そがべ先生の国語教室
宗我部 義則
お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭
30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに,明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。
第16回
デジタル教科書で読みを深める(3)
――人物相関図を作る
2016.09.20
前回に続き,デジタル教科書を授業の中でどう活用していくかご紹介していきます。
第14回 デジタル教科書で読みを深める(1)――黒板ツールを使って
第15回 デジタル教科書で読みを深める(2)――黒板ツールを使って
人物相関図を作って読む
今回は,「資料・ワーク」に収録されている,「人物相関図を作る」機能を使って,読みを深める授業をご紹介します。例えば,「故郷」(3年)で登場人物の人間関係を図にしてみましょう。
これは生徒たちと一緒に考えながら発見したことですが,とてもおもしろいことが見えてきます。
「故郷」では,私(シュン),母,父(回想のみ),ホンル,ヤンおばさん,ルントウ,シュイション,5歳の女の子,という8人の登場人物が出てきますが,「ペア(対)」の関係を作っているのは,私とルントウ,ホンルとシュイション,そしてすぐには気づかないかもしれませんが,私の父とルントウの父も一対です。
これら三つのペア(対)についてそれぞれの関係を人物相関図にしてみましょう。
作り方は簡単です。画面右のスタンプから必要な人物や関係をドラッグ&ドロップして,その間を線でつなぐだけです。(図1)
(図1)
ここまでできたら,授業者が,私の父とルントウの父についてだけ,「主従」のスタンプを使って例を示し,私とルントウや,ホンルとシュイションは? と投げかけて,スタンプを操作させます。すると,生徒たちは,
「私とルントウは,友人でいいね」
「子どもの頃は友人でいいけど,今は主従関係ではないか?」
などと話し合いながら,スタンプを貼っていきます。(図2)
(図2)
こうして作成したのが,(図3)です。「現在」「過去」など,スタンプにないものは,「フリースタンプを作る」ボタンで作ることができます。縦横自由に作れるとよいのですが,今は,スタイルは変えられないようですね。
(図3)
このとき,「私とルントウ」と「ホンルとシュイション」がよく似ているということは,本文を読んでいると生徒たちにもよくわかりますね。気づく子も少なくありません。そこで,「私の父とルントウの父は,子どもの頃はどんな関係だったんだろうね?」と投げかけてみます。すると,生徒たちはみなハッとした表情を見せながら話し合い,「もしかして私とルントウや,ホンルとシュイションのように友達だったのではないか!」と考えました。(図4)
もちろん,本文には書かれていませんからどこにも証拠はありません。しかし,「ホンルとシュイションも厚い壁ができてしまう気がする」「もし私の一家が故郷を出て行かず,何十年かして再会したらシュイションもホンルのことを旦那様と読んだのではないか?」などと意見が出て,「結局,故郷は全然変わらなくて,繰り返されているんじゃないか」という発言も飛び出しました。
(図4)
そう,その「変わらなさ」こそが,魯迅が糾弾したかったことなのではないでしょうか。
するとある子が「違うかもしれない」と言いました。理由を尋ねると,「父と私は親子だし,ルントウの父とルントウも,ルントウとシュイションも親子だけど,私とホンルは親子じゃない。魯迅はホンルを私の息子でなく,甥とすることで,ちょっと変化する予感を書いたんじゃないか」と。
小説や物語において,登場人物の設定や,その人間関係の設定を読むことは,とても重要な視点になります。作者はむだな人物は登場させないし,逆に言えば話の中心にいる人物たちはみな何かしらの役割を担って登場します。そこに着目させ,小説の作者の構想を可視化するツールとしての人物相関図への整理。なかなかおもしろい機能だと思いませんか。
次回も,デジタル教科書を活用した授業についてご紹介します。
宗我部義則(そがべ・よしのり)
1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師,早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版),『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社),『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。
※今回ご紹介したのは,平成28年度版 指導者用 光村「国語デジタル教科書」です。商品情報等は下記よりご覧ください。
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