
そがべ先生の国語教室
2022年4月27日 更新
宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長
30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。
第31回 授業びらき(1)
――「星とたんぽぽ」「星の王子さま」(2年)
新しい学年、新しい生徒たちとの授業というのは、何年、教員をやっていてもワクワクしますね。生徒たちは、入学して、あるいは一つ進級して、私たち以上にそれぞれの教科の授業を楽しみにしているにちがいありません。
そんな4月の授業びらき。いくつか大切なことがありそうです。私が心がけるのは大きく次の三つです。
- 「国語の授業って楽しそう!」という期待が膨らむ内容や活動になるよう工夫すること。
- 授業の基本的な約束事をしっかり確認すること。
- 「国語の学習の基本的な進め方」を経験できるように展開すること。
今回は2021年度の2年生の授業びらきの展開をご紹介します。この年から主幹教諭を拝命したこともあり、週に1時間だけの授業です。2年生ですから、中学校の授業はひと通り経験しています。しかし、ノートの取り方一つをとっても、先生によって指導が微妙に異なったりします。週1時間を効率よく学んでいけるようにするためにも、「宗我部の授業ではこうするよ」「こういうことを大切にしていくよ」ということを体験的に学べる導入期間になるよう意識しました。
1 授業展開(全2時間)
第1時
- 授業の約束事を簡潔に確認する
- 「星とたんぽぽ」を読み、気づいたことを出し合う
第2時
- 「見えないけれど、たしかにあるもの」を出し合う
- 「星の王子さま」の名言を読む
2 授業の約束事を簡潔に確認する(第1時)
自己紹介の後、まず、簡潔にいくつかの約束事を確認しました。
- ノートの取り方……上段は記録、下段は「考えメモ」(※1)
- 「国語」(週3回・T先生担当)と区別するため、この時間を「ことば」とよぶこと。
- 授業のときに用意するもの……教科書・ノート・資料集・辞書・Chromebook・「言葉の宝箱ノート」(※2)・スティックのり・色ペン(赤・青・緑は必ず用意)
- 当番制で授業記録ノート(※3)をつけること。
- 1:連載第2回「力のつく国語のノートづくり」の記事参照。
第2回 力のつく国語のノートづくり - 2:連載第7回「語彙指導 ―『言葉の宝箱ノート』」の記事参照。
第7回 語彙指導 ―「言葉の宝箱ノート」 - 3:連載第2回「力のつく国語のノートづくり」の記事の後半部分参照。
第2回 力のつく国語のノートづくり
2 「星とたんぽぽ」(第1時)
「では、早速、一つの詩を読んでみましょう。読んだことあるかな?」と問いかけながら、スライドで詩「星とたんぽぽ」の全文を表示します。「知ってる!」という声も上がります。

※4 出典:『わたしと小鳥とすずと―金子みすゞ童謡集』(金子みすゞ 著、矢崎節夫 選 / JULA出版局 / 1984年)
(1)金子みすゞ?
「知ってる人も多そうだね。作者の名前、何て読む?」ときくと、一斉に「かねこみすず」。
この「ゞ」は、「踊り字」といって、実は「字」というより「記号」なのです。同じ音を繰り返すときに使います。濁点が付いてますね。一文字だけ繰り返すときは、「ゝ」を使い、「みすず」のように「す」を繰り返すけど濁音になるときには、やっぱり濁点を付けるのですね。漢字のときは「々」という字を使うことが多いですね。「佐々木」という名前も、ほら、同じ理屈です。こんな場合もありますよ。
……と言って、次のように「てふ く(くの字点)」と板書し、「何て読む?」ときいたりもしました。
こういうところに立ち止まって、言葉をめぐる知識を確かめていきます。中学生は、生活の中で見ていても素通りしてしまっていることが多いのですが、こんな記号にも名前や使い方がある……ほら、「ことば」の学習の始まりです。
(2)全文視写→音読
では、詩の全文をノートに書き写しましょう。さっきお話ししたように、黒板やスライドを写し取るのですから、ノートの上の段に書きますよ。どうぞ!
全文をプリントにして配付するのもありですが、視写を通して一文字一文字「手作業で読み込む」というのは、中学生にはぜひ体験させたいことです。早く書けた子には音読練習をするように言います。全員が書き上がったところで、みんなで音読します。そして、発問をします。
意味のわからなかったところはありますか? 易しい言葉で書かれているから大丈夫かな? 隣の人と「こういう意味だよね」と、自分が理解した詩の意味を話し合ってみましょう。
すると、生徒たちから、
「ちってすがれた」ってどういう意味ですか?
「かわらのすきに、だァまって」がわかりません。
そんな声が上がります。国語の授業の中でよく行う活動を通して、生徒たちの“国語の授業慣れ度”を観察しながら、「言葉に立ち止まる読み」のスタートです。
(3)漢字にしてみよう!
「意味がわからないときは?」と投げかけると、「辞書!」という声。
そうですね。「すがれた」を調べましょう。言葉の形が変わっていそうですね。辞書に載っている形は何だろう。そう、「すがれる」でしょうね。
生徒たちは、「すがれる」は「末枯れる」と書くこと、「草花が盛りを過ぎてしおれ枯れる」という意味であることを理解します。そこで、
この詩、よく見ると、君たちなら漢字で書ける言葉が平仮名で書かれているよね。「末枯れる」と漢字で書いてあったら、意味がパッとわかるのにね。漢字で書ける言葉に線を引いてごらん。漢字にしてごらん!
と投げかけると、生徒たちは「『そこふかく』は、『底』と『深く』だよね」などと、近くの人と確かめながら次々に漢字にしていきます。ここで発表させていくと、おもしろいことが起こります!
「かわらのすきに、だァまって」の「すき」は「隙」であること、「だァまって」は「黙って」をリズムに乗って書いているのだということにはすぐ納得できます。しかし、「かわら」は「瓦」だという子、いや、「川原」だという子、さらには「河原」ではないかという子が出てきて、お互いの顔を見合わせ、「え?え?えっ?」となりました(笑)。
宗我部 「川原」と「河原」の違いって何?
生徒たち 大きい川か小さい川かの違いです。
宗我部 どっちが大きいの?
生徒たち さんずいのほう(河)。
宗我部 大河という言葉もあるね。「川原」と「河原」は、大きさに違いはあっても「川のそば」であるのは一緒だ。でも、「川原の隙に黙って」ってどういうこと?
生徒A 川原の石と石の隙間じゃない?
生徒B 石がごろごろしている川原に、たんぽぽって咲く?
生徒C それをいうなら、瓦の隙間にたんぽぽが生えてる家なんか見たことないでしょ!
みんな“東京っ子”ですから、屋根の瓦から草が生えたような家なんて見たことがありません。「そうかぁ!」と愉快な気分になりながら、実はこの詩には漢字を使った表記のものもあって、そこでは「瓦の隙に」と書かれていることを教えました。
先ほど発言をした生徒Cが「屋根にたんぽぽが生えてるのですか?」と言うので、「屋根にたんぽぽなどが生えてしまっているとしたら、どんな家なのだろう?」と重ねてきくと、「古い家なんじゃないか」「きっと生活が苦しくて、粗末な家なんだよ」と、生徒たちは口々に想像していきます。別の子が、「庭に落ちて割れた瓦の隙間に生えてきたのかも」と言うので、
宗我部 そうかもしれませんね。屋根に生えてきたたんぽぽなのか、庭に落ちた瓦のかけらの陰から生えてきたたんぽぽなのか。だとしても、瓦の陰に隠れて春を待っていたたたんぽぽの根は?
生徒たち 目に見えない。
宗我部 そう、みすゞさんが言いたいのはそういうことでしょうね。
そんなふうにまとめて次の発問をしました。
(4)気づいたことを出し合おう!
では、「かわらのすきに、だァまって」がすっきりしたところで、この詩の意味、そして意味だけじゃなく、読んでいて気づいたことを出し合いましょう。
すると、「七音・五音でできている」と指摘する子がいたり(すかさず、「そういう一定の形で作られている詩を何というの?」と確認。口語定型詩という形式であることを教えました)、「『見えぬけれども……』は2回繰り返されているから強調したいのにちがいない!」という子がいたり。「星は、夜は見えるけれども昼は見えない。たんぽぽは、冬は隠れて見えないけど春になって見えるようになる。そういう、見えたり見えなかったりするものどうしを取り上げたんじゃないか」などと、さまざまな指摘がありました。
ああ、こんなにシンプルに見える詩なのに、いろいろな読みが出てきましたね。みんなすごいなあ。
一つ一つの文字の遣い方や言葉にちょっと立ち止まってみるといろいろ読めて、詩が何倍も味わえる気がしますね。
そんなふうにまとめました。
この日、私が生徒たちに体験させたかったのは、「言葉に立ち止まって読み合う楽しさ」です。これが国語の授業の楽しさの基盤だと思うからです。

次回は引き続き、第2時の様子をご紹介します。
宗我部義則(そがべ・よしのり)
1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。