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質問11 「問題解決的な学習」って、なに?

ここが知りたいQ&A

2017年10月30日 更新

35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた富岡 栄先生(麗澤大学大学院准教授)が、「特別の教科 道徳」に関するよくある疑問にお答えします。

回答:富岡 栄(麗澤大学大学院准教授)

今回の教科化により、より質の高い指導方法の確立が求められています。この質の高い指導方法として (1)読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習 (2)問題解決的な学習 (3)道徳的行為に関する体験的な学習が例示されています。では、(2)の問題解決的な学習の授業はどのように展開していけばよいのでしょうか。

まず、確認しておきたいことは、問題は「道徳的問題」であって、決して生活上の諸問題ではないということです。学校生活にはさまざまな問題が生じますが、道徳科で扱う事柄は道徳的問題であり、決して、クラスの席替えや係り決めでのもめ事のような問題を扱うわけではありません。道徳的問題については「『特別の教科 道徳』の指導方法・評価等について(報告)」で次のように述べられています。道徳的問題には「例えば、(1)道徳的諸価値が実現されていないことに起因する問題 (2)道徳的諸価値について理解が不十分又は誤解していることから生じる問題 (3)道徳的諸価値のことは理解しているが、それを実現しようとする自分とそうできない自分との葛藤から生じる問題 (4)複数の道徳的価値の間の対立から生じる問題 などがあり、これらの問題構造を踏まえた場面設定がなされることが求められる。」とあります。

これらの(1)~(4)の道徳的問題の発見については、あくまでも児童生徒の手に委ねられるべきで、教師が問題提示することは避けるべきです。児童生徒が、自分たちの学習や生活を振り返ったり、社会を観察したりすることで、道徳的問題を発見しなければなりません。ただ、発達段階や最初のうちは問題解決的な学習に慣れていないことなどを考慮すると、道徳的問題を見いだせない場合もあるでしょう。そのような場合は、児童生徒のつぶやきや疑問の声を教師が再構成して、道徳的な問題として提示することも考えられます。

具体的な方法論としては、これまで活用してきた読み物教材でも問題解決的な学習を展開することができます。要は、道徳的問題を教師が提示するのではなく、児童生徒の内から生ずるようにすればよいのです。そのためには、教材の内容から、児童生徒が自ら考えてみたい、級友と協働して深めたいと思える問いを、自らが立てられるよう教師が工夫していくことが大切です。また、日頃の生活を振り返って道徳的価値と自己との関わりで捉えていくことも、問題の発見につながります。例えば、思いやりについて考えたとき、「思いやりは大切だとわかっていても、いつ誰に対してもできるわけではない。あるいは、つい相手に意地悪をしてしまうことがある」ことに児童生徒自らが気がつけば、このことも活用できるでしょう。自分たちの学校生活や広く社会に目を向けて道徳的問題を提起し、これを道徳科で活用することも考えられます。

富岡 栄(とみおか・さかえ)

麗澤大学大学院准教授。公立中学校教諭、管理職として、35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた。平成27年3月、群馬県高崎市立第一中学校校長を定年退職。退職後は大学にて道徳教育に関する講座を担当。日本道徳教育学会、日本道徳教育方法学会の評議員を務める。平成27年一部改正「中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」の作成協力者の一人。

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