子どもと大人の「ことばQ&A」
2023年9月12日 更新
光村図書 校閲課
ふだん何気なく使っている言葉も、ちょっと立ち止まって考えてみたら、いろいろおもしろいところが見えてきます。
このコーナーでは、教科書の校閲を担当しているメンバーが、言葉をめぐるさまざまな疑問を取り上げて解説していきます。
「放る」を平仮名で書くと…
ボールをほおる。 / ボールをほうる。
どちらが正しいでしょうか。
仮名遣いのよりどころとなる「現代仮名遣い(昭和61年内閣告示)」では、長音の書き表し方の原則として、オ列の長音は、「オ列の仮名に『う』を添える。」と記されています。「放る」は、「おとうさん」「とうだい(灯台)」などとともに、ここに例示されています。
したがって、「ボールを放る」は「ボールをほうる」となります。
第1の5(5)オ列の長音
オ列の仮名に『う』を添える。
例 おとうさん とうだい(灯台) わこうど(若人) おうむ
かおう(買) あそぼう(遊) おはよう(早)
おうぎ(扇) ほうる(放) とう(塔)
よいでしょう はっぴょう(発表) きょう(今日) ちょうちょう(蝶々)
いっぽうで、「現代仮名遣い」には、表記の慣習による特例が示されており、「オ列の仮名に『お』を添えて書く」語として、「こおる(凍)」「とおる(通)」「おおきい(大)」などの二十数語が例示されています。そして、「これらは、歴史的仮名遣いでオ列の仮名に『ほ』又は『を』が続くものであって、オ列の長音として発音されるか、オ・オ、コ・オのように発音されるかにかかわらず、オ列の仮名に『お』を添えて書くものである。」と説明されています。例えば、「こほる」のように、歴史的仮名遣いでオ列の仮名に「ほ」が続く場合は、「こおる(凍)」のように「お」を用いることとなります。
第2の6 次のような語は、オ列の仮名に「お」を添えて書く。
例 おおかみ おおせ(仰) おおやけ(公) こおり(氷・郡) こおろぎ
ほお(頰・朴) ほおずき ほのお(炎) とお(十)
いきどおる(憤) おおう(覆) こおる(凍) しおおせる とおる(通)
とどこおる(滞) もよおす(催)
いとおしい おおい(多) おおきい(大) とおい(遠)
おおむね おおよそ
これらは、歴史的仮名遣いでオ列の仮名に「ほ」又は「を」が続くものであって、オ列の長音として発音されるか、オ・オ、コ・オのように発音されるかにかかわらず、オ列の仮名に「お」を添えて書くものである。
特例の語は限られていますが、このように「お」を用いる語があることにも注意が必要です。
昔から、使い分けに苦労している人は多かったようで、次のような覚え方も広く知られています。
遠くの 大きな 氷の上を 多くの 狼が 十ずつ 通る。
Illustration: Mimei Umimachi