
みつむら子育て応援特集
2022年7月25日 更新
光村図書がお届けする保護者向け子育て応援特集です。
夏休みの宿題といえば、読書感想文。子どもの読書感想文が、悩みの種という保護者の方も多いのではないでしょうか。昨年の夏、多くの方から好評の声をいただいた本コーナー。今年はさらに心強い助っ人が加わりました! 「国語」教科書の編集委員もつとめる森山卓郎先生(早稲田大学教授)が、子どもが読書感想文を書くときに保護者ができるアドバイスのひけつを教えてくださいます。
「国語」教科書 編集委員・森山先生が教える 感想文の書き方のひけつ
――毎年、読書感想文の宿題がなかなかスムーズに進みません。
そもそも読書感想文を書くことは、本を読んで理解し、さらに自分の考えを展開しなければならないので、とても難しいことなんです。なかなか書けなくてもあたりまえという気持ちで、子どもといっしょに考えましょう。
――まず何から書き始めればいいのでしょうか。
読書感想文は、「読んだきっかけ→あらすじ→感想」というようなありがちなパターンの他にも、いろいろなパターンで書くことができます。書き始めは意外と大切。「こんなこと書きたいな」ということを簡単にメモして、感想文の道筋を考えながら、まずは書き始めを考えてみましょう。感想文だからといって必ずしもあらすじを書く必要はありません。
1.問いをつくる
問いを立て、その問いについて考えていく書き方があります。いろいろな問いを考えてみてください。なぜ主人公はそんな行動をしたのかといった内容に関する問いから、なぜそんなタイトルかといったことまで、いろいろな「?」があるはずです。
【例】わたしは、「ごんぎつね」を読んで「ごんが最後にうなずいたとき、どんな気持ちだったのだろうか」と思いました。……
2.印象に残ったことは何か―引用を!
印象に残った場面や表現はありますか? そうした引用から始めてもおもしろい書きだしになりますよ。なぜそれが印象に残ったのかを書くといいでしょう。印象に残ったことは一つだけではないかもしれません。それらを関連づけるとうまくまとまっていくはずです。
【例】「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か。」これは、おっかあを亡くした兵十の様子を、ごんが物置の後ろから見ていたときの言葉です。「ひとりぼっち」という言葉にはっとしました。……
3.比べる
考えを深めるための一つの魔法は、「比べる」ことです。登場人物どうしを比べる、自分と登場人物を比べる、登場人物の最初と最後を比べる、自分の最初の考えと今の考えを比べる、表現の仕方を比べる、などいろいろな比べ方があります。いちばん変わったところはどこかを考えるのもおもしろいはずです。
【例】いたずらをしたごんと、くりやまつたけを持って行くごんはまるで別人のようです。では、いわし売りからいわしをぬすんでなげこんだごんはどうでしょうか。……
4.手紙形式―語り掛けてみる
手紙のように、登場人物に語りかけるように書くこともできます。また作者に語りかけることでも読みは深まるものです。
【例】天国に行ったごんへ。わたしはごんに聞きたいことがあります。あなたがくりやまつたけを持って行っているのは兵十にわかってもらえました。でもそれで死んでしまって本当に幸せなのですか。
5.他の作品と比べる
文章を読むことにあまり抵抗がないお子さんは、同じ作者の短めのものを二つ読んで、共通点や相違点を探るのもよいでしょう。同じテーマの本、同じ著者の本など、比べ方はいろいろです。漫画や映画と比べるとおもしろいといったこともあるかもしれません。
――「すごい」「かっこいい」といった感想から、なかなか言葉が深まらないときはどうしたらよいでしょうか。
まずは、子どもの「すごい」などの感想に「どういうところがすごいと思ったの」と返し、具体的な描写を確認しましょう。そして、子どもの言った「すごい」の中身を一緒に分析します。そのとき、「呼び水の言葉」を使うと子どもの思いや考えを掘り下げやすくなります。
1.仮定する 「もしも~」
もしも自分だったらどうするかな。
もしもこの事件が起こらなかったらどうなったかな。
もしもこの表現がなかったらどんなふうに感じるかな。
2.比べる 「~と比べて」「違いは~」「共通点は~」
自分(自分の学校など)と比べてみるとどうかな。
自分と違うと思ったところは?
人物A と人物B のどちらが優しいと思った?
3.視点を変える
環境保全の面から考えると……便利さの面から考えると……
主人公ではなく、人物Bの立場から見ると…
人物Aは確かに~というところもあるけど、……という一面もあるんじゃないかな。
4.わからないところを取り上げる
この本の最初には、リサイクルが自然破壊になることもあると書いてありました。どういうことなのか、わかりませんでした。
5.推測する 「のではないだろうか」
もしかすると、……かもしれない。
作者はここで迷ったのではないでしょうか。
6.五感をつかう
ここの場面の色はとても印象的です。灰色の空のイメージは、聞こえてきた音は……
7.挿絵、図や装幀などにふれてもよい
この場面の挿絵は少し変だと思いました。
――感想文の最後のまとめ方が難しく感じます。
最後は、無理にまとめようとしなくてもいいと思います。感想文にはいろいろな終わり方があり、きまりもないのです。例えば、次のような表現を参考にしながら、しっくりくる終わり方を子どもと一緒に考えてみてください。
1.好き嫌いを出しても良い。
【例】私はやっぱりこの作品の~というところはきらいです。……
2.物語を読む前の自分と読んだ後の自分、最初に書き始めた自分と書き終わりの自分を比べる。
【例】最初に~と書きましたが、ここまで考えてきたら、~という気もしてきます。
3.無理にまとめないというまとめ方もある。――疑問文で終わるのも一つの終わり方。
【例】なぜなのか、ここまで考えてきてもまだわかりません。私の中のもう一人の私は~と言うのです。/別の国の小学生が読んだらどう思うだろうか。
4.自分の読書に位置づけて終わる。
【例】これからはこんなことに気をつけて本を読んでいきたいと思います。
5.疑問文で終わる。
【例】今は、こういうふうに考えたけれど、大人になったときに読んだら、どう思うだろうか。/〇〇の視点で書き直したら、どういう物語になるのだろうか。
――最後に、子どもの感想文をサポートするときの、いちばんのひけつを教えてください。
いちばん大切なのは、子どもの考えを尊重して、大人の考えを押し付けないことです。「自分が本当に考えたこと」を大切にしてほしいと思います。じっくり待つことも必要でしょう。普通じゃない感想だっていいと思います。ただ、明らかな読み間違いや読み落としなどは疑問文の形で注意喚起するといいでしょう。
さらに、書いているときは、子どもの表現を尊重することが重要です。言葉の相談役になってあげるのもいいことですし、国語辞典でぴったりの言葉を一緒に探してあげるのもおすすめです。
子どもが書き終わったら、それはそれとして認めることも大切だと思います。読書感想文が嫌いになってしまうのでは何のための宿題かわかりません。小さくとも良いところを見つけて具体的に励ますことができたらすばらしいですね。
森山卓郎(もりやま・たくろう)
早稲田大学文学学術院教授。専門は、日本語文法論を中心とした日本語学、語用論、言語習熟論。光村図書「国語」教科書編集委員。著書『コミュニケーションの日本語』(岩波ジュニア新書)、『日本語の〈書き〉方』(同)、『あいまい・ぼんやり語辞典』(東京堂出版、編著)。『明解 日本語学辞典』(三省堂、共編著)『旺文社標準国語辞典』(監修)など。
教科書、ここが参考になります!
小学校「国語」教科書の巻末「本の世界を広げよう」には、その学年にぴったりの本が紹介されています。
2~6年の巻末にある「言葉の宝箱」には、「考えや気持ちを伝える言葉」が載っています。感想を言葉で表すときに役立ちます。
2年生下巻、3・4年生上巻の巻末には、「原稿用紙の使い方」が載っています。ぜひ清書のときの参考に。
Illustration:こやまもえ