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質問1 なぜ、教科になったの?

ここが知りたいQ&A

2017年10月30日 更新

35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた富岡 栄先生(麗澤大学大学院准教授)が、「特別の教科 道徳」に関するよくある疑問にお答えします。

回答:富岡 栄(麗澤大学大学院准教授)

2016(平成28)年8月の文部科学省教育課程企画特別部会「論点整理」には、キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授)による「子供たちの65%は将来、今は存在していない職業に就く」との予測や、マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授)による「今後10年~20年程度で、半数近くの仕事が自動化される可能性が高い」との予測が取り上げられています。このように、現在の児童生徒が社会の中心となって活躍する時代は、先が見通せない、未来予想が難しい社会となっています。また、グローバル化が急速に進展しており、人々の交流は当然のことながら、経済面でも、環境面、文化面、科学技術面でも、自国だけで存立していくことは難しくなってきています。この傾向は、今後ますます加速していくと思われます。このような時代の中で、次世代を築いていく児童生徒には、広い視野から物事を多面的・多角的に考え主体的に判断し実行していく力や、日本人としてのアイデンティティーを保持しつつ、国際社会の中で調和的に対応できる高い倫理観を有することが求められています。このような視点から考えたとき、今回の道徳の教科化には、未来を生き抜くために必要な資質・能力の育成やグローバル化の中で国際感覚を身につけた日本人の育成を図っていこうとすることが含意されているように思われます。

道徳の時間は1958(昭和33)年に特設され、それ以来、週時程表の中に位置付けられることになりました。しかし、当時は、道徳の時間の特設が第二次世界大戦前の「修身」復活との受け止め方もあり、道徳の時間が実質的に行われていない実態がありました。このイデオロギー的な問題が長らく横たわっていたことなどで、人としての生き方を考える道徳が大切だとの認識はあるものの、軽視されてきた傾向があります。時間の経過とともに、学校現場ではイデオロギー的な反対論は少なくなってきましたが、指導すべき教師自身に道徳授業の被授業体験がない人がいることや、入試には直接の関わりがなく、通知表や要録に記入することもない中で、他の学習活動に転用されるようなことも多々ありました。これまでも、道徳の時間の充実に関わる改善策として、「心のノート」を導入したり、道徳教育推進教師を校務分掌に設けたりすることで改善を図ってきましたが、抜本的な改善には至りませんでした。

そこで、最後の手段として、道徳の実質化のために切ったカードが教科化ということです。今回の教科化は、道徳の時間を確実に行うこと、そして、わかり切ったことを言わせたり、心情理解のみに偏った指導をしたりすることから脱却し、「考え、議論する道徳」へ、量、質ともに転換を図ることがねらいです。

そして、忘れてはならないことは、今回の教科化にはいじめ問題が深く関わっているということです。教育再生実行会議の第一次提言(平成25年2月26日)において、いじめ問題の対応について、道徳教育の重要性が改めて強調されました。この提言で、道徳教育の重要性を再認識し、その抜本的な充実を図るとともに、新たな枠組みによって教科化することが示されたのです。また、道徳の教科化は、いじめ問題の解消、いじめの未然防止に資するものであることが期待されています。当然、その実効性も求められています。

富岡 栄(とみおか・さかえ)

麗澤大学大学院准教授。公立中学校教諭、管理職として、35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた。平成27年3月、群馬県高崎市立第一中学校校長を定年退職。退職後は大学にて道徳教育に関する講座を担当。日本道徳教育学会、日本道徳教育方法学会の評議員を務める。平成27年一部改正「中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」の作成協力者の一人。

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