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子どもも大人も地続きにつながる権利

光村ポケット 道徳と人権教育

2023年12月15日 更新

光村図書 道徳課

道徳教育の専門家である荒木寿友先生と弁護士の真下麻里子先生に「道徳」と人の権利である「人権」について語っていただきました。

荒木:

人権を守るために、子どもたちに必要になってくることは、どんなことだと思いますか。

真下:

権利に縦のベクトルがある(光村ポケット中学校道徳「道徳と人権教育」参照)ことを知るというのはもちろんですが、どこに権限があって、どのような手続きを経れば自分たちの権利を行使できるかを知ることでしょうか。

荒木:

手続き……、権利を行使するための手順を知るということですかね。

真下:

はい。例えば、子どもたちが「校則を変えたい」と思ったとします。

荒木:

生徒総会などでも、よく話題にあがりますよね。「くつ下の色を自由にしたい」とか、「昼休みに体育館を使えるようにしたい」とか。学校によって校則はさまざまですので、きっと変えたいこともいろいろでしょうね。

真下:

でも、校則を変える権限がどこにあるかわからないままですと、せっかく話し合っても、それだけでは何も変えられません。

荒木:

つまり、「くつ下の色を自由にする」とか、「昼休みに体育館を使えるようにする」と話し合って、せっかくみんなで決定したとしても、校則は変わらない可能性があるということですね。自分たちの権利を行使するのに、どのような手順を踏めばいいかということを教えられていないし、そもそも権限がどこにあるかなんて知らないでしょうし。それでは「意味のない」話し合いになってしまいますね。

真下:

校則の場合、改正権限をもつのは校長先生です。ですから、自分たちで話し合って何かを決めたら、校長先生に「変更してもよい」と思ってもらえるよう働きかける必要があります。これは校則の例ですが、世の中、どんなところにも権限をもつ人、もたない人という関係はあります。私たちは自分たちの権利が十分に守られていないときどうすればよいか、どこに権限があって、どこに働きかけていくかを考えなければなりません。そのために、大人の世界では法律等によってその手順が明示されています。子どもたちにも知らせる必要性は高いでしょう。

荒木:

それを知らないで、子どもたちがただ話し合っているということが日常であるかもしれませんね……。道徳科でも問題解決していくことがとても大事と言われているんですが、学校生活の中で、実現可能性の高い「意味のある」話し合いをするためには、そういった基本的なこと(話し合いの前提となる条件)を押さえたうえで話し合いをしていけるとよいと思います。「意味のある」話し合いができれば、問題を解決していく力がつくので、道徳科の果たす役割も大きいですよね。

真下:

権利を行使することをうまく学べている例としては、ルールメイキングに取り組んでいる学校があると思います。ルールメイキングは、そもそもルールを変更する前提で取り組んでいるので、多くの場合、改正手続が明らかにされています。

荒木:

それと校長先生が生徒に権限を委譲している学校もありますよね。子どもたちが対話を重ねてルールを作り上げていく。その話し合いは、「誰一人取り残されないようにする」ということが条件になるようですが、子どもたちが主体的に校則と関わることができるのがよいと思います。

真下:

子どもたちが「自分たちの決定がちゃんと影響を与えることができるのだ」とわかることが大切で、どういうプロセスを経たら自分たちの意見が通るのかという道筋を大人や権限のある人が見せていく必要があると思います。

荒木:

海外では、学校でデモやストライキのことを学びますしね。

真下:

それは、まさに縦の権利行使のことですね。

荒木:

日本はなかなか学ぶ場がない。

真下:

むしろ、そのようなことに否定的な風潮があるようにも思えますね。ただ、それは実は私たち大人の権利を狭めることにつながっています。

荒木:

縦の権利は、「私」だけではなく、「みんな」にある権利ですからね。「子ども」の権利を尊重していくことは、私たち「大人」の権利の行使にもつながってくるということですね。

真下:

そうなんです。子どもも大人と同様、表現の自由(憲法第21条1項)や自己決定権(憲法第13条)などの権利があります。こうした自身の権利が制約されることに違和感を覚えない子どもたちが、大人になった途端に自身の権利の制約に声を上げられるとは考えにくいですよね。大人と子どもの権利は地続きになっていて、実は私たち大人の基本的人権に対する理解にも直結しています。ですから、まずは私たち大人が感度を高くもって、自分たちの権利を行使していくこと、子どもたちに権利の大切さを教えていくことが必要だと思います。

荒木:

私たち教師、大人にかかっているということになりますね。

Photo : Tomohiro Watanabe

真下麻里子 写真

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荒木寿友(あらき・かずとも)

立命館大学大学院教授

教育学、道徳教育を専門とする。主な著書に『いちばんわかりやすい道徳の授業づくり』『ゼロから学べる道徳授業づくり』(ともに明治図書出版)などがある。光村図書小・中学校『道徳』教科書編集委員。

真下麻里子(ましも・まりこ)

弁護士/NPO法人ストップいじめナビ理事

全国の学校でオリジナルのいじめ予防授業や講演活動を実施する。主な著書に『弁護士秘伝! 教師もできるいじめ予防授業』『「幸せ」な学校のつくりかた――弁護士が考える、先生も子どもも「あなたは尊い」と感じ合える学校づくり』(ともに教育開発研究所)などがある。

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