授業に役立つ
2023年11月24日 更新
安井政樹 札幌国際大学准教授
生徒たちの目が輝く。学びの必要感がふくらむ。考えてみたくなる。そんな道徳科授業をつくるための一人一台端末活用を考えてみましょう。難しく考えることはありません。世の中には、活用できるアプリがたくさんあります。もっと多くの生徒の声を聴きたい! そんな思いを実現する活用をご紹介します。
端末活用は、ここぞ!という場面から
「つかむ」「ふかめる」「つなげる」という学びの過程で、どのような端末活用ができるのか。「今日の授業ではこの活用を」と、授業のねらいに合わせて取り入れていくとよいでしょう。生徒も先生も、慣れてくれば自然に活用場面が増えていきます。何事も第一歩です。
1「つかむ」学びの土台づくり
大切なのは「学びの必要感」
授業導入時に生徒一人一人が「学びの必要感」を感じることが大切です。例えば、先生が「あなたにとって友達ってどんな人?」という質問をすると、数名だけが発言する。他の生徒は、一部の発言する生徒に任せきりで、「私が発言しなくても授業は進む」と思っている。一人一人の意見が大切にされ、生徒自身が授業の主役であることを認識できるようにする土台づくりが重要です。
全員の声を授業に生かす
これまでと同じような発問でも、一人一台端末で生徒に投げかけてみると、全員が参加することにつながります。この時点で人任せの授業ではなくなります。さらに「この中で、そうだよね! と思うものに『いいね』を付けてみよう。」と声をかけると、友達の意見をよく見て考えるようになります。隣の人と「どれに付けた?」というような対話も始まるでしょう。先生が言わなくても対話したくなる。これが端末活用の効果です。
生徒の声から学びをスタート
生徒たちの生の意見から学びをスタートできるのが、「即時共有」のよさです。アンケートフォームで、事前に意見を収集しておくのもよいでしょう。端末に慣れてきたら、授業での導入後すぐにアンケートに回答を入力させ、それを提示することもできるようになります。
例えば、端末を持ち帰らせて、「自分は努力できるほうか?」という選択式のアンケートと、努力できる要因・努力できない要因などを、事前に入力させる事例を考えてみましょう。そうすると、まず、クラスの実態を把握したうえで授業を構想することができます。さらに、より生徒の実態に応じたねらいを設定できるようになります。
選択式のアンケートは円グラフで、それぞれの理由は「テキストマイニング」を使って分析し、ワードクラウドで提示するとよいでしょう。円グラフは大型モニターで提示して、うつむきがちな生徒の顔を上げさせ、教材への誘いや議論の入口に活用することができます。ワードクラウドは、各自の端末に表示すると、内容をじっくりと見ることができるようになります。それをもとに、ペアやグループなどで交流すると、短時間でもより多くの意見に触れながら考えることができ、より主体的に学習に参加できるようになるのです。また、クラスメイトの声に共感をしながら、他者を鏡として自己を見つめることにもつながります。このように、自分の既有の考えを意識したうえで教材での学びにつなげることが大切です。
日常生活のリアルと道徳科のつながりを感じることで、学びの必要感が生まれる
日々のニュースや新聞記事などを取り上げ、映像などで提示することも可能です。道徳科の学びは、生き方の学習であり、実生活に直結していることを生徒に実感させることも必要です。生徒は、スマホを使って情報に触れていますが、フィルターバブルの影響を受け、必ずしも多くのニュースや多様な考えに触れているとは限りません。世界の出来事や地域のニュースなどに触れ、問題意識をもつことで教材への学びの必要感が生まれます。
例えば、ウクライナとロシアの悲惨な状況や現地の人の声から、生徒たちは「生命の尊さ」「国際理解、国際貢献」について考えたくなるでしょう。さらには、「公正、公平、社会正義」や「よりよく生きる喜び」など、より多面的・多角的に捉えようとする生徒もいるはずです。「どうしてこういう問題が起きているのか。そのためには、どんなことを大切にしていけばよいのか。」というように、一地球市民として、同じ人間の仲間として、リアルに考えていけるのです。こうした導入(学びの土台)なしに、「今日は教科書〇ページ」というようなスタートをしてしまえば、生徒たちの学びの必要感は生み出せません。
「真剣に考えてみたい。」「みんなの意見を聞いてみたい。」そんな思いを生み出す学びの土台作りができるのです。
また、生徒たちの日常や見えているようで見えていない身近な場面を写真などで提示することも有効です。例えば、きれいに整理されている図書室の本棚。校内から出たごみを集めたごみ置き場のごみの山。落ち葉だらけの昇降口前など、普段、気にも留めなくなってしまっているワンシーンに着目できるようにする活用です。生徒が努力している場面、力を合わせている場面、そういう日常と道徳科をつなげることもできます。これらの写真から、誰のどんな心を感じるかという「目」を養うのです。そういう「道徳の目」をよくすることで、毎時間の学びと日々の生活をつなげることができるようになっていきます。これは、教師にとっても同じです。生徒の意見から、学ぶこともきっと多くあります。まさに、共に考えていく存在なのです。
ちょっとした一人一台端末活用により、生徒一人一人の生活や生き方と道徳科をつなげることができます。「つかむ」段階でのこうした工夫が、「ふかめる」「つなげる」の段階の学びの充実にも影響するのです。
2「ふかめる」対話的な学びを生み出す
対話の入り口に
「心の中を語る」ことを、難しいと感じる生徒もいます。そんなとき、例えば、ハートメーター(心の数直線)で主人公の葛藤や自分の心中を見える化すると、対話がしやすくなります。ここの30%には、どんな心があるのかについて注目するよう促すことで、他者との対話がより充実するのです。
対話の活性化
一人一台端末を用いると、短時間でより多くのクラスメイトの意見に触れることができます。記名と無記名をうまく使い分けると、生徒のリアルな意見も出てきます。さらにそれを生かして対話をすることで、どの生徒も話しやすくなり、議論も活発になります。
一人一人の違いが見えるからこそ、知りたくなる。語りたくなる。
これまでも、黒板にネームプレートやマグネットを貼ることで、生徒たちの立ち位置を表明する実践は行われてきました。黒板上ではなく、一人一台端末を活用することによって、議論をする中で、貼っている場所を変えたくなったときには移動しやすくなります。また、スクリーンショットなどで自分の考えの変化を残すような活用もできます。
立ち位置の表明は、左右の軸でもできますし、十字の軸でもできます。もしくは、Y字チャートを用いて三つの立場から選択することもできます。教師の意図によってシンキングツールを活用するのもよいでしょう。
教室の中に多様な意見があることを知るのは、「なんでだろう」という問いが生まれる一要素となります。自分と違う考えの人がいるということを見える化することで、その人の考えを推し量ったり、より多面的・多角的に物事を捉えようとしたりできるのです。
3「つなげる」記録する・記録を生かす
自らの学びを整理し、記録する
紙のワークシートやノートでも、写真を撮って整理しておくことからスタートしましょう。板書の写真を撮っておけば、本時の学びを残し、次に生かすこともできます。生徒は、同じ内容項目の学びを、中学校3年間かけて積み重ねていきます。自分の学びの記録を生かし、学びの積み重ねや成長を生徒自らが実感することで、より深い学びが期待できます。
学校行事(以下、行事)に取り組む自分を「内容項目」で見つめられるように
運動会、球技大会や陸上競技大会などで、生徒はどのような目標を立てるでしょうか。「みんなで力を合わせて優勝する。」「〇〇で1位になる。」「新記録を出したい。」などでしょうか。こうした目に見える目標を立てるときは、同時に、その実現のために必要な心はなんだろうかと考えさせていただきたいのです。
「『新記録を出したい』ときに関係する内容項目ってなんだと思う?」と問うこともよいでしょう。教科書の目次や内容項目一覧を見ながら、今の自分にとって特に大切にしたい内容項目を選び、その視点で行事への取り組み方を考えていくのです。
行事の後には、「どんな心の成長があったと思うか。」「実現しようと思っても難しかったものはどれか。」というように行事の振り返りをできるようにしておきます。このように、内容項目と、学校行事や日々の生活との関連を生徒自身が意識できるようにすることで、道徳科の学びの意味を感じられるようになり、結果として道徳科の授業が充実していくようになるのです。
このとき、道徳科と行事のつながりを図式化してみることをおすすめします。一人一台端末を使って、道徳科の板書や行事の写真などを、内容項目や道徳の教材を通して学んだこととつないで、自分の1年の成長を構造的に整理していくのです。
こうした生徒の成長の記録は、キャリアパスポートとしてまとめておくとよいでしょう。
学び方の成長を実感できるように
生徒自身が、自分の学びについて「道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか。」「一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか。」という視点で目標をもったり見つめたりできるようにすることが、道徳科の充実にもつながります。
上記の二つの視点で評価の目安を設定します。生徒には、授業の冒頭で、自分の目標としてその内容を確認させ、自分なりに目標を意識できるようにします。そして、授業の終末場面で自己評価できるようにするとよいでしょう。設定した目標を達成できているかどうかが重要であり、他者と比較するものではありません。さらに、例えばGoogleフォーム等を使って生徒の自己評価を収集、分析すると、学級の学習状況を把握することができます。この実態把握が、授業構想や、教師の授業の中での相づち、問い返しなどにつながっていくのです。
具体的な生徒に対する教師の相づちや、生徒の答えの価値づけ、問い返しなどの反応を考えてみます。例えば、自分との関わりを深めることがまだ苦手な生徒には、「今までのどんな経験からそう思うのかな?」「今まで、同じような思いになった経験はあるかな?」「これからの自分に生かせそうなシーンはあるかな?」というように、教師が働きかけていくことが有効になります。こうした、意図的な授業づくりによって、生徒は生徒自身が自分に問いかけながら学ぶ「学び方」を身につけ、成長していきます。
また、多面的な見方ができていない生徒に対しては、「他の立場の人はどうしてそう思ったのだろうね?」と別の視点から考えてみるように促すこともできます。
このような積み重ねを、教師がGoogleスプレッドシートやExcelなどによってグラフ化し、生徒に提示すると、生徒自身が「学び方の成長」を実感できるようにしていくことが可能となります。
学習指導要領は、「何を学ぶか」に加えて「どのように学ぶか」も大切にされています。こうした観点での授業改善にも一人一台端末は有効です。
評価の目安
子どもはすぐに慣れる――使い始めたらハードルは下がる
「うちのクラスは、まだあまり使っていないから……。」「こういう状況だと端末活用と言われてもハードルが高い。」その気持ちはよくわかります。「打つのが遅いから、紙のワークシートじゃないと時間が足りない。」ということも、今はまだあるでしょう。しかし今後は、小学校から端末を使ってきた子たちが入学してきます。そして、生徒の端末使用経験は年々増加していくのです。ですから、教師も第一歩を踏み出してみましょう。子どもはすぐに慣れ、使いこなします。ワークシート自体をデジタル化し、打ち込むようにすれば、検索をしたり分析したりすることも可能です。生徒自らが自分の傾向や成長などを感じやすくもなるのです。
紙かデジタルかを考える際には、そうした長い目をもち、デジタルでできることはデジタルでやってみるのが大事です。道徳科だけではなく、すべての教科で学びの基礎力として端末を使いこなす力もつけていく。
それにより、道徳科もさらに充実していく。そんな好循環を期待しています。
撮影:所 直輝(サムネイル写真)
安井政樹(やすい・まさき)
札幌国際大学准教授
道徳教育、ICT活用、インクルーシブ教育などを専門とする。
NHK for School道徳番組の監修等も手がける。光村図書小学校道徳教科書編集委員。