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子ども理解の
「そこ大事!」

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

子どもたちとの距離を埋めるための大事なポイントを整理して、具体的に解説します。

誰もが「子ども時代」を通ってきたはずなのに、子どもの気持ちが見えなくなるのはなぜでしょうか。それはきっと、大人になるにつれて子どもの頃に抱いていた気持ちとの距離が生まれてしまうからだと思います。教育や子育てでは、子どもをより深く理解することが何より大切だと言われています。本連載では、子どもたちとの距離を埋めるための「そこ大事!」と思えるポイントを整理していきます。

第2回 すぐに諦めてしまう子ども
――自己効力感(Self-efficacy)

2021.05.31

自分の能力よりも少しだけ難しい課題に直面したとき、「がんばってやってみよう」と思える子どもと「無理、やらない」と諦めてしまう子どもがいます。

両者の間にある差はなんでしょうか。それが、今回のテーマの「自己効力感」(Self-efficacy/セルフ・エフィカシー)です。

自己効力感は、カナダの心理学者バンデューラが1977年に提唱した概念で、「目の前にある目標を実現できる力をもてていると認知していること」を意味します。

もう少しわかりやすく表現すれば、「“大丈夫、自分ならできそう”と予期・確信すること」をいいます。

「自分にはできる」という気持ちを抱けるようになるには、以下の四つの要因が影響するとバンデューラは考えました。

  1. 何かを成し遂げたという経験を有すること(達成経験)
  2. 自分の能力やスキルを他者から肯定的に認められること(社会的説得)
  3. 誰かが行動するやり方を見て、「自分のほうがより良くできる」と思えること(代理体験)
  4. 心身ともに元気なこと(生理的感情的状態)

自己効力感が高い子どもは、チャレンジ精神をもって「よし、やってやるぞ!」と前向きに行動することができます。反対に、自己効力感が低いと、やる前から挑戦すること自体をためらうようになります。自己効力感の高低は、目の前の課題に向かう積極性と深い関係があるのです。

こうしたことから、自ら行動(アクション)を起こすためには、その前提として、自己効力感が不可欠だといえます。

子どもたちの自己効力感の「さじ加減」は一様ではありません。

よく使われがちな「やればできる」という言葉は、その裏側に「やろうとしないから、できないのだ!」という意味合いが含まれます。自己効力感が低い場合は、「やろうとしない」のではなく「できそうに思えないから動けない」のです。

そうした子どもには、

「“無理だよ!”っていう気持ちもわかるよ」

「“できそうにない!”って感じたからこそ、ためらいが生まれたんだよね」

「まずは周りを見て、気持ちが高まるまで待ってみようか」

「あなたなら大丈夫」

「(別の行動を引き合いに出しながら)あのときは○○するのも難しかったけれど、今はできている」

などの言葉かけを通して、気持ちに寄り添うことから始めたいものです。

画像、気持ちの寄り添う言葉かけの場面

バンデューラはさらに踏み込んで、自己効力感と「行動を起こせば、ある特定の結果(成功)を得られるだろう」という期待(「結果期待」)の度合いとの組み合わせによって、人の感情はさらに複雑に変化することも看破しました。

例えば、「自分ならできる」と思っているのに、良い結果が得られそうにない状況(自己効力感が高いのに結果期待が低い場合)においては、環境の変化を求める不満が強くなります。正当な結果が出ないことへのフラストレーションが強くなるのです。

このことは、自己効力感に見合ったレベルの課題を提示する必要性を示唆しています。

その一方で、「自分は能力が低い」と思っているときに、簡単にできてしまうと想定される課題がもち込まれると(自己効力感が低いにもかかわらず、結果期待が高い場合)、かえって自己価値の低下や気分の落ち込みが誘発されます。

「自信がなさそうだから簡単なレベルの課題を用意しておこう」という大人側の配慮が、かえってその子の気持ちを潰してしまうということもありうるのです。

このことは、容易すぎる目標を数多く繰り返しても、本当の意味での自己効力感にはつながりにくいということを示唆しています。

大人にとっても自己効力感は重要です。最近、教師の間でも「すぐできる○○」「今すぐ使える○○」「簡単に子どもが動く○○」のようなキャッチフレーズを用いた書籍がかなり売れる時代になってきました。教師も自己効力感を欲しているのかもしれません。

しかし、手っ取り早くできる方法ばかりを求めても、本当の意味での自己効力感にはつながりません。自分自身でも深く追究する姿勢が、教師にはことさら求められると思います。

今日の「そこ大事!」

  • “大丈夫、自分ならできそう”と予期・確信することを「自己効力感」という。
  • 自己効力感の高低は、目の前の課題に向かう積極性と深い関係がある。「できそうにない」といった態度を見せる子には「やればできる」と返すのではなく、気持ちに寄り添った言葉かけをしよう。
  • 子どもの自己効力感を見取り、それに見合ったレベルの課題を提示することも重要。

〈参考文献〉

  • 鎌原雅彦・竹綱誠一郎 著(2019)『やさしい教育心理学[第5版]』有斐閣、pp.85-88
  • 渋谷昌三 著(2017)『決定版 面白いほどよくわかる!心理学 オールカラー』西東社、pp.166-167
  • 藤田哲也編著(2021)『絶対役立つ教育心理学[第2版]実践の理論、理論を実践』ミネルヴァ書房、pp.46-51

Illustration: 熊本奈津子

川上 康則

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『子どもの心の受け止め方』(光村図書)、『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』(学苑社)など。