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「語りかける」英語教育

達川 奎三

広島大学教授

明日の授業のスパイスとして,英語を学ぶ楽しさを「語る」「語りかける」視点から解き明かします。

達川奎三(たつかわ・けいそう)

1958年広島県生まれ。広島大学外国語教育研究センター教授。兵庫教育大学大学院修了(学校教育学修士)の後,広島大学大学院教育学研究科修了(教育学博士)。中・高等学校の英語教員研修などに数多く携わっている。著書に『COMMUNICATION STRATEGIES FOR INDEPENDENT ENGLISH USERS』(英宝社/編著),『Global Issues Towards Peace』(南雲堂/編著)など。光村図書『COLUMBUS 21 ENGLISH COURSE』編集委員。

第1回 「読む」から「語る」,「語りかける」へ

2017.03.21

今日,日常生活の中で英語に触れる機会は確かに増えました。しかし,外国語である英語を習得することは,今でも容易なことではありません。世界中で,いろいろな人々がそれぞれの置かれた環境で英語習得を目指しています。英語が話されている国や地域に行き,一定期間以上滞在するのがベストですが,誰もがそのような機会に恵まれるわけではありません。

私自身,留学や海外長期滞在の経験は全くありません。それでも,学会発表や英語母語話者に対して講演やワークショップをするような機会もあります。いまだに英語には苦労していますが,プレゼンをするときには自分の主張やメッセージをしっかりと練り,自信をもって「語りかける」ことを心掛けています。同じ情報も,語りかけることを意識すれば,より相手に伝わりやすくなるのです。

英語の習得を目指すのであれば,二つの「絶対量」が必要です。一つは「学習の絶対量」,もう一つは「実践的コミュニケーション機会の絶対量」です。前者は,語彙・文法・語法などの言語的知識を増やし,できるだけ多くの英語に触れる基本的なトレーニングです。後者は,英語を使う人と実際にコミュニケーション(やりとり)する場面や機会を積極的に求めることです。

「学習の絶対量」は,言語使用の正確さを上げるのに欠かせません。私は中学2年生から大学卒業まで,NHKラジオの英語講座を欠かさず聞きました。初めて聞くネイティブ講師の英語は,きちんと聞き取れませんでした。でも,英語が自由に操れるようになれば格好いいな,というぼんやりとした憧れから,とにかく続けました。ある月の講座テキストに,放送は一日3回あるので,2回または3回聞くと良いと書かれており,素直な(?)私はそのとおり頑張ってみました。

また,大学生の頃は,毎日のダイアログ(8行~10行程度)を全て覚えました。通学バスの中の30分を,そのために費やしました。バスでは必ず後部座席に陣取り,周りの乗客に聞こえないように小声で10~20回ほど音読を繰り返しました。その姿を見た友人から「達川くんはバスの中で念仏でも唱えているの?」と尋ねられたこともあります。音読で心掛けたのは,ただ単に声を出して読むのではなく,目の前に相手がいるとイメージして「語る」,そして覚えたら「語りかける」ことでした。機械的に声に出して読むだけでは言語習得には繋がりにくいものです。「語る」,「語りかける」を意識することで,もっと有益で楽しい練習になるのではないでしょうか。

次回以降(第2回~第6回)は,私がこれまでに実感してきた「語る」,「語りかける」につながる英語教育のポイントを,少しずつお伝えしていきたいと思います。

Illustration: 福々 ちえ