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「想像力のスイッチを入れよう」リライトにこめた思い

下村 健一(ジャーナリスト)

2020年4月1日 更新

下村 健一 ジャーナリスト

このコーナーでは、教科書教材の作者や筆者をゲストに迎え、お話を伺います。教材にまつわるお話や日頃から感じておられることなどを、先生方や子どもたちへのメッセージとして、語っていただきます。

「想像力のスイッチを入れよう」は、2020年度から本文を少し改良しました。文中に『 』マークを付したキーワードが四つ登場しますが、そのうち最後(旧版・第12段落)に配置していた『まだわからないよね』を、最初(新版・第8段落)に移設したのです。
これには、理由があります。私は多くの小学校へ出前授業に伺っていますが、そこで直接会う子ども達から、時々こんな質問を受けるのです。
「最後に『まだわからないよね』と言われると、なんだか突き放されて終わっちゃった感じがする。この後、どうすればいいの?」


――旧版では「いちばん大切なのは」、新版では「まず大切なのは」という前置きで強調しているとおり、実はこの『まだわからないよね』は、他の三つのキーワードとは別格の言葉です。他の三つが具体的なチェック作業を指示しているのに対し、これは各作業の前提となる《保留》を指示しています。〔下図参照〕

図

「学校や家庭での会話」でも「メディアから発信される情報」でも、それを受け止める想像力の広がりに終わりはありません。私たちは、この世の中の事を全て知り尽くすことはできませんから。その時点その時点での判断はあっていいけれど、思い込みや決めつけの「小さい窓」から自由でいるために、『まだわからないよね』は常に抱き続けるべき、他の三つのキーワードの通奏低音なのです。
そんな常在する通奏低音に、どのタイミングで言及するか。最も素直なのは、一番目です。「保留して、チェックする」という順序ですから。しかし当初私は、これをあえて最後に配置しました。授業が済んだらオシマイではなく、ずっと『まだわからない』という意識を持ち続けてね! という思いで。
しかしこの5年、冒頭にご紹介したような子ども達の肉声に教室で触れてきて、やはり自然な順序に戻そう、と今回の改訂で考え直したのです。いま出会ったその情報をすぐ信じるの、ちょっと待った! 『まだわからない』よ!……という思いをこめて。
先生方には、ぜひ旧版の私の思いもお汲みいただき、この単元が終わった後も、朝や帰りの会で子ども達と世間の話題に触れる中で、「これって、まだわかんないよね?」と、折々に各キーワードをつぶやいて下さい。実社会の不確かな情報(※例えば本稿執筆時点で言えば、新型コロナ肺炎を巡るデマなど)に踊らされない、たくましい次世代を育てるために。

※筆者ウェブサイト「シモムラスイッチ」
コラム「【急告】新型コロナのデマ・ウイルスには「ソ・ウ・カ・ナ」が効く!」もご覧ください。

http://shimo-switch.com/hints/56868

下村 健一 [しもむら・けんいち]

1960年、東京都生まれ。東京大学法学部政治コース卒業。1985年TBSに入社、報道局アナウンス班に所属。現場取材、リポーター、キャスターとして、「スペースJ」「ビッグモーニング」などで活躍。1999年TBSを依願退社。以後、TBSテレビ「筑紫哲也 NEWS23」「みのもんたのサタデーずばッと」等に出演を続けるいっぽう、市民グループや学生、子どもたちなどのメディア制作を支援する市民メディア・アドバイザーとして活動。2010年秋から2年半、民主・自民の3政権で内閣官房審議官等として総理官邸の情報発信を担う。東京大学客員助教授、慶應義塾大学特別招聘教授、関西大学特任教授などを経て、現在は白鴎大学特任教授。令和メディア研究所主宰。インターネットメディア協会理事。著書に『窓をひろげて考えよう』(かもがわ出版)、『想像力のスイッチを入れよう』(講談社)、『答えはひとつじゃない!想像力スイッチ1~3』(汐文社)など。    ※プロフィールは、2021年1月現在の情報です。

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