英語教育 温故知新
2024年1月26日 更新
米田進 秋田県教育委員会前教育長
英語教育のこれまでとこれからを、対談形式で語ります。
小学校で外国語活動や英語を教える花井俊太郎先生は、英語の授業に少し苦手意識を持っています。どうすれば、もっと授業を楽しくできるのか、恩師である米田先生のところへ相談にやってきました…。
幼児~児童が親しみやすい英語の歌
花井
米田先生、こんにちは。先日は日本の英語教育の歴史について教えていただき、ありがとうございました。(→第1~3回の記事はこちら)
米田
やあ、花井くん。その後、英語の授業は楽しくできるようになったかな?
花井
いやぁ、やはりなかなか児童の心をつかむところまではいかず、試行錯誤の連続です。
米田
そうか、難しいんだね。また、最近では小学生の英語熱が一層強くなってきているように感じるし、一部では小学校入学以前の幼児期からすでに始まっていると言っても過言ではない状況だね。
うーん…。一つの方法なんだが、児童の心をつかむという意味で、英語の歌などを活用してみるのはどうだろうか。花井くんは、授業で英語の歌を取り入れることはあるかい?
花井
英語の歌ですか…。授業の中で児童と一緒に英語の歌を歌うこともありますが、あまり深く考えずにやっていました。
たしかに、書店などに行くと幼児・子ども向けの英語の歌が入っているCD付きの本、ボタンを押せば英語の歌が流れてくる絵本などが、たくさん置いてありますね。
米田
保育所や幼稚園、認定こども園などでは、外国人の講師を招いて英語を聞きながら遊ぶ時間を設けているところもある。日本語とは違う「音声」に接する機会を与えるようにとの気配りがあるのかもしれないね。そこでは、歌を何度も聞いて、耳から入ってくる音を大雑把に真似しながら、歌ったり講師の動作を真似たりしているのかな。
花井
もちろん、そこでは元気よく、少しでも「英語らしい音」で楽しく歌いましょう、ということに重きを置いているのでしょうね。
米田
市販されている幼児向けの英語教材の中に収録されている歌にはどんなものがあるか、つまり、小学校に入ってくる前にどんな歌に聞き馴染んでいる可能性があるかについて、知っておくのはいいかもしれないね。
花井
そうですね。児童たちの中にも、すらすらと歌える子たちと、なかなか歌えない子たちがいることがあります。
米田
一斉授業の中で、うまく導入していくのはとても大切なことだからね。まずは多くの児童たちに馴染みがあると思われる定番ソングをおさらいしていこう。
(1)ABCの歌
『きらきら星』のメロディーに乗せて歌う、誰もが知っているこの歌は、アメリカでは “LMNOP” を続けて歌うので、「エレメノピー」のように歌う。日本では、以前は “LMN(エルエムエヌ)” , “OPQR~(オーピーキューアール~)” と一文字ずつ歌うことが多かったから、そうやって覚えている先生方も多いかもしれないね。
(2)Twinkle Twinkle Little Star
ABCの歌と同じく、日本語でもお馴染みの曲なので子どもの頭にも残りやすいだろう。この曲は、元々18世紀にフランスで作られたものなんだ。今、世界中で歌われているTwinkle Twinkle Little Starは、そこに19世紀のイギリスの詩人ジェイン・ティラー(Jane Taylor, 1783-1824)の詩をのせた、いわゆる「替え歌」なのだといわれているよ。日本には、なんと明治~大正期には伝わってきていたんだ。
花井
この2曲は、児童たちもよく知っていますね。
米田
英語の歌の導入としては、定番中の定番といえるね。さて、他にも少し紹介していこう。
(3)BINGO
このBINGOは、あのゲームのビンゴでないことを児童には伝えておこう。これは歌の中に出てくる農場で飼われている犬の名前のこと。B・I・N・G・Oが何度も出てくるので発音の練習になるかもしれないね。
(4)Head Shoulders Knees and Toes
この歌は、歌いながら身体の部位に手を当てる動作をする。それによって身体の部位を英語で覚えることができる。歌詞に出てくる身体の部位は他に、eyes, ears, mouth, nose。
花井
Head Shoulders Knees and Toesは、歌詞に合わせてそれぞれの身体の部位を手で触っていく競争をすると、盛り上がります。
米田
子どもたちは早口で歌って競争することもあるから、盛り上がりすぎて他のことができなくならないように気をつけたいね。さて最後に、もう2つ定番ソングを紹介しよう。
(5)If You’re Happy(幸せなら手をたたこう)
この歌は同じ歌詞が繰り返し出てくるから、英語のリズムや発音の練習にもなる。clap your handsの部分を別の指示に変えて活動することもできるね。
(6)It’s a Small World
遊園地のアトラクションとともに、この曲を覚えている子どももいるだろう。歌詞の中にはlaughter, tears, hopes, fearsなど、感情を表す単語がたくさん出てくるので一緒に覚えてしまうと良いと思うよ。
花井
ありがとうございます。こうして見てみると、歌を通じて、児童たちがその後に学習していく単語や文法などを、自然に覚えていくことができそうですね。
米田
そうなんだ。この他に、メロディーが難しくないもので、誰でも聞き覚えのあるもの、また子どもだけでなくみんなで楽しめるようなものであることが重要だよ。なかでも同じフレーズを繰り返すものが、幼児や子どもに適しているという考えで取り入れられているようだね。まずは、小学校高学年になる前に歌を通して英語に触れることによって、英語(外国語)は楽しいものだということを経験させることが大事だと考えられているのだろう。
花井
今はスマートフォンでもこうした歌を聞かせることができるので、何度も何度も繰り返し聞いて、親子で楽しむこともできますよね。
米田
そのとおり。また、英語の歌を通じて親子のコミュニケーションをとる機会にもなるから、子どもが大人になってからもその記憶は消えないだろうね。
教科書に掲載されている英語の歌を活用
米田
このように、小学校低学年までの段階で、英語の歌にもある程度馴染んでおり、英語のネイティブスピーカーとも触れ合ったこともある子どもがいるということを、頭に置いておくといいね。
花井
そうですね。それらを前提にして、小学3・4年生の学級で外国語(英語)を楽しませ、5年生から教科としての英語を教えることになるということを、教師は頭に入れておかないといけませんね。
米田
うん。それでは実際に、令和2年度版の小学校の英語教科書『Here We Go!』(光村図書)で取り上げられている歌をチェックしてみよう。この中には、すでに児童にとって馴染みのあるものも含まれているだろう。
Here We Go! 5(令和2年度版)
- 世界のあいさつの歌(世界のあいさつを「アルプス一万尺」のメロディーに乗せた歌)
- ABCの歌
- This Is the Way
- I Love the Mountains(キャンプソング)
- It’s a Small World
- Pease Porridge Hot
- On Top of Spaghetti
- Everyone Is Special
Here We Go! 6(令和2年度版)
- How Do You Do?
- Do-Re-Mi
- Take Me Out to the Ball Game
- A Sailor Went to Sea
- Humpty Dumpty
- Sing
- Bring Happiness to the World
- Over the Rainbow
- I Think You’re Wonderful
花井
一覧で見てみると、実に多彩な歌が教科書に収録されていますね。
米田
そうだね。3・4年生では、音声面を中心として、コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を育てること、基本的な表現を用いて友だちとの関わりを大切にした体験的な言語活動を行うこと、英語に親しみながら言語や文化の理解を深めようとする態度を育てることなどを考慮して指導することになっている。このことから、英語を使ったゲームやクイズ、歌などが使われることが多いはずだ。
花井
そうですね。まずは楽しく英語に触れることが指導のポイントになりますね。
米田
歌については、子どもたちが5年生になるまでにどのような英語の歌に馴染んでいるのかを考えて計画を立てる必要があるだろう。5年生から6年生の終わりまでの計画を作るのは、実際のところとても難しいかもしれない。でも、同僚の先生たちと相談しながら一度作ってしまえば、学校の財産として共有できるね。
花井
たしかに、一人で作るのは大変そうですが、他の先生方と共同なら、良いものができるかもしれません。
米田
歌を提供するのも、思いつき、散発的にではなく計画に基づいて継続的に一貫して行い、歌うようにするのがいいだろう。例えば、1か月に1曲などと決めて、授業の最初や最後にみんなで一緒に歌うことにするのはどうだろう。教科書で紹介されていない曲もたくさんあるから、子どもたちの希望も取り入れ、先生の好みも加えて、楽しく歌えるものを求めていけばいいんじゃないかな。歌詞をしっかり覚えたいという子どもがいたら、教室の掲示スペースに貼るなどの工夫をしてあげることもできるかもしれないね。そうそう、そのときは歌詞だけでなくそれぞれの歌に関する説明、背景などを付け加えておけば、興味をもってさらに自分で調べてみようとする子どももでてくると思うんだけど。
花井
そうですね。これまでは、なんとなく英語の歌を聞かせて、歌わせてというだけでしたが、少し工夫をするだけで児童の英語への関心をもっと高めることができそうですね。明日からさっそく取り組んでいきたいと思います!
米田
応援してるよ!自分自身の財産にもなるし、頑張ってみよう。
米田進(よねた・すすむ)
秋田県教育委員会前教育長
1951年秋田県生まれ。東京外国語大学外国語学部英米語学科卒業。秋田県立高等学校教諭・校長等を経て、2011~2020年度まで秋田県教育委員会教育長。