みつむら web magazine

通常学級での特別支援教育 第28回

通常学級での特別支援教育

2018年8月24日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第28回 力加減の調節が苦手な子

今日のポイント

  • 身体接触や力の加減がトラブルの発端になりやすい理由を整理すると、「触れた」「ぶつかった」「やりすぎた・強すぎた」の三つが挙げられる。それぞれ、触覚・平衡感覚・固有感覚という三つの感覚のトラブルによるものと考えられる。
  • 固有感覚は、動きのコントロールや力の加減などの姿勢・運動に関する情報を脳に伝える役割をもつ。固有感覚の反応が低いと、無造作・強い関わり・身体各部位への意識の弱さ・相手との距離感などのつまずきが出やすい。
  • 固有感覚に関する知識がないと、力加減の調節が難しい子は「ただのトラブルメーカー」にしか見えない。正しく理解し、丁寧に関わることが求められる。

身体接触や力の加減がトラブルの発端になりやすいケース

今回は、身体接触や力の加減が問題の発端となって、いさかいやトラブルにいたってしまう子どもを取り上げます。トラブルの理由を聞いてみると、大きく3タイプに分けられるようです。

一つ目は、「触った・触っていない」系のトラブルです。ちょっと身体が触れたとか、相手の持ち物に不用意に触れたとか、隣の子の机に物や体の一部が大きくはみ出しているなどが当てはまります。トラブルのきっかけになる子が自分の身体のサイズをよくわかっていなかったり、触られることに過剰な反応をしたりすることから起きます。つまり「触覚」系のトラブルだと整理することができます。

二つ目は、「ぶつかった・ぶつかっていない」系のトラブルです。これは、日常的に姿勢が崩れやすく、体幹の保持がしっかりできていない子に多く見られるようです。動きがなんとなくフラフラしていて、立っているときはどこかに寄りかかるなど姿勢が安定しないところがあります。なかには、かかとを地面にしっかりとつけずに歩く「つま先歩き」が見られる子もいます。体の軸ができていないということがこれらのきっかけを作っています。これは「平衡感覚・バランス感覚」系のトラブルだと整理することができます。

三つ目は、「やりすぎた・強すぎた」系のトラブルです。もともと動きが雑であったり、強引なところが目立ったり、無造作な行動が多い場合に見られるという傾向があり、それがトラブルのきっかけを作っています。これは「固有感覚」系のトラブルだと整理することができます。

三つ目の「固有感覚」という言葉は、読者の皆さんにもなじみが薄いと思いますので、ここから丁寧に説明していきます。

画像、力加減の調節が苦手な子

つまずきの背景にある「固有感覚」

「固有感覚(固有受容覚ともいう)」とは、「関節の角度や筋・腱の動きなどから、(a)身体の各部の位置、(b)運動の状態、(c)身体に加わる圧や抵抗、(d)重量等を感知する感覚」のことをいいます。

動きのコントロールや力の加減などの姿勢・運動の情報は、固有感覚の働きを通して脳に伝えられます。
例えば、目をつぶったままの状態で、「グー・チョキ・パー」と手の形を作ったり、手のひらに乗せられた本がおおよそ何冊くらいかを当てたりできるのは、固有感覚がしっかりと働いているからです。

前述のようなトラブルが多い子どもたちには、固有感覚の反応が低いケースが多く見られます。(a)~(d)のそれぞれについてつまずきとの関連を整理すれば、以下のようになります。

(a)身体の各部の把握が難しいため、足元や肩など、見えていない部分への意識が弱くなる。

(b)運動の方向や加速度の把握が難しいため、丁寧な動きのコントロールができず、無造作でガサツな動きになる。
(c)他者から力が加わったときの圧の整理が難しいために、意図していない強い関わりになる。
(d)重さや力の入れ加減を感じ取りにくいために、相手を無意識に叩いてしまったりする。

これらの結果として、狭いところを無理やり通ろうとしたり、ぶつかっていること自体に気づけていなかったりすることもあります。

あらためて、「力の加減」とは?

力加減とは、「その状況に適した運動の、(1)方向性、(2)強さ、(3)速さをコントロールできること」と言い換えることができます。これら三つの要素を同時に求めると、子どもは混乱してしまうため、以下のように一つずつ分けて指導するようにします。

(1)運動の「方向性」について教える場合

  • 「ここから、ここまで」のように、動きの始点と終点を具体的に伝える。
  • 「〇度で止める」「およそ〇センチ離す」などのように、具体的な数値を示す。

(2)運動の「強さ」について教える場合

  • 「卵が割れない程度の強さで」「花束を相手に渡すように」などのように、強さのイメージが伝わるように説明する。
  • 一度全力で地面を踏みつけたり、こぶしで反対の手のひらを全力で叩いたりしてから、「その半分の強さ」などのように比較させて教える。

(3)運動の「速さ」について教える場合

  • 「〇秒で」と時間を伝える。
  • 「そうっと」などの様子を表す言葉を添えて説明する。「ちゃんとやって」などの表現は、受け手によって曖昧な理解になるので避ける。
  • モデルを示したり、直接触れて動かし方をガイドしたりする。

背景要因についての理解がないと……

学校現場では、まだまだ「固有感覚」についての知識をもった教師が少ないのが現状です。
もしも、この知識がなかったら、力加減の調節が難しい子は、ただのトラブルメーカーにしか見えませんし、「強く言い聞かせても、直そうとしない」とか「粗暴で、相手に不快感を与える」などと、決めつけてしまうこともあるかもしれません。

力加減のコントロール力が手っ取り早く上達するというような方法はありません。背景要因を理解したうえで、その子と同じ目線で解決策を考え、うまく行動できたときに認めながら、地道に育てていくことが大切です。


〈参考文献〉
阿部利彦監修、清水由・川上康則・小島哲夫編著(2015)『気になる子の体育 つまずき解決BOOK 授業で生かせる実例52』学研教育みらい、pp.38-39

次回は、子どもの心に響く褒め方について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集