
「飛ぶ教室」のご紹介
2017年10月19日 更新
「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版
児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。
スペシャルインタビュー 加藤休ミ「描くために、食べる!」
衣薄めのサクサクのカツに、濃厚なうまみのブラウンカレーがたっぷりかかったカツカレー。見れば食指が動く「飛ぶ教室」第51号の表紙を描いてくださったのは、クレヨン画家で絵本作家の加藤休ミさんです。味も食感もクレヨン一本で描き上げる、その秘密をうかがいました。

(撮影場所:Event Space&Café キチム)

注文、入りました!
本当に見事なカツカレー、ありがとうございました。編集担当者が加藤さんにこの表紙を依頼するとき、「カツカレーをどーんと!」とお願いしたんですよね。この依頼、どう思われました?
加藤 最近、似たような依頼が多いんですよ。「肉じゃがをお願いします」とか、「お寿司を!」とか。なんだか、出前の注文みたいですよね。ですから、お受けするときは、「はい、毎度あり!」という感じでした(笑)。
加藤さんは、そのような「注文」が入ると、まずは、実際にその食べ物をご自身で作ってみるとか?
加藤 はい。ほとんどの場合は、自分でまず作りますね。あえて調理済みのものを買ってくる場合もありますけど。
調理済みを買うのは、どんな場合ですか?
加藤 単に時間がない場合もそうですが(笑)、自分ではなかなかうまく味が出せないものの場合ですね。たとえば、先日、肉じゃがを描いたんですが、そのときに描こうとした肉じゃがのイメージは、自分で作る薄味のものではなくて、こってりとした甘いものでした。なので、スーパーのお総菜コーナーで理想のものを買ってきました。
なるほど。
加藤 そうやって食べ物の準備ができたら、写真を撮る。そして、食べます。じっくり味わうんです。このカツカレーもお昼ご飯として食べました。
あっ、お昼ご飯だったんですね。勝手に夜ご飯だと思っていました。それにしても、味わう? 描くにあたって、食べることも大事なんですか?
加藤 大事ですね。今回のカツカレーだと、味はもちろんですが、カツのサクサク感や、ジャガイモやニンジンの柔らかさといったものは、食べて確かめます。それが描くのに必要なんです。
以前、トムズボックス(※)の土井章史さんに言われたことがあるんですね、「(加藤さんは)味覚と視覚が一緒なんだね」って。私、絵や写真を見れば味が分かるし、描いているときにも味がしているんですよ。描きながら、「まだ味が薄いな」とか。そういうことは、みなさんのなかでも多少あるんでしょうけど、他人より、より敏感なのかもしれません。

原画に見とれる加藤さん。
物語が見える絵
ご自身で作ったり盛り付けたりした料理が絵の完成形ということは、料理のときから、すでに絵を描いているという感覚ですね。
加藤 そうですね。今回、盛り付けは特に怖かったですね。カレーは液体なので、変にかけちゃいけない、一発勝負だ!と思って。……このカツね、一枚450円もするんですよ(笑)。お肉屋さんの立派なカツ。だから余計に失敗は許されませんでした(笑)。ちなみに、カツが立派すぎてお皿に入りきらなかったので、切り分けたあとに、二切れ抜いているんですよ。
このカツには、そんな秘密があったんですね。となると、カレーにも何か秘密が?
加藤 はい。カツとのバランスを考えて、カレーはあえてレトルトを使っています。それも、少し安めのものを。というのも、自分で作ったカレーや、高級なレトルトカレーでは、具が大きめになってしまうんですね。でも、描きたいカツカレーには、大きな具は邪魔になる。形の崩れかけたジャガイモやニンジンが、ベストなんです。
それから、カツにどの程度カレーがかかるようにするか迷いましたね。まったくかけないという選択肢もあるなとも考えたりして。
考え抜いた、塩梅なんですね。
加藤 はい。でも、カレーは一度かけたら、かけたまま。具の位置の調整はしていません。整えすぎると、フードコーディネーターがやったみたいになってしまうので。そういった自然の加減が、この絵には必要だと思ったんです。
そうして描かれた加藤さんの一皿。まるでお話が見えるようですね。
加藤 料理の絵に限らず、どんな絵でも、どんな過程を経て描かれたかが現れると思います。だから、いつもその過程も丁寧に、と心がけています。
料理をして描くという方法は、『きょうのごはん』(加藤休ミ 作/偕成社)のときからなんですが、あの絵本のなかに出てくる、「お父さんが作るオムライス」。どうしても「お父さん感」がほしかったので、ちょうど娘たちを連れて遊びに来た弟に作ってもらって、それを描きました。
そういった過程が、リアリティある加藤さんの絵になっているんですね。では最後に、カレーライスがテーマの今号にちなんで、好きなカレーを教えてください。
加藤 マトンカレーですね! ランチなどで、何種類かのカレーのなかから2種類好きなものが選べるときは、ダブルマトンにするほどに(笑)。

加藤休ミ(かとう・やすみ)
1976年北海道生まれ。クレヨン画家、絵本作家。絵本『ぼーるとぼくとくも』『かんなじじおどり』『おさかないちば』『りきしのほし』『きょうのごはん』『ともだちやま』ほか。
「飛ぶ教室」第51号のアンケートにお答えいただいた方から抽選で、加藤さんが今号のために描いてくださった表紙の絵を使った、「飛ぶ教室」オリジナルノートをプレゼントいたします。詳しくは、本誌をご覧ください(なお、ご応募の締め切りは、2018年1月24日です)。
「飛ぶ教室」51号の内容は、こちらからご覧いただけます。
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