みつむら web magazine

第3回 方言はオノマトペの宝庫

方言を味わう

2023年6月1日 更新

木部暢子 人間文化研究機構 機構長

方言を研究されている木部暢子先生が、全国各地のすてきな方言をご紹介します。

第3回 方言はオノマトペの宝庫

キラキラ、サラサラ、ズキズキ、モフモフなど日本語には状態や動きを模倣する語(擬態語)が豊富にあります。犬の鳴き声のワンワン、戸を叩く音のトントンなど自然の音を模倣する語(擬音語)と合わせて、これらをオノマトペ(onomatopée)と言います。

方言にもオノマトペがあるのでしょうか。
もちろんあります。というより、方言はオノマトペの宝庫です。次の語は国立国語研究所の『日本語諸方言コーパス』(Ver.2023.03)から拾ってきた方言オノマトペの例です。

(1) カッチャクチャ(青森県弘前市、連番4170)
(2) ピチランピチラン(山形県櫛引町、連番24770)
(3) モタモタ(福井県勝山市、連番58630)
(4) シャビシャビ(岐阜県岐阜市、連番31960)

これらはどのような意味なのでしょうか。オノマトペの意味を説明するのは大変難しいのですが、それぞれが使われている場面を見てみると、
(1)は家族が事故に遭ったことを知らされて気持ちが動転している様子
(2)は堅い麻の種をしそ巻きに入れて食べるときの様子
(3)は新鮮でない刺身を食べたときの様子
(4)は米が少しで水が多いおかゆの状態を説明する場面
で使われています。オノマトペだけ聞いたときには意味がよくわからなくても、使用場面がわかると何となく意味が理解でき、これらの方言オノマトペに共感がもてるようになるのではないでしょうか。それに一役買っているのが、音のもつイメージ、音象徴という現象です。

例えば、カ行、サ行、タ行、パ行、ハ行といった阻害音(息を口腔のどこかで阻害して発音する音)は「角ばったイメージ」を、ナ行、マ行、ヤ行、ラ行、ワ行といった共鳴音(声を口腔や鼻腔に共鳴させて発音する音)は「丸いイメージ」をもちます(『音とことばの不思議な世界』※1)。また、有声の阻害音b、d、g、zは「強い力、重いもの」というイメージを(『オノマトペの謎』※2)、カ行は「とがった感じ、光る感じ、軽い感じ、鋭い感じ」、サ行は「柔らかい感じ、こすれる感じ、揺れ動く感じ、静かな感じ」をもちます(『オノマトペがあるから日本語は楽しい』※3)。音のもつこのようなイメージが上の(1)~(4)の方言オノマトペにも働いて、意味の理解を助けているのです。

ところで、方言のオノマトペといえば、単語の数からいっても使用の頻度からいっても、東北方言がいちばんです。2011年3月の東日本大震災のときに、国立国語研究所では『東北方言オノマトペ用例集』を作りました。東北方言には痛みをあらわすオノマトペがたくさんあります。「東北地方の被災地で活動される医療機関の方々が地元の方言を理解するときの手助けになるようなものがほしい」という今村かほるさん(弘前学院大学)の呼びかけに応えて、竹田晃子さん(当時の国立国語研究所プロジェクト非常勤研究員、現在は岩手大学)が主体となって作成したものです。
その中には「あふらあふら、いかいか、かがかが、かやかや、ざらから、ずぐずぐ、ぱやぱや、まぐまぐ、もんもり」など約100種類のオノマトペが掲載されています。これらがどのような意味をあらわすか、音象徴の面から推測してみてください(詳しくは下の「『東北方言オノマトペ用例集』より」を参照)。また、自分の方言のオノマトペを集めてみて、音象徴がどのように働いているか考えてみてください。きっと、おもしろい発見があると思います。

『東北方言オノマトペ用例集』より

【あふらあふら】
衰弱し、呼吸が苦しいさま。ふうふう。岩手県、宮城県。
「腹 へったし、あふらあふらど なった。」(腹がへったから、ふらふらした)

【いかいか】
するどく刺すように痛むさま。炎症の不快感。ちくちく。岩手県、宮城県。
「くぴたぁ いかいかっと 針でも 刺すみでぁに いでぁ。」(首がちくちくと針でも刺したみたいに痛い)

【かがかが】
衰弱するさま。動悸がするさま。どきどき。岩手県、宮城県。
「どうしたんだ、かがかがいって。」(どうしたんだ、弱々しい様子で)

【かやかや】
胸部や上腹部の脱力感、不全感、虚脱感などのさま。岩手県。
「胸ぁ かやかやずぅぐ なる」(胸がどきどきした具合になる)

【ざらから】
寒気や悪寒がする。ぞくぞく。岩手県。宮城県。
「風邪ぇ ひぃでだ がな。かばねぁ ざらからずぅ。」(風邪をひいたかな。悪寒がする)

【ずぐずぐ】
刺すような痛み。ちくちく。ずきずき。岩手県。
「歯ぁ ずぐずぐど やめる。」(歯がずきずきとうずく)

【ぱやぱや】
毛の薄くはえているさま。頭がぼんやりするさま。青森県、岩手県、宮城県。
「あの薬ぃ 飲めば、あだまぁ ぱやぱやど なるのね。」(あの薬を飲むと、頭がぼんやりするのね)

【まぐまぐ】
めまいや立ちくらみがするさま。視界が暗くなるさま。岩手県、宮城県。
「まぐまぐずくなった。」(暗くなった)

【もんもり】
腫れて重く熱を持ったさま。重くふくらむさま。こんもり。青森県、岩手県。
「朝ま、手の指ぁ もんもりすて、皮ぁ つぃっぱるよぉな 気ぁする。」(朝方、手の指が腫れて、皮が突っ張るような気がする)


(※1)川原繁人『音とことばの不思議な世界 メイド声から英語の達人まで』(岩波書店、2015年)
(※2)浜野祥子「「スクスク」と「クスクス」はどうして意味が違うの?」窪薗晴夫編『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』(岩波書店、2017年)
(※3)小野正弘『オノマトペがあるから日本語は楽しい 擬音語・擬態語の豊かな世界』(平凡社、2009年)

 

hougen_profile.jpg

木部暢子(きべ・のぶこ)

1955年福岡県生まれ。人間文化研究機構機構長。九州大学大学院文学研究科修士課程修了。博士(文学)。専門は言語学、日本語方言学。著書に『そうだったんだ日本語 じゃっで方言なおもしとか』(岩波書店)、『方言学入門』(共著、三省堂)など。

関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集