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通常学級での特別支援教育 第34回

通常学級での特別支援教育

2019年2月15日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第34回 「子ども理解」に欠かせない「四つの軸」

今日のポイント

  • 「子ども理解」には深浅がある。浅い理解のもとでは、その子の内面に潜在するつまずきに気づくことができない。
  • 「子ども理解」を深めるためには、時間軸・空間軸・対人関係軸・状況軸という四つの軸で考えるという視点が欠かせない。
  • 四つの軸があれば、見かけや事前の情報に振り回されたり、主観的な印象から行動に間違った意味づけをしてしまったりすることを防ぐことができる。

特別支援教育では「子ども理解」を深めることがとても大切です。浅い理解では、子どもの内面に潜在するつまずきに気づくことができないからです。

子ども理解をより深めるためには、どのようにすればよいでしょうか。作業療法士の木村順先生によれば、(1)時間軸、(2)空間軸、(3)対人関係軸、(4)状況軸という四つの軸で考えていくという視点が欠かせないといいます。

画像、叱り方の基礎・基本

(1) 時間軸

例えば、クラスの中でなかなかルールが守れない衝動性の高い子どもがいるとします。

その行動が幼児期から続いているようであれば、おそらく行動の修正には相当の時間がかかるはずです。関わる教師側の心得として「長期的な戦略」が必要になるでしょう。
その行動がここ数週間のうちに始まったのであれば、何か納得のいかない出来事がきっかけとなったのかもしれません。その場合は、行動そのものをどうにかしようとするのではなく、その理由を丁寧に掘り下げることが指導の糸口になります。
このように、その瞬間だけを見て判断をするのではなく、時間の経過の中で読み取っていくことが「時間軸」で子どもを見るという考え方です。

過去の情報を踏まえる場合は、生育歴(「〇歳〇か月ごろに何ができるようになった」などの発達の記録)・既往歴(過去の病歴および健康状態に関する記録)・教育相談歴・幼稚園や保育所、前籍校の担当者からの申し送り事項、前担任による引き継ぎ情報なども参考になります。

(2) 空間軸

場所によって、子どもの態度や行動が変わる場合もあります。例えば、家では落ち着いているのに、学校では荒れた行動が出やすいなどという場合です。

この場合の背景の一つとして、学校に居場所がないと感じていたり、周囲から不本意な関わりをされて緊張感が高まっていたりするといった要因があるかもしれません。一方で、家では保護者が先回りしてなんでもやってくれるため、何一つ不自由さを感じていないことも背景の一つとして考えられます。
背景要因を多面的に考えることによって、家庭と学校での行動の落差の理由が明らかになります。

場所によって異なる姿を見せる子ほど、「実は、その場で瞬間的に見せる姿だけでは判断できない」ということを示しています。

(3) 対人関係軸

そもそも子どもは、教師に見せる顔、親に見せる顔、友達に見せる顔……と、それぞれ相手によって異なる姿を示すものです。

A先生の前ではとてもしっかりした印象なのに、B先生の前では、だらしなく床に寝そべったり、ネガティブな発言が多かったり……といった様子が見られることがあります。
特定の人だけに対して限局的に暴言や暴力が出る子どももいます。

対人関係という軸で分析することで、関わる大人(教師・支援員・保護者)側の「在り方」の変容を期待することが必要なケースや、学級集団づくりの方向性の見直しが必要なケースなどが見えてきます。

(4) 状況軸

イレギュラーな予定変更が苦手な子どもにとっては、運動会や宿泊行事などが大きな混乱を引き起こすことがよく知られています。
その日の天候なども関係します。台風の前後で気圧の変動が大きいときや、春先の花粉アレルギーが強い時期、そして気温が高く蒸し暑い日などに、情緒的な不安定さを示す子どもがいます。
また、音楽の授業で楽器の自由演奏になると耐えられなくなるといった、聴覚的な情報処理の困難さを示す子どももいます。

これらは、特定の状況によってつまずきが顕在化してくるケースです。


子ども理解の出発点は、なんといっても大人による気づきです。しかし、その子の行動を読み取る大人側に上述の四つの軸がないままだと、見かけや事前の情報に振り回され、主観的な印象から行動に間違った意味づけをしてしまうことがあります。

偏った見方に陥らないようにするためには、その場の限定的な状況だけを見て判断を下さないこと、そして自分自身の「子ども理解の力」を常に見つめ直す思慮深さが求められます。

〈参考文献〉
木村順(2015)『実践家(教師・保育者・支援者)へのメッセージ 発達支援実践講座 支援ハウツーの編み出し方』、学苑社、pp.65-68

次回は、引き継ぐ側の配慮、受け取る側の覚悟について取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura


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