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第3回 道徳の授業におけるソーシャルスキル

Let's start ソーシャルスキル

2015年1月30日 更新

荒畑 美貴子

基本的な考え方から具体的な指導方法まで、ソーシャルスキル教育に関することを、荒畑美貴子先生(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)がご紹介します。

これまで2回にわたり、ソーシャルスキルとは何か、なぜ学校教育の中でソーシャルスキルを扱っていく必要性があるのかについて考えてきました。今回は、道徳の授業の中で、ソーシャルスキルをどのように扱っていけばいいのかお答えします。

回答:荒畑 美貴子(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)

質問1 道徳の授業の中で、ソーシャルスキルを扱うことの意義は何でしょうか。

質問2 道徳の授業の中に、どのようにソーシャルスキルを取り入れるといいのでしょうか。

質問3 ソーシャルスキルトレーニングは、どのような手順で行えばいいのでしょうか。

質問4 質問3の手順を毎回行っていくのは、負担に感じるのですが。

質問1 道徳の授業の中で、ソーシャルスキルを扱うことの意義は何でしょうか。

道徳の授業で教えた道徳的価値、例えば、「思いやり」について教えれば、あとは子どもたちが当然のように思いやりのある言葉かけをするものでしょうか。

知識として「思いやり」について理解できることと、実際に「思いやり」のある行動が取れることとは違いますね。トラブルを起こした子どもたちに「どうして思いやりをもてないのですか?」と問いかけると、「思いやりをもっています」と言い返されるようなことが、私の体験でもかつてより増えているように思います。これは、優しく接しよう、友達を大事にしようと思っているのに、表現力が伴っていない表れといえるでしょう。

「自分の思いを相手に誤解されることなく伝えるには、コツがある」と知ることは、道徳の授業の成果を上げるためにも必要になってきているのです。

また、授業の中で、ソーシャルスキルを踏まえて役割演技を行ってみることで、「気づき」が増えることが期待できます。例えば、「今日は遊べないんだ、またね」と言われたときと、「ごめんね、今日は出かける用事があって遊べないんだよ。明日遊ぼう」と言われたときでは、受け手の感情の動きが異なるのです。それを体験することで、どのような言い方や表現をすると、相手を傷つけないですむのかを考えられるようになります。教材を読むだけでは気づくことが難しい感情が、体験を通して実感できるのです。

質問2 道徳の授業の中に、どのようにソーシャルスキルを取り入れるといいのでしょうか。

授業ではまず教材を読み、道徳的な価値を捉えさせることが重要です。
授業でのねらいをしっかり押さえた後、ソーシャルスキルトレーニングの手法を用いてみましょう。

「黄色いベンチ」(小学校道徳副読本2年に収録)でソーシャルスキルトレーニングを取り入れる場合

あらすじ

二人の男の子が、紙飛行機を遠くまで飛ばそうと泥靴でベンチの上に乗ったため、ベンチを汚してしまいます。そこに、小さな女の子がやって来て、ベンチに座ったことから、衣服が泥だらけになってしまいます。

ケーススタディ

このように、「(1)謝罪→(2)理由→(3)相手にとってよい提案」という声かけのコツを頭文字から「作戦ゴリラ」と表現することがあります。

質問3 ソーシャルスキルトレーニングは、どのような手順で行えばいいのでしょうか。

まずは、場面の設定を確認しましょう。次に、声の大きさやイントネーション、表情や視線、しぐさ、相手との距離などに気をつけることを共通理解させます。その後、以下のような手順で行ってみましょう。

1.適切、あるいは不適切と思われるモデルを示す

どこがよくて、どこを直せばいいのかに気づかせる。

2.グループに分かれて役割を交代しながら演じさせる

役を演じない者には、演じる者を評価させる。評価は、よくないところをけなすのではなく、よさを認め合い、よりよくするためのアドバイスをさせるようにしましょう。

3.実際に行ったものを振り返らせる

実際にやってみて気づいたこと、今後生かしていきたいと思ったことなどをまとめさせる。記録をきちんと保存するために、ワークシートの最後に振り返りを記入する欄を設けておくとよいでしょう。

質問4 質問3の手順を毎回行っていくのは、負担に感じるのですが。

慣れてくれば短時間で行うことができるようになります。ただ、ソーシャルスキルトレーニングを毎回行う必要はありません。クラスの実態や教材に合わせて、これだけは身につけさせようという内容を確認しておくとよいでしょう。学年の初めに年間で計画すると負担なく実践することができます。

荒畑's ポイント

ソーシャルスキルトレーニングの手法を用いると、実践力を身につけることができたり、感情のやり取りを深く理解できたりすることが期待できます。しかし、毎回行う必要はありません。ソーシャルスキルトレーニングを取り入れやすい教材を選び、ポイントを押さえて気軽に取り組んでいきましょう。


荒畑 美貴子(あらはた・みきこ)

元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事。東京都公立小学校教諭として勤務しながら、2008年12月よりTISEC(※)の活動を始める。2012年10月、特定非営利活動法人TISEC理事長に就任。専門は教育学。小学校教育における課題とその解決法について研究を行っている。ソーシャルスキル教育の実践も多い。

※TISEC……全ての子どもたちの幸せを願って、より理想的な学校教育の実現を目ざして設立され、主に若手教師の育成、発達障害や不登校に悩む子どもたちや保護者の支援充実のために、メディアによる情報発信と、講演会、相談活動を行っている。

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