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第3回 障害を抱える子、課題のある子に向き合う

多様性を尊重し合う学校づくり

2023年4月25日 更新

熊谷 茂樹 前 埼玉県川口市立朝日東小学校長

一人一人の多様性を尊重し、生かす――そうした学校づくりに長く取り組んできた筆者が、これまでのエピソードをつづります。

第3回 障害を抱える子、課題のある子に向き合う

かねてから念願の特別支援学級の設置校に校長として着任できたときの話だ。知的障害と自閉症・情緒障害の子どもたちの学級が3クラスある小学校で、そこで定年退職までの4年間を過ごした。
「うちの学校の子どもたちは、みんなで担任している」。そういう雰囲気が醸し出された学校であった。400人もいない規模の学校であったことも幸いしたと思うが、教職員は、どの学年の、どの子のことも知っていた。特に、「困っている子ども」については、基本的な情報を共有できていた。教室でつまずきを起こしてしまう子どもが職員室で勉強していることを、当たり前の光景として皆が捉えていた。そして何よりも大切にしていたのは、一人一人の特性に応じた向き合い方だった。

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通常学級には、多動によって教室にいることができない子どもたちがいる。そういう子どもの頭を押さえつけて、おとなしく座らせようとすれば、そのときはじっとしていても、必ず揺り戻しが起こることを誰もが知っていた。我々は、二次障害、三次障害を恐れた。
Aさんも、その一人だった。「少し、うちで預かってみましょうか」と、特別支援学級の主任が提案してくれた。「うまくいくかいかないかは、やってみないとわかりません。TRY & ERRORです」。特別支援学級のスタッフも同意見であった。全員が納得し、保護者の了解を得て、その年の12月、いわゆる教育的配慮による特別支援学級での生活をゆっくり始めてみた。刺激の少ない環境で、日に日に表情が和らぎ、Aさんは特別支援学級では離席することがなくなった。かいつまんで話すとそういうことだが、トラブルがなかったわけではない。しかし、Aさんが笑顔で「僕の教室はここ」と言えるようになったことは間違いない。年明けからAさんの措置替えが決まった。

昔の話になる。まだ若手教師の時代に特別活動の研究発表会で、一つのクラスの学級会を参観した。参観者は廊下まであふれていた。学級会の終末で、司会の児童が「それでは、書記のBさん、今日決まったことを発表してください」と言った。話し合いの上手な子どもたちであった。Bさんが起立して書記ノートを読み上げた瞬間、教室の中に生まれた雰囲気に衝撃を受けた。Bさんは重度の言語障害を抱えていた。大きな声で発声しているが、何を言っているかはわからない。ところが、子どもたちはBさんの方に身を乗り出し、聞き入り、しきりにうなずいていた。Bさんが発表を終えて着席すると、穏やかな雰囲気の中、学級会は終了した。
担任は、かねてから尊敬する先輩であった。「先輩。今日の大舞台で、なぜ、あの子に発表の役をやらせたのですか」ときくと、「うん、輪番制の順番だから。それだけ」。何十年も前のことだが、いまだ、あの日の光景が私の根っこにある。

Illustration: こやまもえ 

熊谷 茂樹(くまがい・しげき)

前 埼玉県川口市立朝日東小学校長

1961年生まれ。埼玉県特別活動研究会顧問。埼玉県蕨市・川口市の公立中学校教諭を経て、2005年、川口市教育委員会 指導課指導主事として、国語・特別活動を担当。その後、川口市の公立小・中学校にて教頭、校長を務め、2022年3月に退職。現在、川口市の公立小学校にて初任者研修指導教官を務める。埼玉県内外にて、国語・特別活動・学級経営に関する指導を行う。教育総合誌「教育総合技術」(小学館)で連載「今月の学校経営」を執筆。

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