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第7回 語彙指導 ―「言葉の宝箱ノート」―

そがべ先生の国語教室

2015年10月13日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第7回 語彙指導 ―「言葉の宝箱ノート」―

語彙指導の重要性はずっと言われていて、心ある先生たちがいろいろな指導を工夫していると思います。そのとき大切なのは、ある言葉が本当に生き生きと使われている場面で、「よい言葉だなあ」「すてきな表現だなあ」「なるほど、この言葉がそんな意味を担っているのか」などと感じながら、言葉と出会っていく場をいかにたくさん作っていくかではないでしょうか。
語彙指導というと、いかに言葉を増やすかという方向につい目が行きがちで、それはもちろん大切なのですが、そういう意味では、もしかすると、一つの言葉をいかに広がりのあるものとしてとらえるか、深みのあるものとして感じるかということも大切なのかもしれませんね。そしてこういう経験は、読んだり、聞いたりして、他者の言葉と出会うときに起こりやすいように思うのです。

私が「言葉の宝箱ノート」という実践を継続しているのも、新しい言葉と出会う経験とともに、すでに知っていた言葉であっても、ある文脈で使われたときに「何か心にグッときた」という経験を大切にしてほしい、そう思ったときに、できればその文脈ごと、少なくとも前後の文章ごと書きとめてほしいと思うからなのです。

「言葉の宝箱ノート」は、『中学校国語教育相談室 76号』(※)などでも取り上げていただきましたが、生徒一人一人が自分の好きなノートに、生活の中で出会った「すてきだな」と感じた宝の言葉を書きとめていく取り組みです。

※「中学校国語教育相談室76号」はこちらから

ノートの作り方

  • ノートは、いつも通学鞄に入れて持ち歩ける大きさで、お気に入りのデザイン・形のものを、自分で選ばせる。これは大事。
  • 生活の中で出会い、いいなあ、すてきだなあ、感動した……などなど心動かされた言葉であれば、どんな言葉でもよい。忘れないうちに「言葉の宝箱ノート」にメモする。
  • 取材対象は、例えば、本、雑誌、新聞、テレビ、などの他、友だちや家族など身近な人達の言葉、マンガや歌の歌詞などもOK。電車の吊り広告や、街の看板・掲示物などでもOK。
  • このとき、出典(話した人、テレビなら番組名、本なら書名、インターネットならサイト名やURL、など)をいっしょにメモする。これはオリジナルを尊重する態度を育てるとともに、調べ直すときにも便利。
  • その言葉がいいなあと思った理由も書き添えておく。発表の材料になります。
画像、言葉の宝箱ノート
画像、言葉の宝箱ノート

生徒たちの「言葉の宝箱ノート」

発表の仕方

私は、授業のはじめに、帯単元の形で継続しています。始業の挨拶を交わした後、国語係が司会をして展開します。

発表では、
(1)出典(書名・著者名等)、どんな場面で出てくる言葉か
(2)紹介したい宝物の言葉
(3)よいと思う理由
の三つの内容を必ず盛り込むようにします。順序は必要に応じて工夫して構いません。

聞き手がメモをするので、1度目は短めに切って、ゆっくり読みます。2度目は、普通の速さで、すらすらと意味が伝わりやすいように読みます。こうして2回読むのが大切です。

聞き手のメモ

画像、授業の様子
「言葉の宝箱ノート」の発表を聞いて、メモする生徒たち。

発表を聞く側は、自分の「言葉の宝箱ノート」にメモを取りながら聞きます。
発表者が述べた(1)と(2)は必ずメモします。(3)はできればメモし、さらにできればその言葉に対する自分の感想など、コメントを添えると良いことを指導します。

最初の頃には、聞き手のメモが追いつかないほどの速度で読んでしまう子が出ます。適切な速さ、聞き手を意識した読み方を工夫させましょう。

また、聞き手がメモしやすく、また内容を理解しやすいように、どこで区切って読むか=意味のひとまとまりを意識して読むように指導することも大切です。

例えば、次の言葉はある生徒が紹介した、松井秀喜さんの言葉です。

困難に直面したとき、今、自分にできることは何か、と自問します。
悔やみ落ち込むしかないでしょうか。多くの場合、そんなことはありません。
きっと前に進める選択肢があるはずです。

これを読む場合、「短めに区切りながらゆっくりと」という指導を意識した発表者は、

「困難に、直面したとき、今、自分に、できることは、何か、と自問します。」

のように切ってしまいました。
そこで、「長すぎても困るけど、意味がひと続きにつながっているところは一気に読んだほうが耳に残りやすいよ。例えば、

「困難に直面したとき、今自分にできることは何か、と自問します。」

と切ると意味がわかるし、だからメモしやすいのです。そして「困難に直面したとき」と区切ったら、聞き手の様子を観察して、だいたいの人が書き終わるまで間を取ります、と言って、もう一度最初から発表しなおすようにさせるのです。数人が発表する頃には、読み方のコツをみんなが理解するようになります。
聞き手を意識したスピーチの指導にもつながります。

発表が終わったら、紹介された言葉について、一言コメントを添えます。私は、その言葉の価値を高めるように、またその言葉を見つけた発表者を讃えるようにコメントすることを心がけています。

「言葉の宝箱ノート」をやるようになって思わぬ副産物がありました。
それは、前の時間が長引いて駆け込んできたようなときでも、体育の授業や昼休みの後でも、ざわざわがやがやとして授業が始まらないということがなくなったことです。発表に耳を傾け、聴き入ってメモする。なんとも落ち着いた国語教室の雰囲気が生まれるのです。

次回は、「比べることで考える力を育てる」というテーマで、実践をご紹介します。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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