Let's start ソーシャルスキル
2015年1月30日 更新
荒畑 美貴子
基本的な考え方から具体的な指導方法まで、ソーシャルスキル教育に関することを、荒畑美貴子先生(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)がご紹介します。
教育の現場で、「ソーシャルスキル」という言葉をたびたび耳にするようになりました。ソーシャルスキルとは、具体的にどのようなことを意味するのでしょうか。荒畑美貴子先生(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)が、四つの質問にお答えします。
回答:荒畑 美貴子(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)
質問2 ソーシャルスキルの型を覚える必要はあるのでしょうか。
質問3 ソーシャルスキルは、相手を尊重するものであればいいのですか。
質問4 ソーシャルスキルは、人に対してだけに必要な技術でしょうか。
質問1 ソーシャルスキルとは何ですか。教えてください。
ソーシャルスキルとは、社会生活を送るうえで、良好な人間関係を築くために必要な技術や能力のことをいい、「人づきあいのコツ」と表現することができます。
広い意味で使うなら、作法やマナー、洋服のセンスや着こなし、髪型、あるいはその人から発せられるイメージといったものも含まれます。しかし、教育の現場で扱う場合は、もう少し絞り込んで使われることが多いようです。
例えば、人と関わるときには、声の大きさやイントネーション、表情、視線、相手との距離、しぐさや動作などのコツを覚えておくと、関係を良好に保ちやすくなります。
また、場の雰囲気や相手の感情に合わせた表現をすることも、大事なポイントになります。
子どもたちに指導する際、次のような例を示すとよいでしょう。
人づきあいのコツを知っていると、誤解を招くような表現を避けることができるようになり、よりよい人間関係を築くことにつながっていくのです。
質問2 ソーシャルスキルの型を覚える必要はあるのでしょうか。
人と関わるときに、声の出し方・表情や視線、相手との距離を適切にするといいということは、【質問1】でも述べました。ソーシャルスキルを知っていることによって、普段から気をつけることができるようになることは、人と良好なコミュニケーションをとるうえで、たいへん重要です。ソーシャルスキルが、場の雰囲気や相手の気持ちや感情に合わせて変化するものであるなら、そのとき、そのときに対応を考えればいいと思われる方もいるかもしれませんが、一つの型を覚えるのは決して悪いことではありません。型をもとにして応用できるようになることが大切なのです。
さらに、どのような表現が好ましいのかを判断できるようになると、スキルにも磨きがかかってきます。スキルを学ぶことが無駄になるということはないのです。
質問3 ソーシャルスキルは、ただ、話し方や接し方が、その場にふさわしく、相手を尊重するものであればいいのですか。
確かに、相手を尊重することは大切です。しかし、相手を意識しすぎるあまりに、自分の感情を抑えてしまい、不満が残るようなやり方は適切とはいえません。Win-Winの関係、すなわち「自分にもいい、相手にもいい」という関係をつくっていくことが大切です。そういった関係を、「アサーティブな関係」といいます。
アサーティブな関係をつくるには、相手の気持ちや立場を尊重しながらも、自分の気持ちを伝えることが大切です。トラブルが起きたときに、丸く収めようとするあまりに相手の言い分を100%受け入れることもありますが、それは先々を考えるといいこととはいえません。言い訳ではなく、説明をすることも大切なのです。
相手も大事だけれど、自分のことも大切にしていこうという考え方があることを忘れないでほしいと思います。
質問4 ソーシャルスキルは、人に対してだけに必要な技術でしょうか。
私は、自分が毎日生活していくうえで表現すること全てにおいて、ソーシャルスキルが必要だと思っています。社会で生きていくための技術となるわけですから、人と対しているときだけのことではありません。
例えば、ドアを乱暴に閉めるような動作は、周囲の人に嫌な気持ちを引き起こします。そして、乱暴だという印象を相手に与えてしまいます。ドアを丁寧に閉めることで、その人の生き方が表れることもあるのです。
人、あるいはペットなど命あるもの、身の回りにある物や環境、そして自分自身にも丁寧に対応していくためのコツが、ソーシャルスキルです。ですから、古くから伝わる作法やマナーには、学ぶべきことがたくさんあります。学校で扱う内容には限りがありますが、日常の中で学びを広げたり深めたりしていってほしいと思います。
荒畑's ポイント
ソーシャルスキルは「人づきあいのコツ」。普段から気をつけることが重要です。人に対してだけではなく、身の回りにある全てのもの、自分自身にも、丁寧に対応していき、社会で生きていくための技術を身につけていきましょう。
荒畑 美貴子(あらはた・みきこ)
元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事。東京都公立小学校教諭として勤務しながら、2008年12月よりTISEC(※)の活動を始める。2012年10月、特定非営利活動法人TISEC理事長に就任。専門は教育学。小学校教育における課題とその解決法について研究を行っている。ソーシャルスキル教育の実践も多い。
※TISEC……全ての子どもたちの幸せを願って、より理想的な学校教育の実現を目ざして設立され、主に若手教師の育成、発達障害や不登校に悩む子どもたちや保護者の支援充実のために、メディアによる情報発信と、講演会、相談活動を行っている。
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