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第7回 共に生きようとする子どもたち

多様性を尊重し合う学校づくり

2024年2月6日 更新

熊谷 茂樹 前 埼玉県川口市立朝日東小学校長

一人一人の多様性を尊重し、生かす――そうした学校づくりに長く取り組んできた筆者が、これまでのエピソードをつづります。

第7回 共に生きようとする子どもたち

1年1組。ぼくのクラスのKさんはお勉強が苦手です。授業中は先生のお話に「うんうん」とうなずくけれど、ノートは誰にも真似できない模様でいっぱい。お話はしません。ぼくたちとも先生とも。できないことはたくさんあるけど、ぼくたちみんな、Kさんが大好きです。Kさんは、いつもにこにこしています。ニュウシの前歯が抜けたばかりの笑顔を見ていると、ほっこりします。Kさんは誰かが泣いていると、そばに行って一緒に泣きます。お掃除が得意です。終わりの時間になっても汗びっしょりで窓を磨きます。Kさんがいるだけで、みんながやさしくなれます。ぼくたちみんな、本当にKさんが大好きです。

1組では今、お昼休みに鬼ごっこをするのが はやっています。先生も一緒になってやってくれます。Kさんを誘うと、にこにこ笑顔で一緒に校庭に出ます。でも、さあっと鉄棒の所へ行ってしまいます。絶対に一緒に鬼ごっこをしてくれません。鉄棒の所から、鬼ごっこをやっているぼくたちみんなを見ています。にこにこ笑顔で見ています。鉄棒の所へ行って「Kさん、一緒にやろう」と何度誘っても、にこにこ笑顔で首を横に振ります。ぼくたちはKさんと一緒に鬼ごっこがしたいので、先生に相談しました。先生もにこにこ笑顔で「そうだねぇ。どうしたもんかねぇ」と言うだけです。

みんなで相談しました。「ねえ、なんでKさんは一緒にやってくれないのかな」「校庭までは一緒に出てくれるし、教室に戻るときも一緒に走って帰ってくれるよね」「Kさんに『なんで?』ってきいてみたら、やっぱりにこにこするだけだったよ」「(みんな)ううううううん」。そしたら誰かが言いました。「Kさんは、わたしたちが鬼ごっこをしているのを見ているのが好きなんじゃないかな?」。

次の日から、ぼくたちみんなは、いつもどおりKさんと校庭に出ました。そして、いつもどおり鬼ごっこをしました。でも、昨日とはちょっと違いました。みんなで考えたんです。鬼ごっこをしながら鉄棒の前を通るとき、「Kさぁん!」と声をかけて、手を振るって。Kさん、うれしそうに手を振り返してくれました。みんな、うれしくなって、何度もKさんの前を通って、ぶんぶん手を振りました。昨日より鬼ごっこが楽しくなったねって、みんなで笑いました。もちろんKさんも一緒に笑いました。

第7回のイラスト

「クラスみんなで」が美徳になりがちです。みんな一緒、みんな同じ。みんなから弾かれたくなければ、同調するしかない。しかし、1年1組の子どもたちは、自分たちに同調しない級友も一緒に幸せになるために、どうしたらよいかを考えました。
異質な他者とどう暮らしていくか。他者と同調できない自分をどう守るか。世界はまだまだ答えを出せません。考え続けなければなりません。1年1組の子どもたちのように。

連載のシーズン2が始まりました。再び、みなさんとお会いできたことを心から幸せに思います。どうぞよろしくお願いいたします。

Illustration: こやまもえ 

熊谷 茂樹(くまがい・しげき)

前 埼玉県川口市立朝日東小学校長

1961年生まれ。埼玉県特別活動研究会顧問。埼玉県蕨市・川口市の公立中学校教諭を経て、2005年、川口市教育委員会 指導課指導主事として、国語・特別活動を担当。その後、川口市の公立小・中学校にて教頭、校長を務め、2022年3月に退職。現在、川口市の公立小学校にて初任者研修指導教官を務める。埼玉県内外にて、国語・特別活動・学級経営に関する指導を行う。教育総合誌「教育総合技術」(小学館)で連載「今月の学校経営」を執筆。

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