
空を見上げてみよう
2018年10月2日 更新
山中 勉 宇宙航空エンジニア
山中勉さんが各地で行っている出前授業の様子や、生徒が紡いだ五・七・五の言葉をご紹介します。
武雄市立北方中学校での出前授業(1)
2018年7月6日、筆者の山中勉さんが佐賀県武雄市立北方中学校で出前授業を行いました。1年生2クラス計54人を対象に行われた授業の様子をお伝えします。授業は2時間続きで行われ、1時間目は、東日本大震災被災地の宮城県女川町の中学生が詠んだ句などを紹介し、生徒たちに印象に残った句を発表してもらいました。
みんなの句を宇宙に打ち上げます!
山中 こんにちは!みんな、人生何年目?
突然の問いかけから授業は始まりました。
「13年目!」。生徒たちは一様に声をそろえます。
山中 どうですか、13年生きてみて。人生を一言で表すと、どんな感じ?
「楽しい」「幸せ」「悲しい」「悔しい」「いろいろあった」…。生徒たちが次々につぶやきます。
山中 うんうん。悲しい、悔しいときもあるでしょう。そんな時、友達に「どがんしたと(どうしたの)?」って声をかけられたり、かけたりすることがあると思います。生きていると、元気や勇気を分けてもらえるような言葉が欲しいときがあります。例えば、悲しいとき、励まされるような曲を聴いて元気が出たという人もいるでしょう? そこで今日は、自分自身に元気や勇気を与えたり、もしくは大切な人に元気や勇気を分けたりできる「魔法の言葉」を創りたいと思います。

生徒たちは少し緊張した表情を浮かべながら、耳を傾けています。ここで、山中さんから重大発表です。「この授業の『特典』として、みんなが今日作った作品をディスクに記録して、今年9月、種子島からロケットで打ち上げます!」。教室が驚きで包まれる中、山中さんは続けます。
山中 行き先は国際宇宙ステーション。月に2、3回、夜空に輝きながら、ゆっくり動く星として見えます。ここ北方中からも、ニューヨークからもロンドンからも、世界中のどこからでも肉眼で見えます。皆さん、上空に星が通過するとき、今日作った「魔法の言葉」を思い出してください。
生徒たちの目が輝きます。山中さんが「恐らく一生に一度の機会です。皆さん、素晴らしい言葉を紡ぐぞ!」と呼びかけ、生徒たちは「おー!」と応えました。
2011年3月11日
授業のガイダンスを終え、山中さんは、五・七・五の言葉紡ぎの先輩である、宮城県女川町の中学生の取り組みを紹介しました。「2011年3月11日」。教室のスクリーンに文字が浮かび上がります。
山中 この日、大震災がありました。女川は被災地の中でも、最も厳しい被害を受けた地域の一つといわれています。
とてつもない高さの津波が押し寄せたこと、ほとんどの建物が被害にあったこと、数百人の町民が亡くなったこと――。当時の被害状況の説明を、生徒たちは真剣な面持ちで聞いていました。山中さんは、震災前後に、現地の中学生が描いた2枚の絵をスクリーンに映しました。
山中 震災前に描かれているのは風光明媚な海や緑。しかし、震災後に描かれているのは一面がれきの山。みんなと同じ中学生が突然、こういう場所に放り出されてしまった。
惨状に息をのむ生徒たち。そして、震災から2か月後の2011年5月25日、山中さんが女川町に出向き、出前授業を行った際の様子が紹介されました。

山中 震災で辛い思いをしているはずなんだけど、生徒たちが大きな声で、にこやかに僕を出迎えてくれたのを覚えています。どうして、みんな笑顔だったんだと思う?
山中さんの問いかけに、一人の生徒がつぶやきました。
生徒A 笑顔じゃないといけなかったから…
山中 うん、それはどうして?
生徒A 悲しい気持ちを紛らせるために。
山中 そうだね。せめて学校や友だちの前では明るくふるまおうという気遣いがあったのだと思います。悲しくならないように。でも、だからこそ授業では「もしよかったら、今の素直な気持ちを五・七・五の言葉で書いてみませんか?」と伝えました。もしかすると、書いてくれないかもしれないと思ったけど、終わってみれば、45分間の授業で、一人最低1句、多い人は10句も書いてくれました。その中の一部を紹介します。
見上げれば がれきの上に こいのぼり
ただいまと 聞きたい声が 聞こえない
海水に ついた(漬いた)すずらん 咲いていた
女川は 流されたんじゃ ねえんだよ
スクリーンに句が映し出され、山中さんは、一つ一つの句に対して「この句からどんなことを感じ取れる?」と生徒に問いかけます。「悲しい気持ち」「がんばろうという思い」…。生徒たちは、次々に自分の意見を口にします。ここで、生徒たちにワークシートが配られました。
山中 事前に配布したプリントに、2011年から今年までに、女川の中学生が作った作品が100句載っています。その中から、心が震えた句を選んでください。各班から2句ずつ、理由とともに発表してもらいたいと思います。
ここからはグループワーク。生徒たちは一斉に椅子と机を動かし、3~4人の班を作りました。教室のそこかしこから、活発な話し合いの声が聞こえてきます。

多様なものの見方を共有しよう
10分後、話し合いの時間は終わり、各班が発表していきます。
A班 「逢いたくて でも会えなくて 逢いたくて」です。会いたい人がいるのに、もう会えない。もし自分がそうだったらと思うと、ジーンとなりました。
B班 「夢だけは 壊せなかった 大震災」が印象に残りました。女川の人の強い気持ちが伝わってきました。
C班 「大好きだ 頑張っている 君が好き」です。自分も、好きな人が頑張っている姿を見ると、頑張ろうと思うからです。
D班 「今年はね あなたのいない 誕生日」を選びました。いない人は、誕生日である主役の人なのか、それとも自分の誕生日なのに祝ってもらいたい相手がいないのか、捉え方が二通りあると考えました。

教室前の黒板には、女川の中学生が詠んだ100句が印刷された模造紙が掲示されており、山中さんは生徒の発表を聞きながら、次々に書き込んでいきます。
山中 悲しい気持ちも我慢して心に収めているだけでなく、言葉にして書いてみることで少しは救われる気持ちになるのかもしれない。悲しいときは悲しいと言ってもいい。それが悲しみを乗り越える第一歩になりえるのではないかと思います。
ここで、1時間目は終了。休憩を挟み、2時間目はいよいよ、生徒たちが五・七・五の言葉紡ぎに取り掛かります!
次回は、五・七・五の言葉紡ぎの様子をお伝えします。
山中勉(やまなか・つとむ)
1958年、東京都生まれ。宇宙航空システムエンジニア。(株)IHIエアロスペースにて宇宙航空事業や国際宇宙ステーション(ISS)の一般利用を発案し実証。宇宙航空研究開発機構(JAXA)主幹研究員、日本宇宙フォーラム主任研究員を経て、2013年より(株)IHIで社会貢献活動としてISSを利用した学校授業を共創している。
東日本大震災では宮城県女川町や各地の学校での出前授業を行い、五・七・五の言葉などの作品をISSに届ける活動を続けている。
女川の中学生への返句を募集します!
女川の中学生がこれまでに紡いだ100句の中から、印象に残った句を選び、七・七の下の句をつけてみませんか?
受け付けはメールで行います。件名は「空を見上げて」とし、本文に100句の中から選んだ句と、七・七の下の句、メッセージ(任意)、必要事項(ご住所、お名前(ふりがな)、年齢、ご職業・学年)を記載し、下記アドレスにお送りください。お送りいただいた句は、随時このウェブマガジンで紹介します。句は匿名で掲載いたします。
光村図書出版 第三編集部 広報課
E-Mail:koho@mitsumura-tosho.co.jp
女川の中学生がこれまでに紡いだ100句は、PDFでご覧いただけます。
※ 応募受付は締め切りました。 たくさんのご応募ありがとうございました。