、いきなり深い部分にリーチしてしまってちょっとお互い顔を見合わせて戸惑うくらい。

堀井さんは、忘れていた教科書の豊かさにずっと感心しきり。今からでも授業を受けに過去に戻りたいと言う。

岡本さんは、人に「教科書クロニクル」を見せて、急激に過去を思い出す、その反応を見たいと言う。

「教科書クロニクル」は、どんな年代のどんな教科書を使っていた人であっても、必ず何かを思い出し、懐かしむことができる、タイムカプセルのようなコンテンツなのだと感じた。

教科書に、こんなに思いもよらない体験が詰まっているなんて。しかもその体験は、どこかコミュニケーションの形をしていて、過去と未来を見通した後、人と人をつなぐ気配がある。

今日私は、小学1年生の頃に使っていた教科書「かざぐるま」の表紙を見た。たったそれだけで身震いした。過去のことなのに「はじまる!」と思ったのはなぜだろう。

教科書クロニクルはこちら

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