
そがべ先生の国語教室
2021年10月11日 更新
宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長
30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。
第28回 筆者の研究を追体験しながら読む
――「『言葉』をもつ鳥、シジュウカラ」(1年)
私は月に一度、妻と二人で山歩きをします。するとシジュウカラなどカラ類の鳥の声をよく耳にします。1年生の説明文教材「『言葉』をもつ鳥、シジュウカラ」はとても興味深く、よい教材だなと思っていました。
新教材の場合、私は「一読者として読む」ということを大切にしています。
- 何についてどう述べているのか?
- おもしろさはどこにあるか?
- 読みながら思い浮かべたり、連想したりするものがあるか?
こんなことを考えながら読みます。故・飛田多喜雄氏や故・齊藤喜門氏ら大先輩は、よく「無心で読む」とおっしゃっていましたが、教材研究の第一歩として、実は(2)がとても重要です。「おもしろい」と思ったところから授業のアイデアが生まれるし、教師の「おもしろい」は子どもたちにも伝播して、「おもしろい」授業になるからです。
例えば、筆者は、
シジュウカラの卵やひなを襲う天敵には、ヘビの他にカラスやネコ、イタチ類が挙げられます。親鳥は、これらの天敵には「ピーツピ」と鳴くのに対し、ヘビにだけは「ジャージャー」と鳴いていたのです。
(教科書p.128)
と書いています。さらっと書いていますが、どれだけの観察に基づいているのか、どうやって調べたのか……興味深いですよね。
この教材でも、「ジャージャー」が「ヘビ」を表す単語(言葉)であることを示すのに、観察や実験=「条件を満たす状況を再現して、鳥が見せる姿や鳴き声を観察する手法」が説明されています。その方法がまたおもしろい。仮説を立てて、もしこうならこう、と検証していく方法がしっかり読み取れたら、生徒も知的に楽しいだろうな。どんな仮説を立て、どんな方法で実験したら、どうなったのか、そこからどう考えたのか……そんなふうに筆者の研究を追体験できないか。待てよ、教科書には「ツツピー」「ピーツピ」「ヂヂヂヂヂ」などの鳴き声とその意味を整理した表があるけど、これらは実際どんな声なんだろう。これを聞かせて、どんな意味?とクイズにしたら、「本当にそう?」「どうやって調べたの?」と疑問が生まれるんじゃないかな? そうしたら続きを読みたくなるし、筆者の研究成果をもっと知りたくなるかも……。
こんなふうに授業作りを考えていくのが楽しいですよね。
さて、私は今年、2年生を担当しているので、この教材の授業はできませんが、こんなふうに授業したらどうだろう!というアイデアの種をいくつかまいてみます。試してみてください。
◎鳴き声クイズ
→動画サイト等から教科書p.132の表に示されているシジュウカラの鳴き声を集めて、どの声がどんな意味か当てる。
展開(言語活動)
◎文章を発表用スライドに再構成して、「1年〇組野鳥学会」で発表する。
→次の①~⑤をそれぞれスライドにする。グループで分担して作成したものをつないで、一つの発表資料にする。
①シジュウカラってどんな鳥?
②研究のきっかけ=仮説1(「ジャージャー」は「ヘビ」を表す単語ではないか?)
③実験1
問い(もし「ジャージャー」が単語なら……ではないか?)
方法
結果と考察
④実験2
問い(シジュウカラは……か?)
方法
結果と考察
⑤研究結果のどこがすごい(おもしろい)のか
導入の「鳴き声クイズ」の鳴き声については、YouTube等にいろいろな人が音源をアップしています。表にあるものを全て集められたら最高ですが、できたら三つか四つは集めたいですね。単にクイズを楽しみながら興味をもたせるというより、「本当かな。どうやってそういう意味だとわかったのだろう?」と疑問に思えたら、本文を読んでいくよい動機づけになると思うのです。生徒たちを本気にさせるためのクイズになるとよいですね。
スライドは「Googleスライド」(※)などを使って、あらかじめ、表紙用スライド+①~⑤のスライドの計6枚の白紙スライドを組んだセットをグループで共有し、分担して各ページを作っていくようにすると、お互いの進捗が見えてアドバイスや協力がしやすく、学習効果も高まりそうですね。
※オンラインでプレゼンテーションのスライドを作成できるサービス。GoogleスライドはGoogle LLCの商標です。
Googleスライド
参考リンク
「鳥たちの会話を聞く!シジュウカラたちが使う単語・文法の謎を追え~京都大学・鈴木俊貴さんの研究報告 | 11月5日(金)放送分」(TBSラジオ、荻上チキ・Session)
「長野 軽井沢 新発見!言葉でつながる小鳥たち」(NHK、ワイルドライフ)
「鳥たちの言葉は種を越える シジュウカラの鳴き声コミュニケーション|Science Portal動画ニュース」(SCIENCE CHANNEL(JST) YouTubeチャンネル)
※ YouTubeの動画にリンクしています。
「TOKYO FM サステナ*デイズ | 2021年5月20日 第58回放送音声」(AuDee オーディー)
※ 「『シジュウカラ』には、驚きの言語があった!」のコーナーは、音声の22:45ごろからです。
「文法を操るシジュウカラは初めて聞いた文章も正しく理解できる」(京都大学)
「シジュウカラ語マスター(鈴木 俊貴)」(京都大学 白眉センター)
宗我部義則(そがべ・よしのり)
1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。