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第32回 授業びらき(2)――「星とたんぽぽ」「星の王子さま」(2年)

そがべ先生の国語教室

2022年4月27日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第32回 授業びらき(2)
――「星とたんぽぽ」「星の王子さま」(2年)

前回に続いて、「見えないけれど、たしかにあるもの」を出し合うところからの展開をご紹介します。
第31回 授業びらき(1) ――「星とたんぽぽ」「星の王子さま」(2年)

1 見えないけれど、たしかにあるもの(第2時)

(1)「見えないけれどあるもの」を探してみよう

2時間目はまず、「ロイロノート・スクール」(※1 / 以下、ロイロノート)で宿題を提出して、発表し合うことから始めました。そして、前回の授業を振り返りながら、今日の課題を投げかけます。

金子みすゞさんは、「見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。」と繰り返していますが、「見えないけれど、たしかにあるもの」って他にもあるかな? みすゞさんが書いた「星」や「たんぽぽの根」以外のものを探してみましょう。ロイロノートのカードに、思いついたものを書き出して提出してください。

何かを読んで感心したり、なるほどなあと思ったりしたとき、ふと、「自分の経験に照らしてみる」「今まで学んだことと結び付けてみる」というのは、とても大切なことだと私は考えています。それによって、新しく知ったことがいっそう深く理解できるし、知識としてもしっかりと定着すると思うからです。

さて、1人1台端末の環境が整って、国語の授業でもこれをよく使っています。このクラスの生徒たちが1年生だったときに国語を担当していた先生は、それほど頻繁にICTを使う方ではありませんでしたが、他教科でもどんどん使っているものなので、これだけの指示でも生徒たちは活動を始めることができました。前時の「視写→音読」もそうですが、特に初めて受け持つ生徒たちとの授業びらきでは、一つ一つの指示に対する反応を見ながら、国語の授業での既習経験の様子などを把握していく「眼」をもって臨むことが大切です。

※1 ロイロノート・スクールは株式会社 LoiLoの商標です。

(2) 生徒たちが見つけた「見えないけれどあるもの」

私の学校では、ICT活用による学習の基盤として「Google Classroom」(※2)とロイロノートが整備されています。私はロイロノートをよく使うのですが、それは、全員が提出したカードを共有することで、「全員のアイデア」を共有しやすいからです。これは1人1台でなかった時代には、なかなかできなかったことです。

生徒たちはいろいろな「見えないけれどあるもの」を見つけました。

画像、見えないけれどあるもの
Dさん
画像、見えないけれどあるもの
Eさん
画像、見えないけれどあるもの
Fさん

Dさんが挙げた「気持ち」や「夢」などは多くの生徒が書いていました。
Eさんの「お医者さん」「ゴミ収集車」は、交流の中で「見えるのでは?」と指摘をされましたが、彼女の「コロナ禍でも目に見えないところでお医者さんたちががんばってくれてる。ゴミ収集車も、私たちに見えないところで街をきれいにしてくれてる」という補足を聞いて、みんなが「そういう意味か! たしかに!」となりました。みすゞの「星」だって、あるときは見えるけれど、あるときは見えないわけですからね。
Fさんの「ことば」は、「たしかに目には見えないけれど、大切なものだよね」と、思わず言葉を添えました。

※2 ChromebookはGoogle LLCの商標です。

(3)『星の王子さま』の名言につなぐ

全員のカードを読みながら、「ハッとさせられた」「なるほどと思った」というものはノートにメモしていくように指示し、その後、学習班でそれらを共有する時間を取り、さらに、いくつかの班からその報告をしてもらいました。

  • 「雰囲気」については、たしかに実際にあって、知らぬ間にみんな合わせているから、見えたらいいのにと思ったことがある、という話が出ました。
  • 〇〇さんが「過去」と書いていますが、たしかにあるけど見えなくて、人によって忘れてしまうものでもあると話し合いました。
  • 「言葉」というのが、形には残らないけれど、言い方や言葉のチョイスで人を傷つけたり、喜ばせたりできて、けっこう力があるからハッとしました。

それぞれの班からの報告を聞き合いながら、「あ~、たしかに!」などと感想を交流する生徒たちの表情はとてもやわらかくてすてきでした。
こんなふうに班での共有の様子を発表し合ったうえで、次のように問いかけました。

金子みすゞさんは、「見えぬけれどもあるんだよ」に続けて、「見えぬものでもあるんだよ」とも言っていますね。「見えないけれど、たしかにあるもの」は、今、皆さんが見つけて交流したように、たくさんありますね。
では、それらが「見えぬものでもあるんだよ」、つまり「見えないものでもあるんだ」って、どういう意味だろうね。

シーンとして考えている様子の生徒たちに、「皆さんは、こんな言葉を知っていますか?」と問いかけながら、「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」という『星の王子さま』(※3)の一文を紹介しました。

そして、

「肝心なものは目に見えないものだ」という星の王子さまの言葉と、「見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ」という金子みすゞの言葉。なんだか通じ合うものがあるような気がしますね。よく味わってみてください。よい言葉だな、よい詩だな……と思ったら、図書室で探してみてくださいね。
では、この言葉をノートに書き終えたら、今日の学習のまとめをしてください。

と話して、この日の授業を終えたのでした。

さて、今回は、私が昨年度(2021年度)に行った「授業びらき」の実践をご紹介しました。授業びらきは、1年間の国語学習の方向性や、ちょっとした学び方を生徒たちに示すうえで、大切にしたいものだと思っています。皆さんも、それぞれの学級の生徒たちと、楽しくて印象に残る授業びらきができるよう工夫してみてください。

※3 『星の王子さま』(サン=テグジュペリ 作、内藤濯 訳 / 岩波書店 / 2017年)

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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