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第7回 姿勢が崩れがちで動きがぎこちない子 ――ボディイメージ(Body Image)

子ども理解の 「そこ大事!」

2021年11月16日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

子どもたちとの距離を埋めるための大事なポイントを整理して、具体的に解説します。

第7回 姿勢が崩れがちで動きがぎこちない子
――ボディイメージ(Body Image)

「姿勢の崩れ」や「動きのぎこちなさ」が気になったら

授業中の姿勢の崩れ、動きのぎこちなさ、対人的な距離感のつかみにくさなどの背景にあるものとして、どのようなつまずきが考えられるのでしょうか。

もっとも大きなつまずきの要因として、「ボディイメージの未発達」が挙げられます。ボディイメージ(Body Image)は、自分の身体の位置の理解、動きのコントロールの基礎をなすものです。ボディイメージという用語には、学問的な立場の違いや論者によってさまざまな定義があるため、ここでは、わかりやすく「自分の身体の実感」としておきます。

「自分の身体の実感」の発達に支えられて、私たちは目をつぶっていても、手や足の先のおおよその位置がイメージできたり、どのくらいの力で関われば相手に不快感を与えずにすむかを考えたりすることができます。
また、雑踏の中を他者にぶつからないように歩くことができたり、傘を差した状態で人とぶつからないようにすれ違うことができたり、傘を傾けて相手が通り過ぎるのを待つなどの振る舞いができたりするのも、ボディイメージが発達しているからです。

もし、身近に、相手との距離が近すぎたり、不器用・乱暴・無造作・強引に見える関わりをしたりする子がいたら、それらの行動の背景には、ボディイメージの未発達があるかもしれません。

ボディイメージはどのように形成されるのか

自分の身体の実感は、まず、重力に対する「姿勢の傾き」の情報が脳に伝えられるところから始まります。そこに、自分の「肢位(腕や足の位置)」や「力の入れかげん・抜きかげん」、あるいは「運動の方向・加速度」などについての情報が加わります。

そして、それらの情報を脳内で統合させていくと、

  1. 自分の身体の「輪郭」
  2. 自分の身体の「大きさ」
  3. 自分の身体の「傾き具合」
  4. 力の「入り具合」
  5. 手足や指などの関節の「曲げ伸ばし具合」

などについて、意識しやすくなっていきます。
それと同時に、自分の振る舞いが周囲にどのように影響するかも理解できるようになっていきます。

こうした一連のプロセスを、「ボディイメージの形成」とよびます。一般的に、基本的なボディイメージは6歳前後で形成されるといわれています。

「無理」「面倒くさい」「やっても無駄」の背景にあるボディイメージの未発達

ボディイメージの形成につまずくと、自分の身体の実感がうまくつかめないままになります。そして、そのことによってさまざまな動作・行動上の不適応が起きます。

不適応の代表格は、「動きのぎこちなさ」や「不器用さ」です。学校生活の中でも、物をよく落とす、人や出入り口によくぶつかる、ぶつかったことにもなかなか気づかない、着替えや持ち物の整理・整頓に手間取る、体育や楽器演奏、手先を使う作業などに苦手意識をもちやすい……などの様子が見られます。
さらに、「姿勢の保持」や「対人的な距離感のつかみにくさ」が、ボディイメージのつまずきに由来する例も多く見られます。授業中、机に上半身を投げ出すなど、「一見するとだらしなく見える」ような姿勢になることが多かったり、立っていてもどこかに寄りかかることが多かったり、相手との距離が近すぎることに気づかなかったりする姿は、ボディイメージが未発達であることを示しています。

そして、示された課題や活動に苦手意識や不安を感じたときに、それに加わろうとしない姿や、必死にごまかしてやりすごそうとする姿なども、ボディイメージが未発達であることの裏返しのような行動であるといえます。子ども自身は、「苦手である」ということ自体を自覚できていないことも多く、そのため、「無理」「面倒くさい」「疲れる」「そんなの意味がない」「やっても無駄」といった言葉を使って、その場を濁してしまいがちです。

このような言動についても、「意欲が低い」「態度が悪い」などと誤った評価に陥らないようにすることが、教育関係者や大人には求められます。

ボディイメージの発達を促すには

では、ボディイメージの発達を促すには、どうすればよいでしょうか。その子の意欲を踏まえつつ、以下のような活動を意図的に取り入れてみましょう。

1.身体の感覚をつかもう
身体の輪郭をスティック(棒状のもの)でなぞって、パーツの位置を確認する。

2.動きの前に「おおよその見当」をつけよう
〈例〉 低いところや狭いところを通り抜ける前に、おおよその見当をつけて身をかがめたり、身体を斜めにしたりしてから、実際にうまく通れるかを試す。

3.急停止してみよう
〈例〉 「だるまさんがころんだ」や「こおりおに」など、動きの「停止」を意識できる遊び。

4.お手本を見た後に目を閉じて、脳内で動きを再現してみよう
よい動きのイメージをもつことから始める。

5.できる人に、動きのコツを「言葉」にしてもらおう
他者(特にその動きにたけている人)に、動きの言語化をしてもらう。

6.手を添えてもらって、力かげんを教わろう
動かし方や力の入れ方がわかりにくい場合は、他者に手を添えてもらうとわかりやすい。

今日の「そこ大事!」

  • 姿勢の崩れ、動きのぎこちなさ、対人的な距離感のつかみにくさなどの背景には、ボディイメージのつまずきがあることが考えられる。
  • ボディイメージは「自分の身体の実感」のことであり、日常的な姿勢や運動、対人関係の基礎を支える重要な役割をもっている。
  • 「無理」「面倒くさい」「やっても無駄」などの言葉を使って、自分の苦手意識をごまかそうとする姿が見られることもある。背景にある不安を丁寧に受け止めながら、ボディイメージの発達を促す取り組みを進められるとよい。

〈参考文献〉

木村順 著『育てにくい子にはわけがある』大月書店(2006年)

川上康則 監修『発達の気になる子の学校・家庭で楽しくできる感覚統合あそび』ナツメ社(2015年)

川上康則 監修『発達の気になる子の体の動き しくみとトレーニング』ナツメ社(2021年)

Illustration: 熊本奈津子

川上 康則

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『子どもの心の受け止め方』(光村図書)、『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)、『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』(学苑社)など。

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