
そがべ先生の国語教室
2019年4月4日 更新
宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長
30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。
第26回 詩を味わう
――「谷川俊太郎さんの詩 ―鑑賞と創作―」
詩の指導、皆さんはどんなふうにしていますか?
実は、先日、「中学校国語教育相談室」No.89(4月下旬発行)の企画として「谷川俊太郎さんにインタビューする」というワクワクするようなお話をいただき、それなら……と、こんな授業を実践してみました。授業の流れはこんな感じです。
1.単元「谷川俊太郎さんの詩 ―鑑賞と創作―」 授業展開
第1時 谷川俊太郎さんの詩を鑑賞しよう
- 谷川俊太郎さんって知ってる?
- 「谷川俊太郎.com」の詩を読む
- お気に入りの詩を鑑賞する
第2時 詩を作ってみよう
- 方法を選んで詩を書こう
- 谷川さんへの質問を考える
第3時 創作した詩の鑑賞会
2.第1時「谷川俊太郎さんの詩を鑑賞しよう」
(1) 谷川俊太郎さんって知ってる?
単元名を告げた後、「谷川俊太郎さんを知ってますか?」「彼の詩を読んだことがありますか?」と、生徒たちに尋ねました。
谷川さんについては、もちろんみんな知っています。「生きる」「朝のリレー」「春に」などの詩が挙がりました。そこで、「実は、谷川さんにインタビューするお仕事をいただきました」と私が告げると、教室は大盛り上がり。
(2) 「谷川俊太郎.com」の詩を読む → (3) お気に入りの詩を鑑賞する
一人1台、iPadを配って、谷川さんのサイト「谷川俊太郎.com」(※)のURLを伝えます。
「今週の一篇」というコーナーがあることに注目させ、簡単に閲覧方法(前の週の投稿の遡り方等)を説明したうえで、「学習プリントNo.1」を配布して、「自由に読み、課題1と課題2に取り組みます」と指示しました。
(※「谷川俊太郎.com」は、現在ご利用いただけません。)

■課題1
グッときた作品、心に残った作品のタイトルを書き出そう。
→ ページを遡って読み、印象に残る詩があったらタイトルだけを書き写し、また遡って読んでいきます。
■課題2
(残り15分くらいになったら)タイトルをメモした詩の中から一つ選び、詩を書き写します。そして、その詩が気に入った・心に残った理由をまとめます。
生徒たちは、黙々と読んでいきました。途中で「こんなに続けて詩を読んだことある?」ときくと「初めて!」と口々に、しかし「すごくおもしろい」「考えさせられる」「良い詩ばっかりで選べない」などと反応が返ってきました。邪魔をしないように配慮しつつ、机間指導をしながらプリントに書き写されたタイトルを見て、「『アンダンテ』(注 作品名)はお気に入りに挙げてる人が多いね」などと共有したり、谷川さんの詩を続けて読んでみた感想をきいたりしました。
課題2が書きあがらなかった生徒は、宿題にして次時までに書いてくることにしました。
3.第2時「詩を作ってみよう」
最初に、前時に書いたお気に入りの詩を隣や近くの席の人と読み合い、感想を交流しました。
その後、「学習プリントNo.2」を配り、「今日は、この中のやり方を一つ選択して、詩を書きます」と話して、簡潔にそれぞれの課題について解説しました。方法は次の「学習プリントNo.2」のとおりです。

A 「十五歳」をまねて、「○○歳」の自分を語る詩。
- 十五歳のとき、こんなことがあった、こんなふうに感じた、という原詩をまねて、今の自分や未来の自分が、体験や考えを語る。
B 谷川さんの詩に詩で答える。
- 「答える」の例をいくつか挙げ、どれかを選んでもいいし、これを参考に自分で「答え方」を考えてもいいと伝えた。
- 結果的には、谷川さんの詩のレトリックをまねることになる。
C 心にグッときた詩を参考に、自分も自由に詩を紡いでみる。
- AでもBでもなく、谷川さんの詩に触発されて、自由に書きたいという生徒向けの方法。
生徒たちは、またiPadを使って谷川さんの詩を次々と読みつつ、詩を一つ選び、それに答える形で詩の創作に挑戦しました。
できあがった詩は色画用紙の台紙に貼り付けて、教室や廊下に掲示しました。第2時が12月最後の授業になったので、第3時の相互鑑賞は、その間に行われた谷川さんへのインタビューの報告を兼ねて、年明け(3学期最初)に行いました。
4.「詩を鑑賞する・創作する」ということ
詩の鑑賞指導というと、うっかりすると「比喩・擬人法・対句……」などの表現技法を教える授業になりがちです。また、鑑賞指導といいながら、実際は「この連は何を意味しているか」などと読解に偏った授業を行っているというのも、つい陥りやすいことといえるかもしれません。
詩を通して表現技法の学習を行うことは効果的だし、詩を解釈し、意味や作者の意図を読み解いていこうとすることも、「詩を読む」という行為の一部として自然なことですが、本来、「鑑賞」というのは、詩に触れて自分が感じたこと、心動かされたことと向き合うことなのではないかと思うのです。そして「詩」は、読解よりも鑑賞を重視したいとも。
今回の授業では、例えば、ある生徒は、谷川さんの詩について感想を述べた後、「次々と読んでみて、私は、はっとさせられる詩、気づかなかった見方を教えてくれる詩が好きなんだと気づきました。」と書いていました。この生徒は詩を読んで、詩について鑑賞するだけでなく、いつの間にか自分と向き合い、自分を見つめ直したのだともいえそうです。
創作にしても、私たち教師は「オリジナルであること」「誰にも似ていないこと」を生徒たちに要求します。もちろんそれは大切なことだし、そうであってほしいと思います。でも、私たちはプロの詩人を育てているわけではありません。優れた言語作品に出会い、それを「まねてみる」ことや、一つの作品に触発されて自分も書いてみるということを、もっと大切にしてもいいように思います。
そして、まねして書いたつもりでも、実は、そこにはその生徒の認識が表れ、その生徒の言葉が確かに紡ぎ出されているものです。
例えば、今回は次のような詩が生まれました。なかなかすてきだと思いませんか?






宗我部先生による谷川俊太郎さんへのインタビューの記事は、2019年4月下旬発行「中学校国語教育相談室」No.89に掲載しています。
「中学校国語教育相談室」No.89
次回は、俳句創作の実践をご紹介します。
宗我部義則(そがべ・よしのり)
1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。