みつむら子育て応援特集
2023年12月18日 更新
光村図書がお届けする保護者向け子育て応援特集です。
冬休み、お正月のかるた遊びや学校の宿題などを通して、百人一首に触れる機会も多いことでしょう。百人一首のかるた遊びは、小学生が楽しみながら古典に親しむためのよいきっかけにもなります。
今回は、2023年「小倉百人一首競技かるた」のクイーン戦で3連覇を果たした山添百合先生(洛南高等学校教諭)に、百人一首の魅力やおすすめの親しみ方などをうかがいました。なじみのある人も、そうでない人も、百人一首とあそんでみましょう!
百人一首との出会い
山添先生は、どのように百人一首に親しんでこられたのでしょうか。
山添
百人一首に出会ったのは、小学校1年生のころです。当時、通っていた学童保育では、冬の間にみんなで百人一首のかるた遊びをしていたので、それで覚えることになったんです。それまで私は、百人一首のことをまったく知らなかったのですが、友達の中にはすでに5首くらい覚えている子もいて。友達と競うように覚えていきました。
このときは、先生が、100首が書かれたシートを用意してくれました。覚えたら、先生にその和歌の最初の5文字を言ってもらって、その後を続けて暗唱する。最後まで言えたら、1首につき、シールを1枚もらえます。シールを集める楽しさもあって夢中になり、100首覚えてしまいました。
最終的には、百人一首かるたをしても1年生の中では負けないぐらいになり、4年生の中に交じってすることもありました。勝てるとうれしくて、「かるた、好きだなあ」と思うようになりました。
小学校1年生で100首すべて覚えてしまうなんて、すごい記憶力ですね!
山添
もともと、好きな歌の歌詞などを覚えるのが好きだったので、たぶん、「覚える」ということが苦ではなかったんだと思います。学童でも、1年生の冬が終わって、百人一首から離れたまま2年生の冬になっても、覚えた和歌はすべて頭に入ったままでした。そのとき、「私って、かるたが得意なんだな」と、ちょっと思いました。
3年生のときには、地域の子どもかるた大会に出て、優勝しました。そして、その場にいらしていた方のお声がけで、競技かるたの練習を見に行くことになりました。それまで私がしていたのは、「散らし取り」や「源平合戦」という遊び方だったのですが、競技かるたの、札を払い飛ばす迫力に魅了されて、すぐに地域のかるた協会に入って、今まで活動を続けてきています。
百人一首の魅力
百人一首の魅力って、どんなところにあるのでしょう?
山添
小学校1年生のときは、ひたすら声に出して音で覚えていたので、和歌の意味や古人の思いみたいなことは、正直にいうと、わかっていませんでした。でも、音やリズムが楽しくて、1000年も前につくられたものを今の人たちも楽しむことができるって、すごくいいなと思います。それから、子どものときは意味がわからなかったり、言葉の切れ目を間違えて覚えていたりした歌に、中学・高校の古典学習で出会い直して、「そうだったのか!」と気づいたりするのもまた、おもしろいところです。
それに加え、競技かるたのよさって、老若男女関係なく、誰もが楽しめるところにあると思うんです。若い人のほうが耳や反射神経がよかったりはしますが、年を重ねてきた人のほうが試合の流れを読む勘が鋭かったりします。それこそ、中学生が大人に勝つこともあるんですよ。誰もが楽しみ、何歳までも続けていけるのが、競技かるたの一番の魅力ですね。
なじみのない人におすすめの親しみ方
山添
「自分の名前が入っている歌をまず覚えた」というのは、競技かるたの選手の中でもよく聞く話です。例えば、知人のサキさんは、「さ」から始まる
「寂しさに宿を立ち出でてながむればいづこも同じ秋の夕暮れ」(良暹法師)
がお気に入りの一首です。実は、百人一首の中で、「さ」から始まるのはこの歌だけなので、これは初めの1音を聞くだけで取れる、いわゆる「一字決まり」の歌なんです。そういう意味でも、特別ですね。
そして、小学校時代の友達のヤスハル君。百人一首には「やすはる」がそのまま入った歌はありませんが、
「有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする」(大弐三位)
の「やはする」を「やすはる」に並べ替えて、「この歌が好き!」と言っていて、「おお!」と感心したおぼえがあります。
私の場合は、「やまぞえ」も「ゆり」も、入っている歌はないのですが、でもやっぱり自分の歌が欲しくて考えました。それで、誕生日の1月24日から発想し、
「いにしへの奈良の都の八重桜今日九重ににほひぬるかな」(伊勢大輔)
の「いにしへ」を「い(1)に(2)し(4)へ」と考えて、この一首がお気に入りになりました。こういう歌が見つかると、百人一首がいっそう楽しくなると思います。
山添
音や、取り札に書かれた文字がおもしろい歌を見つけるのも、一つの方法です。例えば、
「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣干すてふ天の香具山」(持統天皇)
の「衣干すてふ(ころもほすちょう)」や、
「このたびは幣も取りあへず手向山紅葉の錦神のまにまに」(菅原道真)
の「まにまに」などは、思わず声に出したくなる楽しさがあります。
それから、「衣干すてふ」の「てふ」や、ステップ1でも挙げた
「いにしへの奈良の都の八重桜今日九重ににほひぬるかな」(伊勢大輔)
の「いにしへ」などは、歴史的仮名遣いになっているので、小学生にとって、音と文字の違いがおもしろく感じられるかもしれません。
こんなふうに、おもしろいなと感じる歌を見つけて、そこから覚えていくのもよいと思います。ちなみに、個人的には、音がおもしろかったり、聞いたことがあったりするような歌は、百人一首の歌番号順で前半のほうに多い気がします。
山添
百人一首をすべて覚えようと思ったら、やはり「暗唱できるまで声に出す」というのがよいように思います。私もそうでしたが、リストを作って、覚えられたらシールを貼るというのも、楽しく取り組む工夫としてよさそうです。
それからこれは、かるた取りに限った話なのですが……。実は、かるた取りでは、その歌をまるごと覚えておく必要がなかったりするんです。上の句の最初の数文字と下の句さえ頭の中でつながればよいので、競技かるたの部活などでは、初めはそのセットだけ覚えるという人もいます。「かるた遊びで、とにかく強くなりたい」と思ったら、そういう方法もありますね。
なじみのない人におすすめの百人一首かるた
山添
100枚の札が、20枚ずつ、青・ピンク・黄・緑・オレンジの5色に色分けされた「五色百人一首」というかるたがあります。普通、百人一首のかるた遊びでは、100枚並べて取ることになるので、覚えるのも大変だし、遊ぶのに時間もかかります。でも、五色百人一首だと、「今日は、青で遊ぼう」などというふうに、20枚だけを使って気軽に遊ぶことができるんです。やっぱりかるたって、札が取れないと楽しくないんですよね。ですから、こういうかるたを使って、まずは楽しむことから始めるのがよいのではと思います。
実は私、今年、この五色百人一首に取り組んでいる会で小学生と対戦して、負けました……。五色百人一首では、通常の競技かるたで対戦前に確保されている、取り札の暗記時間がないんです。それもあってか負けてしまって、「やっぱり私には暗記時間が必要なんだな」と思ったしだいです。相手は五色百人一首になじみがあって、このとき使った色にどの歌が入っているかもよく知っていたのかもしれませんが、この負けはけっこう悔しかったですね。
山添
普通、百人一首のかるたといえば、読み札には歌の全体とその詠み手の絵が、取り札には下の句の文字だけが書かれています。それで、上の句が読み上げられるのを聞いて、それに対応する下の句の取り札を取る、ということになるわけなのですが……初めからそう簡単に取れるものではありませんし、これはやはり百人一首かるたのハードルの高いところでもあります。
熟練してくれば、上の句の初めの数文字だけ聞いて、歌を特定して札を取ることができるのですが、この特定に必要な字(音)を「決まり字」とよびます。「決まり字かるた」には、取り札の文字の背景に、本当にうっすらと、この「決まり字」が書かれているので、上の句と下の句を完璧に覚えられていなくても、これを見れば、どの札を取ればよいかがわかるんです。覚えなければ札は取れませんが、札が取れないと楽しくない。だから、こんなふうに少しハードルを下げるかるたを使ってみるのもよいと思います。
なじみのない人におすすめの遊び方
1 散らし取り
個人で競う遊び方。普通のかるた取りと同じように、何人でも遊ぶことができる。
- 100枚の取り札をばらばらに並べる。
- 参加者は、札の周りに自由に座る。
- 読み上げられた歌の取り札を取る。
- より多くの取り札を取った人の勝ち。
2 源平合戦
チームで競う遊び方。二つのチームに分かれて遊ぶ。
- チームごとに、50枚の取り札を3列に並べる。並べ方は、チームで自由に考える。
- 読み上げられた歌の取り札を取る。相手側の取り札を取ったら、自分のチームの取り札の中から、1枚を相手側に渡す。
- 相手側の取り札に間違って触った場合、相手側の取り札を1枚もわらなければならない。
- 取り札がなくなったチームの勝ち。
20首ずつ遊ぶ、取る人を一人ずつリレーのように入れ替えていくなど、工夫することもできる。
3 坊主めくり
個人で競う遊び方。読み手なしで、何人でも遊ぶことができる。
- 100枚の読み札をよく切って、裏返して重ねて中央に置く。
- 参加者は、札の周りを囲むように自由に座る。
- じゃんけんなどで最初の人を決めて、そこから順に、1枚ずつ札を引いていく。引いた札は、表を上にして自分の前に置く。
- 引いた札に描かれている人物に応じて、札をやり取りする。
男性……札をそのままもらう。
坊主……それまで集めた札をすべて中央に返す。
女性……坊主札によって返された札をすべてもらう。返された札がない場合は、もう1枚札を引く。
天皇……参加者全員が持っている札と坊主札によって返された札をすべてもらう。 - 最後により多くの札を持っていた人の勝ち。
地域や集団によってさまざまなルールがある。自分たちで自由にルールを決めて遊ぶこともできる。
百人一首 お役立ち情報
百人一首に親しむときの手助けとなりそうな動画・アプリをご紹介します。
動画「にほんごであそぼ 絵あわせ百人一首」(NHK for School)
動画1本につき、1首で構成。歌を読み上げる音声とともに、上の句の文字および絵がかかれた札と、下の句の文字および絵がかかれた札が映し出される。動画を楽しみながら、札に描かれた絵や、ページ内に文字情報で添えられている解説から、その歌のだいたいの意味をつかむことができる。
アプリ「百首読み上げ (Shuffle 100)」
かるた遊びをするときに欠かせない「読み手」の役を引き受けてくれるアプリ。使いたい歌や札の枚数、「競技かるた」や「散らし取り」などの読み上げモードなどを自分で設定することができる。一人でかるた取りの練習をしたいときにも便利に使える。
アプリ「競技かるた ONLINE」
競技かるたの公式ルールをもとにしたオンライン対戦やコンピュータ対戦ができるアプリ。取り札の文字の大きさや決まり字の表示有無などを選ぶことができる。百人一首の読み上げ音声を1首ずつ再生して確かめることができる資料も収録。
山添 百合(やまぞえ・ゆり)
洛南高等学校教諭
京都府生まれ。京都大学卒業後、現職。小学校1年生のときに百人一首に出会い、3年生で競技かるたを始める。かるた八段。2021年、小倉百人一首競技かるたの日本一を決めるクイーン位決定戦で勝利し、第65期クイーンを獲得。2022年、2023年も勝利し、3連覇を果たした。
Illustration:こやまもえ