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通常学級での
特別支援教育

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを,新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年,東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師,臨床発達心理士,特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業,筑波大学大学院修了。肢体不自由,知的障害,自閉症,ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに,地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に,『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版),『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第40回 教室に不用意に吹かせている
「風」を自覚しよう

2019.11.29

今日のポイント

  • 教師は常に、教室の空気感を作り出している。子どもたちも教師の佇まいや立ち居振る舞いに合わせて、態度を変える。そうした教師の醸し出す空気感をここでは「風」と表現する。
  • 支援を必要とする子どもたちは、教師が吹かせる「風」に敏感なところがある。無風状態を作る、圧を消すことも、教師のトレーニングとして必要である。
  • 学校現場では、「どうすればあの子(たち)を変えられるか」という方法論偏重になりやすい。しかし、対応の本質は、子どもたちからの信頼に足る教師がそこにいるかどうかということである。

教室に教師がいるときといないときでは、子どもたちは態度を変えるものです。厳粛な教師のもとではピリッとした雰囲気になりますし、弱めの圧の教師のもとではゆるい雰囲気になります。教師はそこにいるだけで、何らかの「空気感」を作り出していると言ってもよいでしょう。

画像,言葉よりも先に手が出る子

この「空気感」を、多賀一郎先生は「風」と表現されていました。数値化や言語化が難しかった教師のあり方を示す、絶妙な表現だと思いました。

学校現場では、とかく「どうすればあの子(たち)を変えられるか」という方法論が話題になりがちです。しかし、対応の本質は、子どもたちからの信頼に足る教師がそこにいるかどうかということです。

支援を必要とする子どもたちは、特に「風」に敏感

大声で強い指導をされると、その場に「鋭い風」が吹きます。だから子どもたちも固まります。動きも思考も止まります。やがて大人の顔色をうかがいながら行動するようになるため、主体性が失われていきます。

言語だけで一方的に指導される場面は「尖った風」だと感じます。彼らはそういう風が苦手です。だから、しばしばパニックを起こします。これが続くと学校に行きたくなくなります。

自分の関わりがパニックを誘発しているのに気づけていない大人は、たいてい、パニックを無理やり抑え込んだり、ペースを考えずにただ動かそうとしたり、機械的にカームダウンスペースに連れていったりします。そんなときほど「不穏な風」が流れます。だから、彼らはことさら強く抵抗します。

その一方で、穏やかさで包める大人のもとでは「心地よい風」が流れますから、彼らも機嫌がよいことが多いです。でも、大げさに褒められたり、意欲を鼓舞されたりすると、「熱い風」だと受け取ってしまうこともあるので、認め方のさじ加減は微妙に難しいところもあります。

彼らがまず求めるのは「無風」状態です。教師という立場は、職業柄、一声かけたり、何かをしようと持ちかけたりといった、常に何かの指導アクションを起こしてしまいたくなるものです。しかし、何かをさせようとする「風」が起き、子どもの警戒心を煽ってしまうことが少なくありません。

したがって、校内研修や校内ケース会議などでは、「いかに不用意に風を起こさないでいられるか」という大人側のふるまいが取り上げられなければなりません。

圧を消すことも教師修行の一つ

俵原正仁先生は、「圧ゼロ」で、ただただ子どものそばにいる、そして子どもたちの様子をただただ見守る時間を作ることの大切さを推奨されていました。圧を消すことも教師修行の一つだといいます。

焦らず、じっくり待ってみる。
無理に何かをさせようとしない。
普段から語数を抑える。
声のトーンを抑えめにする。
不適切な行動やパニックにいちいち動揺せず、泰然自若の構えをキープする。
静かに子どもたちとの距離を詰め、そばにいることだけを心がけてみる。
周囲の大人の目を気にせずにゆったりとした気持ちで構える・・・。

こうした姿勢が無風を生み出します。ぜひこの機会に、自分がどんな風を教室に吹かせているか、振り返ってみてはいかがでしょうか。

参考文献
多賀一郎、ヒドゥンカリキュラム入門 学級崩壊を防ぐ見えない教育力、明治図書、2014年
俵原正仁、「崩壊フラグ」を見抜け! 必ずうまくいくクラスのつくり方、学陽書房、2019年

次回は,12月公開予定です。

Illustration: Jin Kitamura

目次

【第1回】 子どもはルールよりも「ラポール」にしたがう <2016.05.09>

【第2回】 「お試し行動」に振り回されないために <2016.06.08>

【第3回】 子どものつまずきを読み解く“知識”と“洞察力”を <2016.07.06>

【第4回】 教師としての軸・枠・型・幅をもつ <2016.08.09>

【第5回】 話を聞けない,指示が入らない子 <2016.09.12>

【第6回】 支援の空回りを防ぐ <2016.10.11>

【第7回】 切り替えが難しい子 <2016.11.09>

【第8回】 「気になる子」を気にしすぎる子 <2016.12.07>

【第9回】 「なんでオレだけ?!」に対する指導 <2017.01.11>

【第10回】 保護者の理解を得るために <2017.02.08>

【第11回】 落ち着きがない子 <2017.03.09>

【第12回】 「専門家」の言うことは絶対ではない <2017.04.06>

【第13回】 授業の規律や学級の秩序を乱す子 <2017.05.16>

【第14回】 「作戦ゴリラ」 <2017.06.08>

【第15回】 「きょうだい児」の理解 <2017.07.05>

【第16回】 ルールを守ることにこだわりを示す子 <2017.08.23>

【第17回】 人を頼るスキルが乏しい子 <2017.09.14>

【第18回】 「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子 <2017.10.19>

【第19回】 子どもの「負の部分」に目が向いてしまうときに <2017.11.14>

【第20回】 二次的障害に陥らせないための三つのポイント <2017.12.15>

【第21回】 学級目標を飾りものにしない <2018.01.22>

【第22回】 忘れ物が多い子・提出物をなかなか出せない子 <2018.02.13>

【第23回】 「してほしいこと」を伝える <2018.03.15>

【第24回】 書こうとしない子の「尊重すべき歴史」 <2018.04.17>

【第25回】 「些細なこと」かどうかは,本人が決める <2018.05.15>

【第26回】 衝動性の高い子どもへの「三大禁じ手」 <2018.06.15>

【第27回】 問いをもち続け,当たり前を見直す <2018.07.17>

【第28回】 力加減の調節が苦手な子 <2018.08.24>

【第29回】 子どもの心に響く褒め方(1) <2018.09.26>

【第30回】 子どもの心に響く褒め方(2) <2018.10.24>

【第31回】 子どもの心に届く叱り方(1) <2018.11.19>

【第32回】 子どもの心に届く叱り方(2) <2018.12.12>

【第33回】 行動を制止されるとかんしゃくを起こす子 <2019.01.18>

【第34回】 「子ども理解」に欠かせない「四つの軸」 <2019.02.15>

【第35回】 引き継ぐ側の配慮,受け取る側の覚悟 <2019.03.13>

【第36回】 言葉よりも先に手が出る子 <2019.04.05>

【第37回】 ゲームにはまりがちな子どもたちが期待する授業とは何か <2019.06.10>

【第38回】 衝動的に人のものに触ってしまう子 <2019.07.22>

【第39回】 “HSC”感受性が強く、人一倍繊細な子 <2019.09.20>

【第40回】教室に不用意に吹かせている 「風」を自覚しよう <2019.11.29>

【第41回】マルトリートメントを受けた子への教師の関わり <2020.1.27>

【第42回】自分を成長させてくれる存在<2020.02.27>

【第43回】好きなことがある、ということ<2020.03.24>

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