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守る、みんなの尾瀬を(小学校6年)

教科書 time travel

2023年7月7日 更新

「昔、たしかに教科書で読んだ気がする。ストーリーは覚えているんだけど題名を思い出せません」

過去の教科書掲載作品から、特にお問い合わせが多い作品を取り上げて、あらすじや編集にまつわるエピソードをご紹介します。

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尾瀬沼のほとりに建つ山小屋「長蔵小屋」を拠点に、三代にわたって、尾瀬の貴重な自然や環境を守るために一生をささげた人々がいた。その活動や思いをつづった伝記作品である。

「自然か人間かではなく、自然も人間も共に守らなければ。」
小屋の三代目である平野長靖の視点を軸に、祖父や父の人生も織り交ぜながら、尾瀬を守り、そのすばらしさを後世に伝えようとした生きざまを描く。貴重な植物を次から次へと採集して馬に積み込んでいた植物学者の牧野富太郎に、「研究するのと同時に植物を守っていく手立ても考えてほしい」としかりつけた初代の長蔵のエピソードも。

36歳の若さで亡くなった長靖の墓にはこんな言葉が刻まれている。

守る
峠の緑の道を
鳥たちのすみかを
みんなの尾瀬を
人間にとって
本当に大切なものを

尾瀬の美しい四季の写真もふんだんに添えられ、改めて自然のすばらしさと、それを愛する人々の強い願いが伝わってくる。

【作者】
後藤 允

【掲載巻/版】
6年下巻/平成4年度版・平成8年度版・平成12年度版

編集にまつわるエピソード

伝記教材では、単独の人物を扱うことが多いのですが、この文章は、三代にわたる活動を取り上げました。もとになったのは、『尾瀬―山小屋三代の記』(岩波新書、1984)です。

私は編集担当者として、筆者である後藤さんに教科書向けに書きおろしをお願いするため、毎日新聞社を訪れました。当時、整理本部長だった後藤さんは、いかにも新聞記者という風体で、眼光鋭く、相手が何を言いたいのかを探り、歯切れのいい言葉でテンポよく返してくるという感じでした。話を終えると、「今日は組閣がありますので、急いでデスクに戻らないと…」と足早に立ち去った……というのが初対面の日でした。

教材を執筆するにあたって後藤さんが語った言葉が印象的でした。
「私は、子どもの目線に立とうとは思わない。子どもには、ぐうっと背筋を伸ばして、つま先立ちで、一生懸命、社会のこと、大切なことを考えてほしい。大人はちょっとだけ、その手伝いをすればいい。」
新聞記者の文章は、簡潔で、研ぎ澄まされた厳しいもので、私は、おっかなびっくり、もう少し物語性がほしいなどと、お願いしました。後藤さんの自宅で、奥様も加わって、夜遅くまで、さまざまな話で盛り上がったこともありました。

教材が完成する前に、後藤さんを団長に新聞社の方々と尾瀬に行き、長蔵小屋で長靖さんの奥様である紀子さんにお目にかかりました。長靖さん亡き後、小屋を切り盛りして、子どもを育て上げた豪快な方かな……なんて思っていたら、想像と違い、穏やかでにこやかな表情が似合う方でした。車座になって大声で話す新聞社の人々の傍らで、紀子さんは終始聞き役に徹していました。私が何を話したかは、全く覚えていません。初めての山、初めての山小屋で、ヨレヨレで緊張していて。なおかつ新聞社の人たちに、道中ずうっと圧倒されていて……。

平野長靖さん、紀子さんは北海道新聞の出身。後藤さんも毎日新聞と、志すものがどこか合致していたのでしょう。形は違えど「尾瀬」への熱い思いがあったのだと思います。また、後藤さんは、尾瀬にほど近い沼田高校の出身で、長靖さんとは同窓の親友でした。後藤さんは高校時代、青春小説を「蛍雪時代」に投稿し、秀作となり、掲載されました。きっと、長靖さんとは共に社会派でありながら、ロマンチシズムを語り合う学友であったのだろうと思います。

文: 編集部

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『光村ライブラリー 小学校編 第16巻』

過去の教科書掲載作品を収録したアンソロジー。
「守る、みんなの尾瀬を」をお読みいただけます。

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