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通常学級での特別支援教育 第26回

通常学級での特別支援教育

2018年6月15日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第26回 衝動性の高い子どもへの「三大禁じ手」

今日のポイント

  • 衝動性が高い子どもを力ずくで押さえるような指導や、「今日は何もしていないだろうな」という取り締まり型の指導は、子どもの素直さを失わせる。
  • 衝動的に動いてしまうことの背景として、脳機能のつまずきが見られることもある。要因を理解したうえで、「禁じ手(正当とは認められない関わり)」を踏まえて指導する必要がある。
  • 学校で起きたことであるにもかかわらず「家でよく言い聞かせてください」と伝えるのは、保護者の気持ちを追い込むようなものである。

衝動性が高い子どもを力ずくで押さえる指導は逆効果

クラスには、「思いついたらすぐに行動してしまう」「不適切なふるまいになかなかブレーキがかからない」「新しい刺激があるとすぐにそちらに飛びついてしまう」という子どもがいます。このような特徴は「衝動性」とよばれます。

画像、衝動性の高い子どもへの「三大禁じ手」

学校現場には、この衝動性をなくすことに躍起になってしまう先生が少なくありません。もちろん、「将来のことを考えて」という思いがあるからこそだと思いますが、短期間で、しかも格段にその子が変わる効果的な教育方法というのは、実は存在しません。

「そんな子どもは力で押さえるに限る」と強権的に対応する「鬼軍曹」タイプの先生がいます。このようなやり方は、その場・その瞬間だけなら何とかうまくいってしまうところがあります。というのも、衝動性の高い子どもは、「刺激依存性(周囲の刺激に振り回されやすいこと)」も持ち味にしているため、その先生がいるときだけは、まるでなりをひそめたかのごとく、おとなしくなることがあるのです。
ところが「おとなしくなったから、次は新任が担当しても大丈夫だろう」とみなしてしまうと大間違いです。次年度は反動のように衝動性が強くなり、結果として大人が振り回されます。そしてこのことが、「やっぱり強い指導でないとうまくいかないのだ」といった大人の誤解をさらに強化してしまうことにつながることも珍しくありません。

「今日は何もしていないだろうな」という取り締まりタイプの対応は、間違いなく子どもの素直さを失わせます。特に中学校では、いまだに「生徒たちを力で従わせ、思いのままに動かせる教師」を「できる教師」とか「力のある教師」とみなす残念な傾向が残っています。それは「力のある教師」ではなく「生徒たちの考える力を奪う教師」だと思うのですが……。

衝動性の高い子どもへの指導の「三大禁じ手」とは

衝動性が高い子どもたちへの指導においては、これから述べる「三大禁じ手」を十分に理解しておく必要があります。「禁じ手」とは、格闘技などで用いられる言葉で、「攻撃力・破壊力が大きすぎるため、正当な関わりとして認められない行動」のことをいいます。

「三大禁じ手」

  1. 強い指導
  2. 頭ごなしに叱る
  3. 押さえつけ

衝動性の背景には、中枢神経系(脳)の機能に不具合が見られることが少なくありません(例えば、「実行機能」という、行動に適切なブレーキをかける部分につまずきがあるなど)。いわば、脳が「いいことを思いついている」といった誤った信号を出してしまっていて、身体が勝手に行動を始めてしまっている、そう理解する必要があります。

大切なのは、子どもの行動にブレーキがかかっている場面に着目するということです。授業においては、「“ハイハイ!”と言わずに手を挙げられているA君、どうぞ」などのように、ブレーキのかけ方をモデル化して示すとよいでしょう。

保護者を追い込むような電話は避ける

最も避けたいのは、校内での対応不足を家庭に持ち込む指導です。放課後に電話などで「今日もこんなことをしでかしました。家でしっかり言い聞かせてください」と伝えるようなことを繰り返していると、やがて保護者は「学校で迷惑をかけないようにもっと言い聞かせなくちゃ」という気持ちをさらに強くするか、もしくは「もう夕方の電話は怖くて出られない」という気持ちを強くするかのどちらかになります。

家で何かを言い聞かせてほしいのであれば、せめて、「何を、どのように言い聞かせると効果的か」を丁寧に伝えましょう。
例えば、友達への不適切なふるまいにブレーキをかけられない子の場合、「“勉強面でがんばってきているから、お友達との関係づくりも期待している”と伝えてください」とか「“今は行動のブレーキがかかりにくいけれど、周りをよく見ているときはブレーキがかかっているよ”と伝えてほしい」などと伝えるのがよいと思います。

こうした答えを教師側が持ち合わせていないのにもかかわらず、ただ単に「言い聞かせて」と繰り返し伝えるのは、保護者とその子どもを追い詰めているだけのように思います。
親子関係を悪化させる方向に追い込むような指導は、もはや指導とはよべません。ただの丸投げをしているようなものです。


衝動性は、見方を変えれば「行動力のエネルギー」です。問題を減らそうとするのではなく、正しいエネルギーの使い方を丁寧に教え、それができている場面に着目して、適切なふるまいの場面を増やすことが大切なのではないでしょうか。

次回は、特別支援教育のケーススタディの例を紹介します。

Illustration: Jin Kitamura


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