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通常学級での特別支援教育 第42回

通常学級での特別支援教育

2020年2月27日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第42回 自分を成長させてくれる存在

今日のポイント

  • 特別な支援を必要とする子をどう捉えるかによって、教師の関わりや教室内の雰囲気は変わる。
  • 教師にはそれぞれが築き上げてきた「マインドセット」(自分がもっている思考回路のクセや習慣のようなもの)がある。ある程度のマインドセットを築き上げてきた年代の教師には、それを見つめ直したり、疑ったりすることも必要になる。
  • 支援を必要とする子どもの中には、ほめられることが極端に少ないために「どうせ頑張ったって報われない」というマインドセットになっている子もいる。それを変えていくためには、教師や仲間がその子に対して敬意を示すことが重要である。

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特別な支援を必要とする子どもたちを「課題がある子」と捉えるか、「自分の人生観を豊かにしてくれる子」と捉えるかによって、教師の関わりは大きく変わります。

後者のように捉えられれば、教室内の雰囲気も大きく変わります。その子の様子はすぐには変化しないかもしれませんが、一つ一つの行動に対する寛容度が上がるので教室の空気感が変わります。

特別な支援を必要とする子どもたちとの出会いは、本当は、教師の「マインドセット」を変える絶好の機会と言ってもよいのではないでしょうか。

マインドセットがもたらす影響

マインドセットとは、自分がもっている思考回路のクセや習慣のようなものを言います。人の心理を一面的なものと捉えるのではなく、多面的・多層的にセットされたものが「マインド」であると理解します。

経験や学習によって積み上げられるものであり、信念や価値観も含まれますが、それと同時に「思い込み」も加わります。ある程度のマインドセットを築き上げた年代の教師にとっては、ときに自分のマインドセットを疑うことも必要なのではないでしょうか。

過去の研修が築き上げてしまうマインドセットもある

平成19(2007)年4月、通常学級での特別支援教育が制度として始まりました。その当時の教員向けの研修の多くは「教師たちに、知識の伝授を通して理解を求める」ようなスタイルでした。目的としては正しかったのかもしれませんが、その進め方にはかなり問題があったのではないかと今でも思っています。

というのも、「〇〇障害の医学的な判断基準は・・・」とか「〇〇障害の特徴は・・・」などのように、できないことや問題行動を羅列的に紹介するパターンが非常に多く、前向きな理解につながったというよりも、むしろレッテル張りのような見方に陥ってしまう教師が少なくなかったのです。これでは、いわゆる「気になる子」のあぶり出しにしかなりません。

また、海外の著名人の発達障害エピソードを紹介するパターンの研修もありましたが、どこか学校現場の実態と乖離(かいり)した印象を抱かずにはいられませんでした。

当時の研修を受けたままのマインドセットが残った状態では、特別支援教育は「気持ちとしては受け入れたいけれども、背負い込むと大変なもの」という意識がいつまでもぬぐいきれません。

グッドメモリの蓄積が少ない子どもたち

発達につまずきのある子どもたちの中には、ほめられることが極端に少ない子どもがいます。彼らもまた、「頑張ってもどうせ報われない」というマインドセットをもっています。その思い込みに近いマインドセットを覆せるのは、教師と仲間の存在にほかなりません。

ところが、彼らの多くは大人に可愛がられるスキルをあまりもっていません。結果的に、学校や家庭でのグッドメモリ(よい関わり・よい経験・よい思い出)の蓄積が少ない状態のまま年月を重ねてしまっています。

こうした歴史が、その子の本来の持ち味や、やさしさやたくましさなどを潰してしまっている可能性もあります。

子どものグッドメモリを支える最も重要なキーワード、それは「敬意(リスペクト)」です。

  相手への敬意。
  相手が見て感じたことへの敬意。
  相手が考えて行動したことへの敬意。
  相手が大切にしていることへの敬意。
  相手がこれまでに背負ってきたものへの敬意。

相手への敬意にあふれた関わりには、人の心を支え、前向きにさせる力があります。

その子に対して「何を言うか」や「どう関わるか」よりも「どんな態度を表すか」のほうが問われているのです。

次回は、好きなことがある、ということについて取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura


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