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第2回 「表現すること」を支援する

日本語指導が必要な子への支援

2022年11月17日 更新

浜田 麻里 京都教育大学教授

全員参加の小学校国語の授業を実現するために、日本語指導が必要な子どもへの支援について考えます。

前回に続いて、日本語を学んでいる児童の学習参加について考えます。
第1回 「理解すること」を支援する

大切なのは「安心感」

表現することは、学びのプロセスとして欠かせないものです。日本語を学んでいる児童が表現する機会を、ぜひ授業の中で作りましょう。

ただ、中には、なかなか日本語で話そうとしない時期が長く続く子どももいます。いわゆる「沈黙期」です。話さないからといって、何も学んでいないわけではなく、目や耳から入ってくる日本語を理解しようと必死になっているのかもしれません。安心して日本語を話せる心の準備ができていないのかもしれません。沈黙期かなと思ったら、無理に話させようとせず、子どもが「話したい」と思えるような環境を整えながら温かく見守り、話せるようになるのを待ちましょう。

画像、多様性

まずは「問いかけ」から

児童に表現を促すとき、まずは、子どもに届く「問いかけ」を工夫してみてください。問われることで、子どもの思考が動き始め、表現することが動機付けられます。

児童の日本語の力に合わせて、どのような表現方法であれば、その子の考えを引き出せるのかを考え、それに合わせて問いかけを考えましょう。日本語がほとんど話せない児童でも、賛成か反対かに手を挙げたり、「Aですか? Bですか?」と示された選択肢の中から選んで答えたりする方法であれば、自分の考えを表現することができます。

取り組みやすい表現法を

次に、どのような形態の学習活動ならその子が表現しやすいかを考えましょう。日本語の力が十分でない児童にとっては、全体の前で一人で発言することは難しいかもしれませんが、ペア活動で隣の児童と伝え合う形態なら、ジェスチャーを使ったり、相手の児童の支援を得たりして自分の考えを伝えやすくなります。

「読むこと」の教材文の内容を理解しているかどうかを確認するときに、児童に言葉で説明することを求めるのは、かなり難度が高いです。代わりに、教材文の挿絵を、話の順序に従って並べ替える活動を通して理解を確認することも考えられます。光村図書の指導者用デジタル教科書の「読むこと」単元には、挿絵だけをプリントできる機能があるので、このようなツールを使うと手軽に取り組めます。
登場人物の気持ちを考え、それを書いたり発表したりする活動は、感情を表す語彙の習得が十分でない児童には難しいかもしれません。ですが、「このときの人物の気持ちをせりふにして言ってみよう」という活動ならば、取り組みやすくなるでしょう。また、読んで感じたことを、絵で表現する活動はいかがでしょうか。図工と教科横断的に取り組んでもよいでしょう。

最近はICTによって、図、写真、動画等、多様なメディアによる表現が容易になりました。さまざまなメディアを活用して伝え合う力、「マルチリテラシー」は、これからの時代を生きる全ての子どもにとって必要な力です。授業でも、さまざまなメディアを併用して、言語表現を支援しましょう。

「書くこと」に慣れるまでのサポートを

教科書では、多くの単元で「考えをまとめよう」という学習課題が設定されています。日本語を学んでいる子どもは、一般に、書く力よりも話す力が先に伸びます。おしゃべりは得意でも、考えを書くことには多くの児童が苦手意識をもっています。
具体的には、例えば次のようなことに難しさを感じます。

  • 話し言葉と書き言葉を区別すること
  • 文末を「~です/だ」「~しました/した」と最後まで言い切ること
  • 主語と述語を一致させること
  • 一つの文にたくさんの情報を詰め込まず、一文を適当な長さで切ること
  • 項目の関係性を考えながら、順序よく内容を構成し、まとめること

書くことに慣れない間は、「おもしろいと思ったところは(  )です。」のように空欄を埋めれば文章になるようなワークシートを用意する、モデルになるような文章を提示し、それをまねて書けるようにする、といった方法で書き言葉に慣れることを目ざしましょう。
支援を受けながら表現する経験を数多く重ねることで、少しずつ自分の力で表現することができるようになっていきます。

日本語指導との連携を

抽出で日本語指導を受けている児童の場合、日本語指導の授業と連携することで効果的な指導を行うことができます。少数指導なら、指導者と口頭でやりとりしながら、表現する内容を掘り下げることが可能です。
まず、児童に質問を投げかけ、書く内容を引き出します。出てきた内容を箇条書きにまとめ短冊に書きます。短冊を並べ替えたり、つなぐ言葉を加えたりしながら一緒に整理し、文章を構成する力を養います。

在籍学級の交流活動への参加を目ざして、日本語指導の授業との連携を進めましょう。

伝え合うことの大切さ

在籍学級での表現活動に参加し、伝え合う経験を重ねることは、日本語を学んでいる児童の自尊感情を高めるだけでなく、学級全体のつながりをも強めます。

社会に生きる全ての人が「声」をもつためには、その声を聞き取る「耳」も必要です。まずは学級の中で、日本語を学んでいる児童の「声」を聞き取る「耳」がもてるように、一緒に工夫してみませんか。

Illustration: カトウミナエ

浜田麻里(はまだ・まり)

京都教育大学教授(日本語教育、異文化間教育)。文部科学省「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」委員(令和元年度)、文部科学省外国人児童生徒等教育アドバイザーなど歴任。

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