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四国大学の学生さんからの質問

教えて! 先輩

2022年4月7日 更新

書写教育について学ぶ大学生からの疑問に、教育界の第一線で活躍する先輩がお答えします。

四国大学 書道文化学科を訪問

書写教育について学ぶ未来の先生たちの疑問に、教育界の第一線で活躍する先輩がお答えする本連載。
初回は徳島県吉野川のほとり、四国大学をたずねました。書道文化を総合的に探究できる書道文化学科には、教員や書塾の指導者を目ざす学生が多数在籍しています。

先輩への質問  
回答:藤井浩治(元広島県尾道市立御調西小学校校長)

書道文化学科・太田剛先生のもとで学ぶみなさんからの質問に、藤井浩治先生(元広島県尾道市立御調西小学校校長)にお答えいただきました。

机に向かって書くときと違い、黒板のように立った姿勢で横から書写するのは、確かに難しいことですね。
板書の基本についていくつか説明します。

❶ チョークはつまむように持つ
チョークは、指揮者のタクトのようにつまんで持ちます。軸を立てて書くと黒板へ接する部分が広くなり摩擦が大きくはじかれてしまうからです。タクトのようにつまむことで黒板に対して軸を倒し、接する部分を小さくして書くのです。また、折れやすいので、先に近い部分を持つようにします。
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❷ 文字の大きさと配列に気をつける
書写の学習で学んだ「文字の大きさと配列」を活用します。漢字を少し大きく、平仮名を少し小さく書きます。また、行の中心に気をつけて書きます。「横書き」の場合は、加えて文字の下をそろえることを意識してみましょう。

❸ 始筆と終筆を意識する
・始筆……「横画」はそのまま書きますが、「縦画」と、「左払い」、「右上払い」は、斜めにチョークの先を置いて書き始めます。毛筆で書いた場合でも、この三種類には少し始筆に押さえがあるからです。
・終筆……「とめ、はね、はらい」を意識すると丁寧に見えます。

❹ 落ち着いて書く
小学生はノートに書く速度が遅いので、教師も焦らず丁寧に書きましょう。長い文になりすぎないよう要点を短い文に整理することで、焦らず書くことができます。

慣れない板書ですが、少しずつ書き慣れていきましょう。

同じ単元でも教師によってそれぞれ教え方が違うのは当然ですが、授業の「ねらい」は決して違ってはいけません。

「林」という課題で「左右の組み立て方」を学習する場合を例として説明します。この授業の「ねらい」は「左右の部分からなる漢字を組み立てる方法(原理・原則)を知り、整えて書くことができるようにする」ことです。決して「林」という漢字のみを整えて書く方法を学習しているわけではありません。

「きへん」と「木」を比べると、「きへん」は①横幅が短くなる、②横画が右上がりになる、③右払いが点に変化する(終筆を変化させる)、④縦画が横画に中心で交わっていない(右が短い)、⑤へんの右端をそろえるなど、五つの工夫が見えてきます。これは、「林」を書くときだけでなく、「きへん」、さらに言えば、左右の部分を組み立てるときの「全てのへん」の原理・原則でもあります。授業はこの「ねらい」がぶれないように作っていきます。

板書例


いっぽう、書写の学習には「単元の中心となる学習内容(ねらい)」だけでなく「既習事項の学習内容(復習)」があります。この二つをうまく区別して指導することが大切です。「林」を指導する場合、まず中心の学習である「へんの五つの工夫」を学びます。次に「右払いの筆使い」など子どもたちがつまずきやすい「既習事項」を活用(復習)して、自己課題を解決することで、さらに「林」を整えていきます。

それぞれの教師がどのように授業をコーディネートしていくのかは違って当然ですが、「中心となる学習」を間違えてしまったり、既習事項を強調しすぎたりしないように教師どうしでそろえていきましょう。

三年生で初めて「新しい筆」を持ったときの子どもたちは、本当にいい顔をしています。初めて筆に墨をつけて書いたときには、笑顔がこぼれます。こんな子どもたちが、どうして「書写」と聞いただけで嫌な顔をするようになってしまうのでしょうか。私の経験からは、「書写」への劣等感をもってしまっている場合が多かったように思います。

「教科書の手本(以下、「手本」)と全く似ていない」「友達と比べて自分は下手だ」など、マイナスの体験を積み上げてきてしまっていることが原因の一つです。そこで、「成功体験を積み上げる」ことを意識しながら次のような工夫をしています。

❶ ポイントを絞って指導・評価する
子どもたちに力をつけたいと一生懸命になるあまり、手本と違う箇所を指摘しすぎてしまうと、「自分はこんなにできない」という気持ちをもたせてしまいます。
そこで、その授業のねらいとなる「単元の中心となる学習内容」の指導は、「既習の学習内容」の確認と区別して行い、授業のポイントを絞ります。その絞ったポイント(授業のねらい)ができてさえいればその時間の目標は達成です。机間指導の際にもポイントのみに絞って声掛けをします。
「〇〇ができています。よく書けたね。」と短い言葉でできるだけたくさんの子どもに肯定的な言葉を掛けましょう。他の子どもに聞こえるように褒めることで、できていない子にできていないと指摘しなくても、自分で気づかせることができます。

❷ 自分で気づく学習活動を設定する
絞ったポイント(授業のねらい)を意識して書いた後は、そのポイントについて自己評価させます。その際、「割りばし」などを使って長さや傾きなどを調べるようにすると、できていない箇所に自分で気づくことができます。その気づきを、自分の手本に書きこむようにします。これを習慣づけることで、課題を主体的に解決するようになっていきます。

❸「試し書き」と「まとめ書き」を比較する
授業の最初に、手本を見ないで、まずは「試し書き」をさせます。「日常の自分の書き方の課題」を知るためです。そして、授業の終末で「まとめ書き」をし、「試し書き」と「まとめ書き」を比較して振り返りをします。こうすることで、毎時間、自分の成長を感じることができます。

「水書板」はどこでも手軽に準備し、範書できる便利な教具です。水書板の使用で、特に教育効果の高い場面は、基本点画の学習です。三年生になり人生で初めて筆を持つことは、子どもたちにとってわくわく、どきどきする非常に楽しみな学習活動です。しかし、筆使いが上手くできないと、一気に「楽しみ」は「劣等感」へと変わってしまいます。筆使いの技能の定着を支援するために、水書板を使って基本点画に焦点化して指導をします。「始筆」「送筆」「終筆」の筆使いを具体的に丁寧に示すとよいでしょう。

その他、子どもたちがつまずきやすい筆使いとして、①「縦画」の「はね」②「曲がり」の「はね」③平仮名の「むすび」などがあります。「はね」の手前で「穂先の向き」を変えたり、「むすび」の途中で「穂先」を裏返したりするなどの細かな筆使いは、言葉で説明することはできませんので、水書板でゆっくり示範し、空書き、ワークシートで練習させるとよいでしょう。示範の際には、課題文字を全部書いてしまわず、ポイントを焦点化するようにしましょう。

水書板

四国大学の授業の様子

講義中の太田先生
講義中の太田剛先生
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「書写教育概論」の授業​​​​​​の様子​​​

四国大学の学生のみなさん、ご協力ありがとうございました。
みなさんが教壇に立つ日を楽しみにしています!

藤井浩治(ふじい・こうじ)

元広島県尾道市立御調西小学校校長。光村図書小学校・中学校『書写』教科書編集委員。

 

太田 剛(おおた・つよし)

四国大学文学部書道文化学科教授。朝鮮半島書道史、近世近代日本書道史、地域社会と学校との連携による書道教育について研究している。

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