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質問6 「考え、議論する道徳」って、なに?

ここが知りたいQ&A

2017年10月30日 更新

35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた富岡 栄先生(麗澤大学大学院准教授)が、「特別の教科 道徳」に関するよくある疑問にお答えします。

回答:富岡 栄(麗澤大学大学院准教授)

道徳の教科化が話題になる場面では、「考え、議論する道徳」を必ずといっていいほど耳にしたり目にしたりします。まさに、「考え、議論する道徳」は道徳教科化のキャッチフレーズといえます。

まず、「考え、議論する道徳」を説明する前に、この内容に関する、これまでの経緯等を振り返りましょう。冒頭に「考え」と示されていますが、基本的に「考え」が存在しない道徳科の授業はありえません。もし、「考えない」とすれば、それは押し付けや注入の教育です。そのような授業であってはならないことは、これまでの道徳の時間においても基本理念でした。また、道徳科では、教材に含まれている道徳的問題について話し合いをして道徳的価値を追究していくので、話し合いが必須要件となります。話し合いについては、平成20年度告示の学習指導要領解説で、発達段階を踏まえて小学校では「話合い」、中学校では「討論」の表現で言い表され、今回の解説にも同様に表記されています。さらに、話し合うことについては、道徳の時間が特設された1958(昭和33)年より「語る」の表現で連綿と使われています。「討論」には、語感として相手を論破するようなイメージがあり、「語る」には、自分の道徳観を吐露するようなイメージがあります。そして、「議論」は、答えが一つではない課題について話し合いをして、一つの解決策や合意形成、納得解を得ていくようなイメージが感じられます。いずれにしても、道徳科では、教材の中に含まれている道徳的問題について、考え、議論を行うことで、道徳的価値を把握していくことになります。今回の教科化で、「考え、議論する道徳」のキャッチフレーズがインパクトのある表現として扱われていますが、「考え、議論する道徳」の本旨はこれまでの道徳の時間が目指してきたことと本質的には変わらないということです。

しかし残念なことに、これまでの道徳教育は、その目指す姿と乖離(かいり)していた実態がありました。読み物資料の登場人物の心情理解のみだったり、わかり切ったことを言わせたりするというような、偏った形式的な指導が行われているとの指摘がなされています。このような硬直化した道徳の時間を打破する方向で打ち出されたのが「考え、議論する道徳」です。

また、児童生徒が活躍する将来は、未来予測が困難な社会が到来するといわれています。さらに、グローバル化の進展により、これまで以上に歴史的、文化的な背景を異にする人々と対話し協働していくことが必要となります。そのような社会の中では、主体的に考え判断する力や高い倫理観をもち、時に意見や考えが衝突したとしても、よりよい方向を目指し努めていこうとする資質・能力が求められます。このような資質・能力の育成には道徳教育の果たす役割はきわめて大きいといえます。学習指導要領解説編には「多様な価値観の、時に対立がある場合を含めて、誠実にそれらの価値に向き合い、道徳としての問題を考え続ける姿勢こそ道徳教育で養うべき基本的資質である」と道徳教育の目指すべき姿が示されています。そして、このような基本的資質を養うために、「『考える道徳』、『議論する道徳』へと転換を図る」と明言しています。

道徳科は、道徳性の育成を目指し行われます。そこでは、現在に生きて働く道徳性を育成する意味も含まれているでしょうし、将来に役立つ道徳性を育成する意味も含まれています。未来を生きる児童生徒にとって、「考え、議論する道徳」には、未来を生き抜くための資質・能力の育成が含意されているといえます。

具体的な「考え、議論する道徳」への質的転化を図る道徳科での質の高い指導方法として、以下のような指導事例が示されています。

  1. 読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習
  2. 問題解決的な学習
  3. 道徳的行為に関する体験的な学習

ただ、これは独立した指導の型を示しているものではありません。これらは一つの事例にすぎず、これに固執することなく、道徳性を育むために多様な指導法を取り入れることが大切です。

富岡 栄(とみおか・さかえ)

麗澤大学大学院准教授。公立中学校教諭、管理職として、35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた。平成27年3月、群馬県高崎市立第一中学校校長を定年退職。退職後は大学にて道徳教育に関する講座を担当。日本道徳教育学会、日本道徳教育方法学会の評議員を務める。平成27年一部改正「中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」の作成協力者の一人。

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