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通常学級での特別支援教育 第17回

通常学級での特別支援教育

2017年9月14日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第17回 人を頼るスキルが乏しい子

今日のポイント

  • 「人を頼るスキル」のことを「援助要求スキル」とよぶ。うまくできない場面や難しい場面などに直面したときに、それを他者に伝えて援助を求めるスキルを使えれば、その場を乗り切ったり、課題を達成したりすることができる。
  • うまくできない子ほど人を頼れないという場面が目立つ。援助を求めることができないと、泣く・騒ぐ・逃げる・やろうとしない・隠す・ごまかす・物や人に当たる……などの行動が出やすくなる。
  • 指導のポイントは、「援助を求めることが成功体験につながる」という実感をもたせることである。そのためには、教師自身が「他者との協働は人生に有効である」という認識をもつことが重要である。

今回取り上げるのは、「人を頼るスキルが乏しい子」です。

画像、人を頼るスキルが乏しい子

人を頼るスキルのことを「援助要求スキル」といいます。別のよび方では、援助要請スキル、相談スキル、ヘルプコールなどがあります。援助要求スキルとは、具体的には、以下のような言葉を伝えて他者に援助を求めるスキルのことです。

「わからないので、教えてください」
「難しいので、手伝ってください」
「一人では無理なので、一緒にやっていただけますか」
「聞き逃してしまったので、もう一度言ってください」
「書き落としてしまったので、見せてもらってもいいですか」
「助けてください」

うまくできない場面や難しい場面、理解しづらい場面に直面したときに、上記のような言葉を他者に伝えて援助を求めることができれば、その場を乗り切ったり、課題を達成したりすることができます。それは裏を返せば、うまくできないことをごまかしたり、言い訳をしたり、逃げたりせずに済むということになります。したがって、この他者を頼れるスキルのことを「究極のソーシャルスキル」だと表現される方もいます。

読者の中には、「そんなことくらい、普通なら自然に身についているはずでしょう」と思われる方もいらっしゃることと思います。ところが、意外とこのスキルを育てるのは難しいのです。というのも、他者に援助を求めることができる人には、以下の二つの要件が備わっていなければならないからです。

  1. 援助を求めることが成功体験につながる、ということを知っている。
  2. 援助を求めて、それが多少失敗したとしても、「自分はまだできそうだ」という自尊感情を保つことができている。

ですから、援助を求めても失敗を繰り返してしまったり、そもそも自尊感情が低かったりする場合には、スキルだけを教えてもうまくいかないということになります。それどころか、スキルを教えることで、その子が余計に警戒心を発揮し、「どうせ誰かに聞いたって、バカにされるに決まっている」とか「誰かを頼ったところで、叱られるだけだ」という気持ちを強くしてしまうことがあるのです。このような心理状態を「失敗恐怖」「敗北恐怖」とよぶことがあります。

「うまくできない子ほど、人を頼れない……」
支援を必要とする子どもたちとの出会いを通して感じてきた、率直な感想です。

例えば、自分がうまく跳べないからといって、友達が楽しく遊んでいる長縄跳びをいきなり引っ張って邪魔する子。
例えば、プリントにうまく気持ちを書けずに、クシャクシャと丸めてしまう子。
例えば、相手に気持ちを伝えることができずに、近くにあったゴミ箱を蹴る子。
例えば、誰にも聞かずに自己流でやろうとしたり、虚勢を張ったりする子。

このように、できないときに、泣く、騒ぐ、逃げる、わめく、邪魔をする、やろうとしないで固まる、隠す、ごまかす、めちゃくちゃにする、物や人に当たる……といった場面を見かけたら、「もしかしたら、この子は、できないといういらだちを他者にうまく伝えるスキルが未形成な子かもしれない」という見方でその子を見てあげてください。

誤解のないように付け加えておきますが、「傷つきやすいからかばってあげましょう」とか、「温かい目で見守ってあげましょう」といった情緒論で話を終えたいわけではありません。子どもの援助要求スキルの弱さに気づき、その力を育てるという発想の転換が必要だと思います。

最終的に「できないことはできるようにする」、これが本当の解決です。そのためにも、本人が「他者に相談すること」「他者に援助を求めること」「他者の力を借りること」に価値を見いだすようにしていかなければなりません。
それには、身近にいる大人こそが援助要求スキルの大切さを十分に経験している必要があります。赤坂真二先生(上越教育大学教授)も、「教師自身が、『他者との協働は人生に有効である』という認識をもたなければいけません」と述べています。普段から他者を頼る瞬間を意識し、その魅力を伝えるようにしていきたいものです。

〈参考文献〉

  • 赤坂真二・堀 裕嗣(2017)『赤坂真二×堀 裕嗣 往復書簡 転換期を生きる教師の学びのカタチ』小学館
  • 川上康則(2010)『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』学苑社
  • 川上康則(2016)『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』学研プラス

次回は、「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


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